おいしいクラフトビールのおはなし
【Pickup2022年6月号連携記事】
※本記事は、道北地域のフリーペーパーPickupの編集長によるビール工場見学日記であーる。
5月初旬、GWの長期休みで帰省した友人と一緒に、士別サムライブルワリーの工場を取材した。
この友人というのが大のクラフトビール好きで、帰省のたびに名寄のモルトリップへ通っている。下戸の筆者にとっては、心強い取材のお供。おもしろいビール談義が傍から味わえるのでは、という期待を抱き、心躍らせ士別まで車を走らせた・・・・
その前に、道北のクラフトビール事情をざっくり説明(雑)
アルコール初心者の大学生諸君にとっては、もしかしたらクラフトビールのワクワク感が伝わらないかもしれない。
というわけで、クラフトビールとはなんぞやと思った方は、まずはこちらのコラムをご覧あれ。クラフトビールを通じて日本のビール文化づくりに挑戦しているヤッホーブルーイングさんによる「よなよなエール」公式webサイトより。
そんなこんなで日本でもクラフトビール熱がじわじわときている頃に、旭川以北でいち早くブルワリーの立ち上げをしたのが、名寄市のお隣にある美深町の「美深白樺ブルワリー」。2019年夏に製造開始。
美深白樺ブルワリーはレストランBSBを併設し、なんだかポートランドっぽいかっこいい空間で、奥にある醸造所を横目に、白樺樹液を使ったクラフトビールのほかに道内のいちおしクラフトビールや、地元産羊のジンギスカン(タレに漬け込んだ平べったいのじゃないよ。サイコロ型のを焼いて塩コショウで食べるの、感動するくらい美味い)などなどのおいしい時間を過ごせるという、大人がワクワクしちゃうような文化をつくっている。
その美深白樺ブルワリーの醸造家の一人である風間健氏が、美深のクラフトビールを「醸造家自身と話しながらゆっくり味わえるバー」として、名寄市にbeer bar maltripを開いた。
筆者の友人が帰省のたびに通い詰めているバーですね。樽のクラフトビールをゆっくり味わえるだけじゃなく、なんだかおもしろい出会いがあるお店だったりする。クラフトビールでつながる大人の社交場。
そして2021年12月、醸造家・風間氏は士別市の企業・志BETSホールディングスとタッグを組み、「士別サムライブルワリー」を立ち上げた。
そのへんのストーリーは下記クラウドファンディングのページ(終了)に詳しく書いてあるので、ぜひご一読あれ。
いざ、工場見学!
JR士別駅のすぐ近く、煉瓦造りの倉庫が立ち並ぶその奥に工場はある。
レストランを併設する美深白樺ブルワリーとは違い、製造に特化できるつくりを重要視したのだろう。広々とした空間は、さらなる設備補充の余白とともに、これからの意気込みが伺える。
この日のために予習をしてきたという友人氏。
ビール知識もなければ何の準備もせず遊びに来てしまった筆者は頭が上がらないと思いながらも、「せっかくなので、改めて醸造の工程を教えていただいてもいいですか!」と、いかにも取材に来ました体。なんと面の皮の厚いことか。
【ビールづくり工程その1】 ブレンド
まず出迎えてくれたのは、麦芽(モルト)の山。主にイギリスとドイツのモルトを8種類仕入れており、いろんな配合のブレンドによってビールの味をつくっていく。
麦芽そのものを食べてみると、ほんのり甘い穀物の味がした。
麦芽とは、発芽した大麦の種子のことをさす。
デンプン分解酵素のアミラーゼを多量に含んでいるので、まずデンプンを糖に変えて酵母菌のエサをつくることで、アルコールを生成する。
500Lを醸造するのに100kgのモルトを使えばおおよそ5%程度、130kgのモルトを使えば、おおよそ6%程度のアルコール度数になるそうだ。
色の浅いライトなビールをつくるときは乾燥の浅いものを使ったり、逆に黒ビールなどは焙煎した麦芽を使ったりする(深く乾燥することで焙煎したようなローストモルトというものができる)。
乾燥具合、水分量によって糖度の高低が出るため、どのようなビールをつくりたいかのイメージと仕上がりのすり合わせは、この最初のブレンドの工程が重要だといえる。
アミラーゼは糊化したデンプンを糖質に変える働きがある。
そのため、まずはブレンドしたモルトを粉砕する。
麦芽粉砕である。
(麦芽粉砕ってなんかの技みたい。るろ剣で言うなら佐之助に手技でやってほしい、って勝手に妄想が走る・・・)
この粉砕機の中でローラーが回っていて、麦芽の殻を潰す。
粉々に粉砕された麦芽はNEXT STEPへ・・・・
【ビールづくり工程その2】 糖化
次に、お湯と粉砕した麦芽を仕込み窯に入れて「糖化」させる。
つまり、麦芽の中に入っている糖分をお湯に抽出し、「麦汁」をつくる作業だ。
麦芽のデンプンを糊化させる温度はだいたい55℃から70℃で、アミラーゼは73℃をピークにさらに高温で失活する。
(念のためちゃんと説明すると、麦芽に含まれるアミラーゼの内、デンプンの糖鎖を大まかに切断してオリゴ糖を生成するα-アミラーゼは約73℃、デンプンおよびオリゴ糖の糖鎖を端から細かく切断して麦芽糖を生成するβ-アミラーゼは約63℃で最も活性が高く、より高温では熱により変性して活性を失う)
こうした特性に適した温度で、おおよそ1時間ほど抽出する。
コーヒーを落とすような感じで。
【ビールづくり工程その3】 ろ過
次に、液体と殻を分ける「ろ過」。
タンクの下から液体を抜いて、ポンプの力を使って上からまた液体を落とす。それをずっと循環させてやることによって、麦芽の殻をろ過材として使い麦汁をきれいにしていくのだとか。
【ビールづくり工程その4】 煮沸
麦汁がきれいになったら、煮沸窯に移動させる。
麦汁自体はすごい甘い液体で、まるで砂糖水やシロップのような糖度の高い液体だ。それを100℃の温度でだいたい1時間ほど煮沸する。
この工程でホップを入れることで、麦汁に香ばしさとホップの香りや苦味をつける。
(あれ、副原料もこのタイミングだったかな?聞くの忘れたかも…)
そのほか殺菌の効果があったり、余剰タンパク質を熱変・析出させたり、わりと重要な工程である。
ちなみに、ろ過した後のタンクに残った麦芽の殻などは、今現在、士別市にあるしずお農場さんの羊が食べているそうな。
ビールカス食べてる羊とかおいしくないわけがない。
【ビールづくり工程その5】 発酵、そして熟成。
甘みがあって苦味・香りがついた麦汁を急速冷却し、発酵タンクへ移す。
タンクの中にイースト(酵母)を入れることによって、発酵のはじまり。
ここまでの仕込み作業で、だいたい丸1日かかるそうだ。
イーストを入れるとだいたい翌日くらいから発酵が始まり、そこからおおよそ1週間くらいが発酵期間。発酵温度は20℃くらい。
イーストってその見た目からは全然想像できないけれど、酵母という微生物で生き物なのである。人間と同じようにご飯を食べて、排出したり代謝活動をするわけで、イーストは糖分を食べてアルコールと炭酸ガスを出す。
ということは、発酵が進めば進むほど甘みがなくなり、アルコールがたくさん出るわけだ。
だいたい1週間かけて発酵が終わったら、20℃だった温度を3度くらいまで下げ、そこから3週間ほど熟成の期間とする。
熟成期間は二酸化炭素で圧力をかけて劣化しないように管理し、最終段階で味を確認しながら、そろそろ出荷できるなというタイミングで樽に詰めたり瓶に詰めたり、製品に落とし込んでいく。
1日仕込、1週間発酵、3週間熟成で、ビールづくりは1か月かかるのだ。
いざ、試飲!!!
もちろん、クラフトビール好きの友人が。
(編集部の撮影スタッフがうらめしそうに見てました)
※取材日は2022年5月4日
No.1 ウィートエール
仕込日:2022年4月2日
もうほぼほぼ完成していて、そろそろ出荷するという頃合い。
友人「普段お店で飲むより、めちゃめちゃフレッシュな味してるかも。爽やかな香りが尋常じゃない気がするんだけど、気のせい?」
風間「すごい厳密に言うと、揺らすだけでもちょっと味が変わるんですよ。名寄までの30分の間とか、直営店に品出しする数十秒とかの間でも多少味が変わってしまうので、まったく揺らされていない樽から出したすぐのものが一番おいしいとは言われていますね。」
ビールの本場ドイツでは「ビールは醸造所の煙突の影が落ちる場所で飲め」という格言があるのだとか。
なんだか生き物みたい。
No.2 雅IPA
仕込日:2022年4月9日/4月11日にDH
こちらもほぼ完成していて、出荷間近。
DHとは、ドライホッピングのこと。
ビール製造過程の製法のひとつで、発酵終了後の熟成段階においてホップを直接投入することでフレッシュなホップの香りをつける製法。IPAなどホップの香りが特徴的なものは、だいたいドライホッピング。
最初の工程でホップを多めに入れてしまうと、熱が高く苦味だけが多めに抽出されるため、苦味じゃなく香りだけをつけたいときに行うのだそうだ。20℃くらいの温度にホップを入れると、苦味が出ずにホップ本来の香りだけが抽出できる。
ホップといえば、よく画像で見る青々としたやつを思い浮かべるけれど…
ビールづくりで使うホップは「ペレット」と言って、ドッグフードみたいな加工されたもの。
あ、友人は「最高にうまい」しか言わないのでコメントは割愛します。
No.3 HAZY IPA
仕込日:2022年4月30日/5月3日にDH
ちょうど取材の前日にドライホッピングした、まだ発酵途中のもの。
友人「かすみがいっぱい残っている。えぐみがあって渋い。口の中がズルズルになる感じ。」
No.4 侍/SMASH ペールエール
仕込日:2022年4月29日
これもまだ熟成前で、これから冷却するかなというタイミングのもの。
あと3週間寝かせる。
友人「すごい特徴的な匂いする。まだ雑味しかない。ろ過される前って感じ。」
(匂いだけかいだけど、全然わからないのはたぶん筆者の鼻のせい…)
No.5 環
仕込日:2022年4月23日/4月25日にDH
熟成に入ってまだ1週間も経っていないもの。
友人「ちょっときれいになってるけど、まだちょっとえぐい。まだちょっと違う味が入ってる感じ。」
No.6 ミルクスタウト
仕込日:2022年4月17日
熟成をはじめて1週間ほどのもの。
見た目はとろみがあるように感じる。
友人「これがあの黒い焙煎麦芽使ってるやつですね!おいしい!」
ビールが飲めない筆者ですが、スタウトが一番好きだったりします。
コク・甘味があり濃厚な味わい。よき。
瓶がいいの?缶がいいの?論争
ゴールデンウィークの長期帰省の間、この日の取材同行しか予定を入れていなかった友人はなかなかご満悦の様子。
友人「最高にうまかった!瓶で飲むのとも全然違いますよね〜。やっぱり瓶より樽の方が鮮度はいいんですよね?最近缶とかもありますよね。」
風間「樽>缶>瓶って感じですかね。缶と瓶は状況によりますけど。」
まさかの瓶より缶の方がいいとか。
缶は日光を通さないので、日光による劣化が少ないとのこと。
ただ、工場の設備や容器への詰め方の技術にもよると・・・
詰め方に技術とかあんの?(←失礼)
風間「ビールを詰めるときに、缶の方が口が広いので酸素と触れる面積が広く、それを考えると瓶の方が劣化が少ないんですよ。でも日光による劣化を考えたら、缶の方が有利。
最近はクラフトビール業界でも缶が人気だけど、液体の詰め方にも技術がいるので、それが上手くないと、出来上がって2~3週間するとすごい劣化した味がしたりするんですよね。」
なるほど。
ビールづくりの奥は深い・・・・
じっくり工場見学させていただいて、本当にありがとうございます。
仕込みの様子を見学…とはなかなかいかないので、ご興味のある方はぜひ、こちらの動画を観られたし。
その晩、モルトリップで反省会、、、
と称したただの飲み会。
アルコールが苦手な体質のため普段はあまりの飲まないのだけれど、やっぱりおいしいものは飲みたい。
居酒屋の飲み放題のように水の如く注ぎ込むのではなく、ゆっくりしっぽりビールの香りと味と、その空間をいただくことができるのが、モルトリップのいいところ。
ジョッキに並々注がれたビールではなく、グラスにちょうどよく注がれた光り輝く液体。下戸の私でも手をつけられるSサイズがあるのが嬉しい。もう1杯飲んじゃうんだから。
おもしろいのは、そう広くない店内で予想もしない新しい出会いがあること。
友人を先に送り込み散々待たせた後でお店のドアを開いた筆者が見たのは、他のお客さんと会話を楽しんでいる友人氏。
そして意気揚々と、先方のご紹介と、先方への筆者の紹介をしてくれる友人氏。どこぞのブローカーであろうか。
おかげさまでそこにするりと混ざれてしまう、この空間。なんだか心地がいい。
お酒のお店で「出会いの場」というとちょっと身構えてしまうかもしれないけれど、それとは違ってなんとも健全な出会いの場である。
大人の「おもしろい」や「ワクワク」を掻き立ててくれるような、そんな素敵な場。
文化的な時間を楽しむことができる。
お酒自体、そしてお酒を提供する空間がつくりあげてきた文化・・・
今度はそんなことを模索する記事を書こうかなと思っている。
Pickup本誌でね。
乞うご期待。