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壊れそうな我が家のはなし(15)

ダイヤル式の南京錠を破壊し、家を出てしまった実父。
外出するときに着ているポロシャツもズボンもそのまま部屋に残されており、服装は厚手のパジャマ、足元にはサンダルのみだろう。
実母にはとりあえず警察に電話してもらい、私と夫はそれぞれの会社に遅刻、場合によっては欠勤すると連絡。いつもの「行方不明」と同様、私が警察署に向かった。夫と、息子は家の近隣を探しに行くという。
このころは新型コロナウイルスの流行直後で、学校は長期の休み。街も人出が少なく、車で警察署へ向かっている最中も、なんだか気持ち悪い静けさを感じていた。

行方不明者の捜索届出に関しては、過去2回出しており、3回目ともなると、かなり慣れてしまった印象がある。ただ、過去2回が夕刻以降だったことと違い、今回は警察官の方々の出勤時間と重なったため、いつもよりもざわついた署内だった。

いつも通り、服装を聞かれ、出て行った状況を説明し、立ち寄りそうなところを思いついた分話し、最後に「見つかった場合、本人が帰りたくないと言った意思表示を示した場合は、居場所をお教えできません」と念を押される。これは、自宅が嫌になって本人の意思で家出をした場合のための確認事項なのだろうし、警察官の方も「今回はこの事項に当てはまらないと思いますが」と前置きしつつこちらに言っているので、当てはまらないと思うと答えつつも、最近、どこかに帰りたがる実父の場合、帰りたくないと言い出したらどうなるんだろうかと少々不安を感じた。

一通りの事務作業が終わり、いつもなら帰宅するのだが、少し待たされた後、カウンターの奥から出てきた警察官の方が一言、「似た状況の人を見つけましたから、少々確認しますね」と。似たような姿の人を発見したと言い、実父かどうか確認している最中とのこと。「ご本人だったら、連れて帰っていただきますので、お待ちください」。言われたことを即座に、家族向けLINEグループに入れた。
「似た状況」が「パジャマ姿の認知症」かはわからない。
少し待って、再び警察官が私のところに来て、その「似た状況」が実父の名前を話していると教えてくれた。その実父と思われる人は、パジャマの肘部分を怪我しているようだともいう。発見された場所を聞くと、それは我が家より直線距離だと2.5kmほど離れた橋の上。そこにたどり着くには、踏切を渡り、以前勤めていて辞めざるを得なかった調理師学校の前を通らなければいけないと思う。そして、その橋の先には、調理師学校の後に行っていた魚市場も、そのずっと先には自転車で突っ込んだ工場もある。
一体どこに行こうとしていたのか。
糖尿病も持っていて足がむくんでおり、スムーズに歩けない実父にとって、何分ぐらい寒い中歩いたのだろうか。

しばらくして、パトカーで連れてこられたパジャマ姿の実父は、とてもはしゃいでいる様子で、私の顔を見るなり「よう!」と右手をあげた。
いや、「よう!」じゃない。どういうつもり?とつい声を荒げてしまう。
こっちの心配や恐ろしい想像などは当然知らず、本人は陽気だ。
父に間違いないです、ありがとうございましたとお礼を言うと、隣で実父が「世話になったね」ととても他人事のように添え、頭に血が上るのが分かった。

車に乗せて連れ帰り、実父を実母に託して、遅めの朝食を摂った。10時にもなっていないのに、夕方のような疲労感を感じていたが、出勤した。私や夫が出勤した後の実父は、食後、実母の運転する車でデイサービスに連れていかれたが、その日は施設でうたた寝をしていたようだ。

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「もう難しいよ。」
仕事からの帰宅後、実母に自宅で看ることは難しいのではないかと訴えた。
実母も同じ意見だった。

ケアマネをしている従妹Yに連絡を取り、今後のことを相談することにした。

(続く)

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