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壊れそうな我が家のはなし

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アルツハイマー型認知症を発症した元職人の実父と、自分も含めた家族の動きをあれこれ書き綴っています。 同じ病名でも、症状は様々かと思います。 しかし、我が家の場合はこんな感じだった…
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2021年3月の記事一覧

壊れそうな我が家のはなし(8)

季節感がなくなる話は以前、4回目の記事に書いたが、ある年の元旦の話。 家の中で父に会った息子が「じいちゃん、あけましておめでとう」とあいさつをしたところキョトンとされたらしい。実父が認知症のせいで、年が改まったことを分かっていないことに気づいた息子は丁寧に、今日は1月1日だと説明したそうだが、すると、自室に戻った実父は息子を呼び、裸銭で悪いが、と前置きして、1万円札をお年玉として握らせたそうだ。 だがその翌日、新聞が休刊日で、私が元旦に届いた分厚い新聞を片付けるのを見た実

壊れそうな我が家のはなし(7)

認知症のことを「多幸症」ともいうらしい。 それにしても、よく言ったもんだ。 つらいことは忘れてしまい、常に楽しそうだ。 父を見ると、つらい現実を記憶の中に沈殿させ、楽しいころの記憶が上澄みとなって残っているのがよくわかる。 父が少し「おかしく」なっていることに、家族が気づくよりも前の話。 両親には地元のクラッシック楽団で演奏する知り合いがいて、地元のコンサートホールでの公演チケットを手にしては、足を運ぶことがあった。行き始めたのは父がまだ現役のころだったので、特段の問題も

壊れそうな我が家のはなし(6)

実父の両親=父方の祖父母に、私は会ったことがない。 正確には、実父の父(=祖父)は私が生まれたころにはまだ存命だったらしいが、私が物心つく前に亡くなっているので、記憶にはない。 実父には異父兄・姉がいる他は、妹がふたり、弟が3人いる。異父兄は早々に家を離れたようで、実父は長男として貧しい家を支えていたようだ。妹・弟にとってとても厳しい兄であった実父は、疎ましく感じられることも多かったようで、同じ市内に住んでいながら、私が幼いころには、父のきょうだいたちが寄り付くことはほぼなく

壊れそうな我が家のはなし(5)

私と夫、息子の3人で出かけていた、初秋の夕方のこと。南方の海には台風がいて、若干風が強いけれども、心地よい時間だった。 ふとした瞬間にスマホに何件かの着信があっていることに気づいて、履歴を開いたら、それはすべて短時間に、実母から発信されたものだった。何ごとかと思い、電話をしてみたら、実母が疲れ果てた声でこう言った。 「お父さんが帰ってこないの」 聞けば、実母がウトウトしていた15時ごろ、どうやら自転車で外出したようで、かれこれ3時間ほど戻らないという。 実父は、アルツハイマ