マクドナルドAI動画から、テレビの技術課題について(CGの経験より)
はじめに
マクドナルドのAI動画がいろいろと話題になっていますが、
多くの意見として出ている「気持ち悪い」という精神的な点では無く、
テレビ映像の技術的課題を語ります。
テレビ映像の技術課題について、AI制作者だけでなく、テレビ関係者、CG映像制作者の方々にも読んでいただきたいです。
後述しますが、現在マクドナルドのCMはWEB限定です。
それでも役に立つ情報です。
(参考記事、こちらには技術的解説はありません)
説明前提に私の背景について
私は「コスモスタジオ」と言うポストプロダクションで日本初のCGアプリ導入と制作に携わりました。
ポストプロダクションとは、撮影した映像の二次処理、編集、音入れなどを行う会社です。
テレビ映像の編集技術と知識を持っている状態から、CG映像制作に入りました。
当時CGは、プログラマーが開発したCGを動画にしているのが一般的でした。
当時の東洋現像所(現IMAGICA)さんが制作していました。
CGアプリを導入したのは「コスモスタジオ」が初で、導入アプリは「Wave Front」 (現 Maya) です。
最初は簡単なモデリングと質感しか作れず、東洋現像所さん(開発CG)のように多彩な表現は出来ませんでした。
しかし、色々と機能が追加、進化して、今ではCGアプリを使って映像制作するのも当たり前の時代になりました。
その過程で、CGに参入してくる企業などが増えました。
それらCG参入には以下の3種類がありました。
1・映像系の会社がCG参入
2・映像と無関係の会社がCG参入
3・映像経験の無いクリエイターがCG参入
CG映像の技術課題が発生したのが「2と3」です。
「コスモスタジオ」も「東洋現像所」も「1」です。
このCG映像の技術課題が、そのままマクドナルドのAI動画に繋がると考えます。
マクドナルドのAI動画はWEB限定でテレビ放映されていませんが、
いずれ訪れるであろうAI動画のテレビ放映に関するAI生成の課題として、お読みください。
技術課題
色
テレビの色は何を基準にしてるかご存知ですか?
技術的には、カラーバーと言われるもので調整していますが、撮影素材の画質に求められる色の基準は、
『肌色が綺麗に見える』です。
そのため、メイクさん、照明さん、などが腕をふるいます。 照明はただ明るくしてるだけじゃないんです。 肌色が綺麗に見えるように工夫します。
カメラも技術的に設定します。
撮影現場で白い紙を持ったスタッフを見たことありませんか?
これは「ホワイトバランス」と言って白を基準に全てのカメラで色が同一となるように調整しているのです。
手書きの絵師さんにとっては美しくなんて当然の事なのでテレビの裏話知らなくても意識した色づかいになります。
CGにて説明したように、動画の知識無くAI生成に飛び込んだ方にとっては、ビデオカメラで撮影した動画をそのまま再生したような制作姿勢になってしまうのではないでしょうか。
趣味で投稿するには、そこまでこだわらなくて良いですけど、
納品するとしたら「プロ」ですから、
肌色が『納品先の媒体』で綺麗か?は意識しましょう。
--媒体
媒体、テレビは最終的にテレビです。
昔はブラウン管、今は液晶、有機ELなど。
ほか、映画デジタル、フィルム。
ポスターなどの印刷物。
これらの発色は、PCのモニターとは異なります。
MacのモニターとPhotoshopなどの組み合わせは、印刷の色に適した環境を作れるので、見た目がそれなりに参考になりますが、
テレビやフィルムでは全く違ってきます。
(Winのモニターについてはよく知りません・・・Winでは出来ないと言う意味ではありません)
これも、印刷を利用している絵師さんにとっては常識ですが、
いきなりAIに飛び込んだ方は意識していない方もいると思います。
テレビ動画を作るならテレビに向いた色の確認が必要です。
--テレビで使えない色
テレビでは使えない色があります。
色の輝度は「白」が一番高い訳ではありません。
黄色など原色の輝度が高くなります。
輝度に限らず映像はいろいろと注意すべき事項があります。
これらを確認するには「波形モニター」と呼ばれる機器が必要です。
こちらに詳しい記事が有ります。ご存知ない方はお読みください。
テレビに納品する場合、波形チェックは必須です。
編集室で困ることになります。
実際、波形の確認せずに納品されたCG動画を、編集室でなんとか調整したと言う事例が過去にありました。
個人デザイナーさんでは、波形モニターは高くて買えない・・・という問題がありました。
どうしていたか?
発注した制作会社に波形モニターがある場合、都度持ち込んで波形チェックするなどしていました。
AI制作者として予算的に波形チェックが出来ない場合、出来ないからと無関心になるのでは無くて、発注元に相談しましょう。
最終的に編集室が困りますし、意図した映像と違う雰囲気になってしまう場合もあります。
(波形モニターとはこういう製品です)
個人の場合、Adobe Premiere Proについている波形モニターを目安にするのも手です。
Lumetri スコープを使用したカラーの監視
https://helpx.adobe.com/jp/premiere-pro/using/lumetri-scopes.html
--8bitより10bit
8bitの1650万色では足りません。
8bitでは白から黒へのグラデーションは256段階でしか表現できません。
解像度512では2ラインずつの繰り返しになります。
白から黒で色不足ですから、暗い場面、黒の中でのグラデーションは完全に色数が足りません。
8bitのデジタルテレビで暗い場面の黒が潰れて見えるのはこのためです。
テレビに納品する側としては、8bitではだめです(絶対的なルールがあるわけでは無いですが、心がけましょう)。
bit数とフォーマットの関連は、こちらが参考になります。
照明
色と関係しますが、照明は大切です。
テレビに限らず、スチール写真も同じです。
テレビ照明で人物の基本は、逆光で手前から柔らかい光を当てる、です。
コンパクトカメラでは、逆光にフラッシュ撮影などが有名ですね。
逆光にすると輪郭が浮かび上がり、そのかわり顔が暗くなるので手前から光を当てます。
手前と言っても立体感が出るようにやや斜めから。
鼻の影が目立たないようにさらに反対側からも。
顎の影も消します。
もちろん肌色は綺麗に。
CGは、テレビの照明みたいな微調整が可能ですが、
AI生成でそこまでこだわっている方はいないのでは?
と言うかAIで照明の指定はここまで、細かく出来ません。
(Midjourneyしか知らないですが)
それでも納品物は、可能な限りの照明は当てましょう。
昔書いた照明に関する記事ですが、現行のMIdjourney V6以降では使えない事が判りました。
自動的に照明がセットされて、こちらの指定が有効になりません。。
おかげで、暗い顔になる事が多いです。
生成AI画像開発者の方々、照明の指定、なんとかならないでしょうか?
テレフレ
作った解像度の画の全てがテレビでみやすい訳ではありません。
そのため、セーフティエリアと呼ばれる考え方があります。
通称「テレフレ(テレビフレームの略)と呼ばれます。
特にブラウン管では影響が大きかったです。
CGで文字などが画面一杯に使われていて、テレフレをオーバーしていると、
ブラウン管テレビでは画面からはみ出して文字が切れてしまいます。
デジタルになった現在のテレビでも意識が必要です。
こちらに詳細な記事がありますので、お読みください。
ポケモンショック
ご存知無い方も多いと思います。
まずは、こちらの記事をお読みください。
デジタル編集が行われるようになり、瞬間的な画面転換が、格好いい演出として行われるようになりました。
AI生成動画をそのように編集している方もいると思いますが、
テレビで放映するには「ポケモンショック」は意識しなくてはいけません。
編集室で気づくでしょうけど、せっかく作ってもボツになりますよ。
上記記事の中の「アニメーション等の映像手法に関するガイドライン」がリンク切れしているので、こちらにリンクしておきます。
ここにも映像信号の話が出ています。
波形モニター必要でしょ。
あとがき
AI生成動画に限らず、CG動画も、これらを参考にして頂けると幸いです。
他、気づいた事があれば追記します。
余談
『「BALLAD/名もなき恋のうた」』シークレットイベントが気になった方は、こちらをどうぞ。
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