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映画「PERFECT DAYS」を見てきたけど

1月に見た映画の感想を5月に書かないで欲しい。これはヴィム・ヴェンダースの最新作で、トイレ清掃員の役所広司が主人公です。と言っても、ヴィム・ヴェンダースの映画って「ベルリン天使の詩」しか見たことなかった。この映画の素晴らしいところはまず役所広司が主人公なところですよね。と言っても、役所広司ってタマホームのCMでしか知らないんですけど、演技が素晴らしかったです。特に、役所広司がキレ散らかすシーンはかなり良かったですね。これは役所広司とペアで仕事している若者が突然飛んじゃって仕方なく役所広司一人で朝番から夜番までトイレ掃除をやらなければならなくなった時の役所広司がキレているシーンなのですが、本当に役所広司が仕事を押し付けられて日常を崩されているシチュエーションが発生したらこうなるんだろうなというリアリティがあった。なんというか、会社で日常を破壊するシフトを通知された時の先輩にすごく似ていて、どうしようもなく許しがたいけど受け入れざるを得ない屈辱的で悲劇的な時に出る声の吐き捨てる感じとか、すごくリアルだったのです。

でもどうして日常を崩されると嫌なんでしょうね。日常が崩されてこそ、そこにドラマが生まれるというのに。日常というのは一種の牢獄であり、安寧でもあるんですよね。役所広司の日常は豊かではないけれど幸せそうに描写されます。お昼になると役所広司はいつもコンビニ飯を食べるベンチに腰掛けて、小さなハーフカメラを取り出して木漏れ日の写真を撮ります。そしてそれを現像してプリントした写真を何枚もお菓子の缶に溜め込んでいく。同じような構図の木漏れ日の写真が何枚も出てくるところは正直ホラーなんでゾっとするんですけど、牢獄の窓から見える景色っていつも同じですよね。日常が崩れていないことを確かめるために撮影しているのかな。

だから最後の完璧な日常を崩された役所広司のワンショット長回しのシーンは結構グっとくるんですよね。木漏れ日って地面に目を向けると葉がレンズのような効果を持つことで大小様々な光の模様が映し出されますけど、その一つである役所広司、完璧な日常を繰り返していた役所広司のささやかな疑念、それを閉じ込めようか、考えることもやめようか、グッと感情を抑えるのか解放するのか、そのどちらも表現した驚異的なシーンで映画は幕を下ろすんですけど、かなり凄いと思います。映画を見ている私たちだけに見せているというね。みんな表には出さないけれど、そういう表情の時ってありますもんね。

「こういう生活も悪くないかも〜」という気持ちにもなりましたが、やはり日常は崩されるべきだとも思いました。役所広司レベルのパーフェクト・デイズになると、もう自分の力では崩すことができぬほど、空き缶に歴史が積まれてしまうんですよね。中途半端なパーフェクトを目指していきたいと思います。

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