見出し画像

フリーエージェンシーを振り返って

フリーエージェンシーもほぼ終わり、来シーズンを迎えるチームのロスターも固まってきて方向性も見えてきました(デイムとハーデンに関わるチーム以外ですが)。そこで今回はちょっとゆるく、フリーエージェンシーの興味深かった動きや最近のNBAのトレンドなんかを紹介していきます。

1. ジャズのポール・リードへのオファーシート

ジャズがシクサーズのRFAのポール・リードにちょっと変わった契約をオファーしました。

3年契約ですが、保証は1年目の$7.3Mのみ。2年目の$7.3Mと3年目の$7.3Mはチームが2023-24のプレーオフのセカンド・ラウンドまで進めば保証されると言う内容です。ジャズがシクサーズにマッチさせないような契約条項を詰め込んでいたのがわかります。

シクサーズはこの6シーズンで5回セカンド・ラウンドに進出しています(そして負けています)。一方のジャズはプレーオフ進出争いに入るチームで、2年目になってもセカンド・ラウンド進出はむずかしそうです。シクサーズはこのオファーシートにマッチすると確実に2年目を保証する事になるかもしれません。しかも14人でタックスを$7.3Mオーバーしています。そのままリードの契約がタックス超えになってしまった計算になります。

このような少しでもサラリーを多くもらいたい選手相手に保証がないオファーシートをオファーする事は珍しく、The Athleticのジョン・ホリンジャー曰く、「現実的にリードのようなロールプレーヤーへのオファーでしか見る事はできない」との事です。

2. クリッパーズのバルサ・コプリヴィツァ獲得

ジョン・ホリンジャーが今の市場での2巡目指名権の価値について話していたので、そのまま紹介します

ホリンジャー:「フリーエージェンシーでもっとも当惑したトレードのひとつはクリッパーズがピストンズに$2.1Mを払って、パルチザン・ベオグラードでプレーする2021年の57位指名のバルサ・コプリヴィツァの権利を買った事だった。

はぁ?

これがその本質だ。新CBAでセカンド・エプロンを超えるチームはキャッシュが使えなくなる。クリッパーズはかなりエプロンを超えていて、ポール・ジョージとカワイ・レナードがいる限り、キャップはそのままだ。

じゃあ、どうするんだ?

6/30の深夜までにキャッシュを使って、今後のトレードで使える選手に変えるんだ。彼らは未来の2巡目を買おうとしたが断られたと思われる。最近では2巡目の値段も急激にあがり、レイカーズは今年のドラフトで2巡目指名権を買い取るために$4Mを払っている。

クリッパーズは、レジー・ジャクソンとメイソン・プラムリーのトレードで残った$2.1Mのトレード・エクセプションでケニオン・マーティンを獲得した。こんなに小さなエクセプションが意味ある未来のために実際に使われるのは稀だ。セカンド・エプロン超えのチームが前年度に生み出したトレード・エクセプションを使えるのは今年で最後だ。」

3. パティー・ミルズ、タイタイ・ワシントン、ウズマン・ガルーバ

面白い事に、パティー・ミルズ、タイタイ・ワシントン、ウズマン・ガルーバは同時に5チームトレードでロケッツから出されて、その直後にパティー・ミルズ、タイタイ・ワシントン、ウズマン・ガルーバはお互いトレードされる事になりました。

ちょっと待って?今何て言った?

何言っているかわからないと思いますが、タイムラインは次のようになります。

  1. ミルズがネッツからワシントンとガルーバのいるロケッツにトレードされ、

  2. それからロケッツのディロン・ブルックスのサイン&トレードの一環として、ミルズがサンダーに、ワシントンガルーバがホークスにトレードに出されました。

  3. ②のトレードが終わった後、サンダーとホークスが、ミズルワシントンガルーバ、ルーディー・ゲイと指名権のトレードをしました。

トレードされたチーム順序は、ミルズ:ネッツ→ロケッツ→サンダー→ホークス
ワシントンとガルーバ:ロケッツ→ホークス→サンダーとなっています。

こんなにややこしい事をせずに最初からこのトレード(例:ミルズのネッツとホークスのトレード)はできたようですが、これでホークスはワシントンとガルーバの小さなトレード・エクセプションをつくる事ができたようです。サンダーに関しては、3人の選手を受け入れるキャップスペースをつくる事ができ、より多くの2巡目指名権を獲得できています(詳しくは後述)。

4. ロケッツのディロン・ブルックスのサイン&トレード

この夏のロケッツのフリーエージェンシー・ブリッツの中で最もブリッツしたトレードでした。

なぜなら、ロケッツはディロン・ブルックスと契約できるキャップスペースがあったにも関わらず、ブルックスをサイン&トレードするために、5つの2巡目指名権とキャッシュを出して、トレードをよりまとめるのが困難な5チーム・トレードに広げたからです。

いったいなぜなのでしょうか?

おそらくブルック・ロペスとの契約交渉が絡んでいると思われます。

ロケッツはロペスとの契約合意が間近だと言われていましたが、結局はロペスはバックスと2年$48Mの再契約をします。もしロケッツがロペスとバックスが出した同金額の$25Mで契約し、FVVと$40.8Mで契約をした場合、キャップスペースがなくなってしまい、ブルックスを獲得するには複雑なサイン&トレードをまとめる必要が出てきます。ロケッツの最初の計画は、FVV、ロペス、ブルックスの獲得だったのでしょう。

ただ、バックスはヤニスをキープするためにロペスにはロケッツ以上払っていたのは確実なので、ロケッツはロペスがバックスから最大限のお金を引き出すレバレッジに使われたのかもしれません。(もしかしたら、バックスはあまりプレーしないであろう双子の弟のロビンとも契約するというおまけをつけたのかもしれません)。

ロケッツはロペスがバックスと再契約をした翌日にFVVと契約合意をし、そしてディロン・ブルックスのトレードはFVVの契約合意をした翌日に成立させています。ロペスが取れなくてもブルックスを敢えてサイン&トレードをしたのは、おそらく他チームとの多角トレードの交渉がまとまりつつあったため、提案者のロケッツ自身が抜け出せなかったのだと思われます。

それにロケッツはルーキーがふたり入ったため、ロスターも一杯でした。FVVもブルックスのベテラン選手もいます。若手のプレー時間には限りがあるので、そのいくつかの契約をベテランの実質1年契約に変えて来年以降のロスター構築の自由度をあげる狙いもあったのかもしれません。

結局、ロケッツは5つの2巡目指名権と最近の3人の1巡目指名の選手を犠牲にしてブルックスを獲得し、残ったキャップスペースを使うために、相場よりも高い契約でジェフ・グリーンとジョック・ランデールする事にしました。彼らの契約は$8Mと高くなく、保証は初年度だけなので、トレードデッドラインで使い勝手が良いトレードアセットになり得ます。ホリンジャーは彼らの事を「生けるトレード・エクセプション」と呼んでいました。

5. サンダーの錬金術

サンダーにはこの夏に$34Mのキャップスペースがありました。そのようなキャップスペースがあった多くのチームはその全てを効果的に使う事に苦労していて、キャップスペースは以前のようなものではなくなってきています。

サンダーはその空いたスペースを使って、他チームが捨てたがっている契約を受け入れてきました。最初にドラフトで順位を12位から10位まで少しだけあげるためにマブスから$17Mのダヴィズ・バータンスを吸収し、残っているスペースでミルズとヴィクター・オラディポの契約も飲み込んで2巡目指名権を5つ集めました。

そして、サンダーが前述したロケッツの5チーム・トレードに食い込んだのも大したもので、見事としか言いようがありません。なぜなら、ホークスはジョン・コリンズをサラリーダンプした時につくったトレード・エクセプションで、ミルズをワシントンやガルーバと一緒に直接吸収する事もできたので、ロケッツはブルックスのサイン&トレードでサンダーを含めなくても良かったのです。それにも関わらず、サンダーはミルズを引き受ける代わりにロケッツから2巡目指名権を3つも引き出しました。その時にワシントンとガルーバの契約を引き受けたホークスがロケッツから得た2巡目は2つだけです。

本当にすごいのは、サンダーはそこで止まらなかった事です。サンダーはミルズを得た後少しの間キャップスペースがなくなっていましたが、タックスラインまでは$20Mまであるので、まだ他の契約を吸収できます。それがホークスとのトレードでした。

そのトレード(ミズル ⇄ ワシントン、ガルーバ、ルーディー・ゲイ)でサンダーは今度はホークスから2巡目指名権をひとつゲットしました。結果、サンダーはミルズで2巡目指名権を4つ獲得できた事になります。何もないところから2巡目指名権を4つも生み出してしまいました。まさにキャップスペースを使った錬金術と言っていいでしょう。2巡目指名権の価格が高くなっていると前述しましたが、$6.8Mのミルズで4つも2巡目指名権を生み出したサンダーのサム・プレスティは流石としか言いようがありません。

サンダーはこの戦略を限界までやっています。2巡目指名権取得のために、オフシーズンのロスターは22人に膨れ上がってしまいました(オフシーズンの上限は21人)。そのためルーディー・ゲイをウェイブして21人に減らしましたが、開幕までに15人にまで減らさなければいけません。オラディポは間違いなくカットされるでしょうが、他に誰をウェイブするかは厳しい選択になりそうです。

そして、まだロスター枠が空いているウォリアーズやバックスのようなタックス超えチームがそのウェイブを待ち構えています。ケンリッチ・ウィリアムズやアイザィア・ジョー(ないとは思いますが)やガルーバが出されればそれらのチームにとっては大きなチャンスです。

サンダーのキャップはタックスまで$15.7Mです。まだ時間もキャップも余裕があります。更なる2巡目指名権獲得もあるかもしれません。9月までは目が離せません。

6. リネゴシエーション&エクステンション

すでに今年はキャップスペースを効果的にすべて使うのはむずかしいと前述しましたが、キャップスペースをフリーエージェンシーやトレードで使うのを放棄したチームもあります。それはキングスとジャズです。

両チームともキャップスペースの金額を今いる選手とのリネゴシエーション&エクステンションに使いました。

ジャズは$14.3Mの契約が残っていたジョーダン・クラークソンとリネゴシエーション&エクステンションで3年$51.5Mの契約延長をし、クラークソンの来シーズンのサラリーは$14.3M→$23.4Mにアップ。
キングスは$22Mの契約が残っていたドマンタス・サボニスとリネゴシエーション&エクステンションで5年$217Mの契約延長をし、サボニスの来シーズンのサラリーは$22M→$30.6Mにあがりました。

リネゴシエーション&エクステンションは、2012年から昨シーズンのマイルス・ターナーまではたった3回しか使われていない特殊な契約延長の仕方で、Spotracのキース・スマートによると、①2017年:ロバート・コヴィントンとシクサーズ、②2015年:ウィルソン・チャンドラーとナゲッツ、③2015年:ダニロ・ガリナリとナゲッツがあっただけだそうです。それが今年に入ってからすでに3回もありました。

リネゴシエーション&エクステンションが増えた理由に、スター選手たちが契約延長をしてしまうためにフリーエージェンシー市場に出てこなくなった事が考えられます。前述したロケッツのように、夏に大きなキャップスペースを空けたにも関わらず、チームはその全てを効率よく使えなくなってきています。しかも新CBAでは、2023-24シーズンの開幕までにキャップの90%であるサラリーフロアーにサラリーが達しないチームはタックス配給の50%しかもらえない事になっているので(2024-25シーズンから無配給になる)、チームはなんとかしてフロアーまでお金を使わなくてはいけなくなっています。

そのため今後もリネゴシエーション&エクステンションがトレンドになってくると思われます。

これまでのリネゴシエーション&エクステンションは、残っているキャップを使って今シーズンのサラリーをバンプアップする代わりに、契約延長金額は40%ダウンから始められるので、チームにとっては選手をリーズナブルなキャップヒットで契約でき、選手にとってはトータルで得をするような使われ方でした。例えば、マイルス・ターナーの場合は、リネゴシエーションでサラリーを$18M→$35Mにする代わりに、契約延長は$20.9Mと$19.9Mになっているので、チーム的にはターナーを割安感のある数字で契約でき、ターナー的には2年でおよそ$60Mが増えた事になります。同じようにクラークソンも$14.3M→$23.4Mにして$14M+$14.2Mと続きます。

しかし、サボニスのリネゴシエーション&エクステンションは逆を行きました。契約延長金額の方が大きいのです。以前の契約延長は、契約最後の年のサラリーの20%の昇給から始まるだけでしたが、今シーズンから40%の昇給にあがりました。キングスはサボニスの契約延長の初年度のサラリーをあげるために、今シーズンのサラリーをリネゴシエーションして、契約延長の初年度のサラリーを$41.8Mまであげました。その数字はその年のマックス契約の$42.6Mとほぼ同額です。さっそく新CBAのメリットを駆使していました。

これまでキングスのフロントオフィスはあまりクリエイティブなイメージはありませんでしたが、今のGMのモンテ・マクネアーとアシスタントGMのウェス・ウィルコックスが球団の新しい風を吹き込んでいるのかもしれません。

7. ミニマム契約

ESPNのケヴィン・ペルトンによると、前年度に最低でも1500分プレーした選手でミニマム契約をした人数は2022年で2人だけでしたが、2023年では8人にまで増えています。

新CBAではセカンド・エプロンを超えたチームはミニMLEが使えなくなっています。その影響が出ているのかもしれません。そこで詳しくこの夏のFAでそれに当てはまる選手は誰だったのか見てみると…

  • エリック・ゴードン(サンズ)

  • ドリュー・ユーバンクス(サンズ)

  • デミオン・リー(サンズ)

  • ボルボル(サンズ)

  • マリック・ビーズリー(バックス)

  • トーレイ・クレイグ(ブルズ)

  • パトリック・ベヴァリー(シクサーズ)

  • ジョッシュ・リチャードソン(ヒート)

昨年1500分プレーしたFAにはまだクリスチャン・ウッドとケリー・ウーブレもいるので、ふたりがここに入る可能性もあります。

この中でセカンド・エプロンを超えているチームはサンズのみです。そのため、そのような選手たちが増えたのは新CBAではなく、ただバックス、シクサーズ、ヒートのようなタックスライン超えのチームがタックスを気にしているだけかもしれません。もしくは、彼らの大半が優勝候補チームに行きたがったとも考えられます。特にゴードン、ビーズリー、ベヴァリーはまだまだ需要があると思うので、彼らに関しては🏆 > 💰なのかもしれません。

また、ESPNのボビー・マークスは、ホークス、ネッツ、ホーネッツ、グリズリーズ、ブレイザーズ、ウィザーズにはまだ$12.4MのMLEが残っていて、ピストンズ、ロケッツ、マジック、スパーズ、ジャズにはまだ$7.7Mのルーム・エクセプションが残っているため、これはフリーエージェンシーの金が干上がってしまったためではないと指摘しています。

ベテランの選手たちが稼ぎよりも勝利を優先してミニマムを選んでいるのか、それとも再建チームが勝ちにいかずに安く若い選手しか選ばなくなっているのか、まだ明確な答えは見えません。このミニマムのトレンドがこのまま続いて行くのか見守って行く必要がありそうです。

8. ジャイルズ・ルールをはじめて使ったのはウィンドラー!?

ニックスがディラン・ウィンドラーと2Way契約をしました。

2Way契約なので地味なニュースだと思われがちですが、これは新CBAで初登場した「ハリー・ジャイルズ・ルール」が初めて使われて、しかもびっくりなことに、その初使用はジャイルズ本人ではなくウィンドラーでした!

以前のCBAでは2Way契約をするには3年以下の選手のみでしたが、新CBAではもしロスターにいても1シーズン全休したら4年選手でも2Way契約ができるようになりました。ジャイルズのエージェントがNBPAに掛け合って、全休したシーズンをその3年にカウントしないように持ちかけたのがきっかけです。ジャイルズのデューク大時代のチームメイトだったジェイソン・テイタムも個人的にリーグに連絡をして、そのルールを変えるように頼んだそうです。ジャイルズを念頭につくられたルールでしたが、それをはじめて使ったのが1年目を全休した4年選手のウィンドラーだったというオチでした。ジャイルズが2Way契約をしたニュースはまだ聞きません(7/28時点)。

(ジャイルズとテイタム Photo by Jim Poorten/Getty Images)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?