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カイリー・アーヴィンのトレード

カイリー・アーヴィンのトレードにはちょっとビックリしました。トレード要求してから数日で決まった速さにも驚いたんですが、もっと驚いたのはそのリターンの少なさです。

今回ネッツのオールスターのカイリー・アーヴィンのトレード・リターン

  • 
スペンサー・ディンウィディー


  • ドリアン・フィニー - スミス(以降DFS)


  • 2029年1巡目指名権(プロテクションなし)


  • 2027年2巡目指名権


  • 2029年2巡目指名権

ちなみに昨年のオフシーズンでのトレードとリターンを比較すると…

カイリーと同じオールスターのドノヴァン・ミッチェルのトレード・リターン

  • ラウリ・マーカネン(後にオールスター)


  • コリン・セクストン


  • オチャイ・アバジ


  • 2025年1巡目指名権


  • 2026年ピックスワップ


  • 2027年1巡目指名権


  • 2028年ピックスワップ


  • 2029年1巡目指名権

去年オールスターだったデジョンテ・マリーのトレード・リターン

  • ダニロ・ガリナリ


  • 2023年1巡目指名権(ニックス
)

  • 2025年1巡目指名権


  • 2026年ピックスワップ


  • 2027年1巡目指名権

そして、ネッツが去年シーズン中にオールスターのジェームズ・ハーデン(プレーヤー・オプションでFAになる可能性あり)をトレードした時のリターン

  • ベン・シモンズ(マックス選手)


  • セス・カリー


  • アンドレ・ドラモンド


  • 2022年1巡目指名権(プロテクションなし)


  • 2027年1巡目指名権(トップ8プロテクション)

こうして見ると、カイリーのトレードは1巡目指名権がひとつ足りないか、期待ができる若手(ジョッシュ・グリーン)が足りないように思えます。

これはシーズン中のトレードなので仕方ないのかもしれませんが、O.G.・アヌノビーが1巡目3つと言われている市場で、さすがにオールNBA級のプレーをしている選手に対してのリターンが少な過ぎます。カイリーは契約が最後の年なのでマブスにもフライトリスクがあるのは理解できますが、プライム中の殿堂入り(?)する選手ですよ!? まさに1000円を500円玉に両替したようなトレードのようです(DFSやディンウィディーのファンの皆さん、すいません🙏)。

しかし、実はカイリーは夏にもトレード要求をしていて、その時もカイリーが望むような契約をしてくれるチームが見つからなかったため、オプトインして仕方なくネッツに戻っていました。おそらく、オプトインした$36Mにを払ってくれるチームがいなかったか、長期的契約にコミットしてくれるチームが見つからなかった(またはその両者がいなかった)のでしょう。カイリーの需要が高くないのは、夏もシーズン中も関係ないのかもしれません。Wojもカイリーの市場は小さいと言っているくらいなので、これまでにいろいろ問題を起こしてきてきているカイリーのリアルな価値なのだと思います。素晴らしい才能を持っているだけに、それはそれでちょっと残念でもあります。


カイリーへのトレード・オファー

そこで気になるのが、カイリー獲得のために他チームがどのようなオファーを出していたかです。レポートではレイカーズ、クリッパーズ、サンズ、マーヴェリックスのオファーがあがってきています。カイリーの価値はどんなものだったのか、トレードの解説とともに見ていきましょう。

● ロサンゼルス・クリッパーズ

PGを探しているクリッパーズもカイリー争奪戦に参加しました。

クリッパーズのオファー(via The Ringerのケヴィン・オコナー)


  • ルーク・ケナード($14.4M)


  • テレンス・マン($1.9M)


  • 1巡目指名権


  • 1巡目指名権スワップ x 2

オコナーはこれにサラリーマッチの選手が追加されるとレポートしていましたが、数字的には$16Mのノーマン・パウェルかマーカス・モリスだったのでしょう。ジョン・ウォールやロバート・コヴィントンをパッケージにいれるとネッツへ行く選手が多くなってしまうので、3つ目のチームを探す必要が出てきます。これがロスターが埋まっているシーズン中でのトレードが難しいと言われている理由のひとつでもあります。

ただ、1巡目を精一杯オファーしてくれているところを見るとリスペクトを感じますが、クリッパーズはあまり本気ではなかったとも言われています。

● フェニックス・サンズ

長期的なPGを探しているサンズもカイリーに興味を持ち、カイリーが市場に出てから18時間でオファーを出したようです。

サンズのオファー(via The Athleticのシャムズ)


  • クリス・ポール($28.4M)


  • ジョー・クラウダー($10.1M)


  • 1巡目指名権ひとつ

シャムズとB/Sのクリス・ヘインズによると、もしサンズが指名権を3つ出していればカイリーを獲得できていたと思われていたそうです。ミッチェルのリターンを見れば、カイリーにはそれくらいの価値がありそうですが、サンズはそれを拒否したそうです。また、シャムズは、サンズは時間が経つにつれてカイリーへの興味がなくなって行ったとレポートしています。

ヘインズもYahoo Sportsのフィッシャーも、交渉がはじまってからは、いろいろなタイプの選手をオファーできるサンズが有利だと思っていたそうです。ヘインズに関しては「このトレードはサンズのものだ」と話していたくらいです。

では、なぜネッツとサンズのトレードはうまく行かなかったのか?

まずネッツはクラウダーに興味がなかった事があげられます。フィッシャーは、夏にクラウダーが市場に出てからもネッツは彼に興味を見せなかったと言っていたので、ネッツにとってリターンとしてはあまり魅力的でなかったのかもしれません。CP3に関しては、チーム構成が関係していると思われます。KDはCP3のように選手をセットアップするようなPGは必要としていませんし、CPはディフェンスでもネッツのスウィッチはできませんし、ネッツがバックコートに必要としているサイズもありません。チームへのフィットは微妙だったのでしょう。

また、フィッシャーによると、ネッツはこのカイリーのトレードを3チームに拡大しようとしていたそうです。そうなると、簡単にリルートできそうにないCP3よりも、需要が高そうなディンウィディーを獲得しておきたかったとも考えられます。特にネッツが交渉を続けているラプターズは以前ディンウィディーに興味を持っていたそうで、ディンウィディー&1巡目指名権をOG・アヌノビーやFVVのトレードに使おうとした算段もあったかと思います。

サンズの他の選手については、ヘインズは「ネッツはエイトンに興味がない」と話していました。3がないクラクストンとエイトンの同時起用がむずかしいからでしょうか。それにシャムズは、サンズはこれからデヴィン・ブッカー、ミケル・ブリッジス、デアンドレ・エイトン、カム・ジョンソンを中心としたチームをつくって行くつもりだとレポートしています。彼らがトレード・パッケージに入らない事もサンズとネッツの交渉がうまくいかなかった理由のひとつとも考えられます。

● ダラス・マーヴェリックス

夏にジェイレン・ブランソンを逃し、なんとかルカに組ませるスター選手を探してすのに必死だったマヴスもカイリー獲得争いに参入。ESPNによると、このトレードはカイリーをよく知っているヘッドコーチのジェイソン・キッドによって提案されたそうです。もちろんルカのお気に入りのDFSをトレードするので、ルカの承認も取ったそうです。

スタインによると、マブスの最初のオファーは、契約が切れるクリスチャン・ウッドや長期契約のダヴィス・バータンスやティム・ハーダウェイだったそうですが、ネッツはそれを拒否したそうです。まるでファンタシー・リーグのトレード・オファーのようです(笑)。プロでもまずはこのようなダメな事がわかりきっているオファーもするんですね。と言うことは、ルカのお気に入りのDFSをパッケージに含めたのは、ネッツの要求だったのかもしれません。

KDがDFSの大ファンなのは広く言われていて、ネッツがサンズやレイカーズよりもマヴスを選んだ最大の理由はDFSが獲得できたからだったのかもしれません。

シャムズによると、マヴスは去年の11月にはカイリーに興味を持っていて、反ユダヤ主義映画騒動の時にカイリーがバイアウトされれば取りに行くつもりだったそうです。

● ロサンゼルス・レイカーズ

レブロンもカイリーのトレードをプッシュしていたと言われているレイカーズです。

レイカーズのオファー(via シャムズ)


  • ラッセル・ウェストブルック($47M)


  • 2027年の1巡目指名権


  • 2029年の1巡目指名権

シャムズによると、ネッツはこのオファーに対して、若いオースティン・リーヴスやマックス・クリスティーも入れて、更にピックスワップも要求したとの事です。

今KDのために戦力を補強したいネッツにとって、ウェストブルックしかいないパッケージは受け入れられません。また若手が入ったとしても、さすがに1巡目指名権がふたつあってもKDがウェストブルックにOKするとは考えられません。これならさらに2026年や2028年の1巡目スワップをつけてもいいくらいです。

そのためレイカーズはネッツが気に入りそうな選手がいる3チーム目を探していたようです。おそらくジャズかスパーズだったと思われますが、彼らもレイカーズをただで助ける義理はありません。OG・レジスターのカイル・グーンによると、ウェストブルックをダンプするのに最低でも1巡目指名権ひとつつけなくてはいけなかったと言われていたので、おそらく指名権が足りなかったと思われます。

オファー以外にも、レイカーズはカイリーへの長期的コミットをしなかったようです。The Athleticのサム・エイミックによると、レイカーズはカイリーにレブロンの残りの契約と足並みを揃える2年78.6Mの契約延長しかしないと決めていたそうです。レブロンがいなくあった後にカイリーとまだ$50M前後の契約を2年も続けたくないと言う事ですね。

また、仮に若手やスワップをパッケージにいれても、うまく行かなければカイリーの数ヶ月のレンタルになってしまい、未来に何も残らない可能性もなきにしもあらずです(サイン&トレードになってリターンは得られるとは思いますが)。カイリーにはまだそのような信頼性を見出せなかったようです。

また、ESPNのブライアン・ウィンドーストが、カイリーのトレード交渉には最終的にはレイカーズとマヴスだけが残っていたと言っていましたが、それは前述したように、ネッツがラプターズを含めた3チーム・トレードを模索していたためだと思います。ネッツは、マブスからのリターンをラプターズに送る交渉をすると同時に、レイカーズからのふたつの1巡目指名権でアヌノビーやFVV獲得の交渉もしていたのではないでしょうか。もしネッツがアヌノビーを獲れていたら、カイリーはレイカーズに行っていたかもしれません。

しかし、ジョー・サイはカイリーが行きたがっているレイカーズよりも他に彼を送るという目的も達成できた、と言うスタインのレポートもあります。これに関しては、サイに批判的な意見もありましたが、実際のオファーを比べると、レイカーズはマヴスのオファーには勝てなかったと思います。

ネッツのオファー

それではカイリーが「リスペクトを感じられない」と言っていたネッツのオファーはなんだったのでしょうか。

具体的な数字は出てきていませんが、シャムズはカイリーに複数年契約をオファーし、その最後の年は条件付き保証になるとレポートしています。クリス・ヘインズは、ネッツと関連したオファーをしたとレポートしています。

ふたりの話をまとめると、カイリーへのオファーは2年か3年契約で、その最後の年は優勝ボーナスで大きなサラリーになると言うもの、又は、契約中のすべての年で優勝ボーナスが付くものだったように見えます。もちろん、ロケッツがKPJと契約したような試合数やプレー時間をクリアする毎にフルで保証されて行く契約だった可能性もありますし、後でまた問題が起きてもトレードしやすいように短期的な契約にしたかったという事も考えられます。

Wojは、ネッツは彼から信頼/ハイレベルでのプレー/物議をかもさないという証明がない限り、長期的にコミットする事をためらっていると伝えています。これまでのカイリーのバスケ以外での言動を経験すれば、ネッツが自分たちを守るためにこのような契約内容にするのも理解できます。金額に関しても、ネッツは夏にいちどカイリーの需要を計っているので、オファーしたサラリーはそれを反映していていたものだったのかもしれません。

しかし、カイリーがトレード要求したのは金が問題だけではなかったようです。

シャムズは、カイリーはトレード交渉をした後、ネッツとは原理原則(主義)が違い過ぎると感じたためトレード要求をしたとレポートしています。Wojも、カイリーは自分レベルの選手は4年$198M近くの契約がふさわしい&契約最後の年で契約延長をしないのはリスペクトがないと感じていたとレポートしていました。ヘインズはカイリーにとって「問題は金ではなく、例えネッツからフルマックスの契約延長をオファーされても残らないと言われている」と言って、カイリーは3.5シーズン過ごしたネッツから信頼されていなかった事を示唆していました。

本人もマーヴェリックとしてのはじめてのインタビューで、「時としてとてもリスペクトされてないように感じた」と話していて、「フロント・オフィスの人たちから透明性と誠実さが得られなかった」ためネッツでキャリアを続けるのは厳しいと判断したようです。

しかし、カイリーは実際にはお金を必要としています。トレード要求をした本当の理由は、バードライトをキープする事です。もしカイリーがFAになっても、現実的に彼に$40M払えるようなキャップスペースがあるチームは再建チームしかありません。しかし、バードライトがあれば、キャップスペースがないレイカーズやマヴスのような優勝を狙えるチームでも彼の望むようなサラリーを払う事ができます。もし、マヴスでルカとうまく行かなくても、まだ夏にサイン&トレードも可能です。トレードされずにFAになってしまうと、優勝候補チームに行くためにはMLEやミニマムなどのエクセプションで契約するしかありません。それはカイリーのプライドが許さないと思いますし、カイリーのプレーにはそれ以上の価値があると思います。

このトレード要求は、ネッツが考えるカイリーの価値と、カイリーが考える自分の価値の乖離が大き過ぎただけのような気もします。

ネッツのトレードはまだ終わっていない

前述した通り、ネッツはマヴスとカイリーのトレードをした後も戦力アップのためにトレードを拡大しようとしてましたが、マブスとの2チームだけでのトレードを成立させました。まだデッドラインまでに時間がありますが、マヴスが水曜にカイリーをデビューさせたかったのが大きな理由のようです。これでネッツはディンウィディーとDFSは単体でトレードしなければいけなくなりましたが、まだトレード交渉を続けていくそうです。ネッツはディンウィディーを気に入っているのでトレードしないというフィッシャーのレポートもあります。

ネッツがトレードに出せる1巡目指名権は、カイリーのトレードの後で3つに増えました。2027年のシクサーズの1巡目指名権、今回のトレードで得た2029年のマヴスの1巡目指名権、2029年のネッツの1巡目指名権です。また2028年のスワップも可能です。

Wojによると、ネッツのオーナーのジョー・サイとGMのショーン・マークスは、KDと球団の方向性について話し合っているそうです。これまでのところ、ネッツは他チームにKDをトレードするつもりはないと伝えているそうです。

しかし、ネッツがなぜカイリーをシーズン中にトレードしたのかには疑問が残ります。

トレードしなければカイリーはシーズンを休むとも言われていましたが(カイリーなら実際にやりかねない)、それでもネッツはカイリーを夏にサイン&トレードすれば、今よりも大きなリターンを得られたはずです。交渉相手も広がっていたかもしれません。カイリーは心の平和を求めて、ロケッツやスパーズでマックス契約を求めるのでしょうか?ネッツも他チームもカイリーとは長期契約はしないと言っています。ましてやトレード要求してシーズンを休めば尚更そのような良い契約は難しくなります。

考えられるのは、レイカーズが八村さんを切ってカイリーのために$31Mを用意して、カイリーと4年契約をする事です。カイリーが求める4年$198Mには遠く及びませんが、金が問題でなければ、良い契約のはずです。レイカーズにとってもかなりお買い得な価格だと思います。ただ、ブルズのザック・ラヴィーンやウィザーズのブラッドリー・ビールが市場に出てきた場合、レイカーズは彼らを選ぶかもしれません。カイリーにとってもFAになるのはリスクがあります。

そう思うと両者にとってベストな落とし所は、シーズンが終わってからのサイン&トレードだったように思いますが、ネッツは動きました。
これに関しては、JJ・レディックが「このような重要な選手がトレード要求してから48時間でトレードが決まるのは希だ。これは私の意見で、ネッツの球団内部については何もしらないが、ネッツがどれだけ早くこのシチュエーションを終わりにしたかったのかがわかる」と話しています。

また、KDがすぐにカイリーのトレードにOKを出したのかもしれません。KDは夏もカイリーのトレード要求に大人の男が決めた事に口出しする必要はないというスタンスを取っていました。今回もサラリーをできるだけ稼ごうとするカイリーへの友情ために彼を止めずにトレードにOKを出したとも考えられます。

ESPNのブライアン・ウィンドーストによると、KDはカイリーのトレード要求を知った時にアプセット(動揺、混乱、怒り)したそうです。チームが勝てていてイースト優勝候補に浮上したタイミングだけに、KDの気持ちもわかります。ただ、ウィンドーストは、KDがカイリーにアプセットしたのか、ネッツにアプセットしたのかわからないと言っています。

最終的にネッツはカイリーのリターンを最大化する事よりも、MVP級のプレーをしているKDのために戦力を補強する道を選びました。スーパースターのKDからトレード要求されたらチケットの売上にも響きそうで財政的にもバスケ的にも大変な事になります。その時はきちんとオフシーズンにトレードして、ゴベアーを超える市場最高のリターンを引き出して欲しいと思います。

スタインによると、カイリーはマヴスから新しい契約の約束はされていないそうです。マヴスはルカとカイリーのバックコートに長期的なコミットをする前に、残りシーズンでそれがどうなるのかを見たいとの事です。

カイリーは契約延長するよりもFAでマックスを狙った方がより多くのお金をもらえるので当然と言えば当然です。むしろ、カイリーはまだ自分に自信を持っているという現れとも言えます。個人的には、カイリーは優勝を狙うよりも、キャップルームがあるスモールマーケットのチームにいる方がメディアでの扱いも減るので幸せになれるような気もしますが、どうなんでしょうか。

このトレードには通常のトレードよりも驚きやもどかしさがあり、かなり感情を揺さぶられましたが(笑)、結果的にはルカとカイリーがどう機能するのかとか、新戦力を得たネッツがどうなるかなどの楽しみが増えました。やはりNBAは素晴らしいエンタメなんだとあらためて実感しています。

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