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NBAのトレンド:契約延長

シーズン開幕前の話になりますが、これからのNBAに影響が出そうなさまざまな契約延長が出てきました。今回はこれらの契約延長について解説していきます。

ルーキースケール契約延長

NBAシーズン開幕の前日に、これからのNBAのトレンドになりそうな事が起こりました。それは「ミドルクラス」のルーキースケール契約延長です。

これまでルーキースケール契約延長は、アンソニー・エドワーズやラメロ・ボールのような明らかにスターになれる可能性がある選手や、去年のジョーダン・プールやタイラー・ヒーロー、今年のデヴィン・ヴァッセルやジェイレン・マクダニエルズのような年間$20M以上の価値がある(と思われる)選手たちのもので、チームがあえてこのような10M程度のミドルクラスのルーキースケール契約延長をするのは稀なケースでした。その「ミドルクラス」契約延長が今年は去年の2人から一気に8人までに増えています。

以下、ルーキー契約延長した選手たちとその契約内容です。

  • オンエカ・オコンウ(ホークス):4年$62M

  • アイゼィア・スチュワート(ピストンズ):4年$60M

  • デニ・アヴディア(ウィザーズ):4年$55M

  • ジョッシュ・グリーン(マーヴェリックス):3年$41M

  • コール・アンソニー(マジック):3年$39M

  • アーロン・ニィスミス(ペイサーズ):3年$33M

  • ペイトン・プリチャード(セルティクス):4年$30M

  • ジーク・ナジ(ナゲッツ):4年$32M

このように、ベンチ出場の選手でも契約延長できるようになった理由に、チームづくりの自由度をキープする事や、今シーズンから新しく導入されたCBAがあげられます。

トレード要員としてのミドルクラス

ミドルクラスはサラリーマッチでトレードに使いやすいので重宝されます。再建中のウィザーズや戦力強化したいマジックの場合、来年になればあたらしく契約延長したアヴディアの$15.6Mの契約を$23.1Mサラリーに変える事ができます。マジックのアンソニーの$12.9Mなら$20.4Mの契約を引き受ける事が可能です。

再建中のウィザーズのミドルクラスには他にもタイアス・ジョーンズ、ダニエル・ギャフォード、ランドリー・シャメットもいて、トレード相手に好きな選手を選ばせる事もできます。

マジックにもミドルクラスは多く、ウィンデル・カーター、ゲーリー・ハリス、ジョー・イングルスらがいて、特にマーケル・フルツとハリスとイングルスの契約は今シーズンまでになっており、シーズン中になんらかの動きがあってもおかしくありません。来年になれば、アンソニーのサラリーはMLE($12.9M)と同額で、その先はMLE以下のサラリーになって行くので、かなりのお得感があります。アンソニー・ブラックにプレー時間をあげる事を考えれば、アンソニーの得点力を欲しがるチームとトレードをしても良いでしょう。

ペイサーズにはニィスミスと同じサイズ感の選手が多くいるにも関わらず、ニィスミスと契約延長をしています。ペイサーズのロスターを見てみると、この夏に多くのミドルクラスの選手がフリーエージェンシーになれるため、全員失ってしまう可能性もあります。ペイサーズがニィスミスとミドルクラスの契約延長したのは、今後トレードで使える可能性も考えての事だとみてまちがいないでしょう。

ピストンズのアイゼィア・スチュワートもニィスミスと似たような状況で、チームは数少ないミドルクラスのアセットとしてスチュワートを確保しつつ、もしトレードがなくてもリーズナブルな契約になるようにしていると思われます。

今後もこのような未来のチームづくりに必要なトレード要員として使い勝手がいい「ミドルレンジのルーキースケール契約延長」が増えて行くでしょう。

タックスチームのミドルクラス契約延長

タックスチームのミドルクラスの契約延長になるとタックスも関係して来ます。

今回ホークスにはオコンウとセディック・ベイのふたりとルーキースケール契約延長ができましたが、ふたりと契約延長をしてしまうと、来シーズンタックスを超えてしまいます。そのため、ホークスはオコンウだけと契約延長をしたのでしょう。

ベイではなくなぜオコンウなのかと言うと、オコンウのサラリーの$14Mは妥当なレベルだと言う事と、チームづくりの影響を考えての事だと思われます。ホークスは彼を確保した事で、ベテランのクリント・カペラのトレードが可能になりました。もしカペラをトレードして今年限りの契約をゲットできれば、RFAになるベイのオファーシートへのマッチも可能になります。更に再来年は頭角を現してきたジェイレン・ジョンソンのRFAもあります。タックスを考えれば、カペラのトレードは不可避でしょう。

マーヴェリックスはジョッシュ・グリーンとの契約延長で、来シーズンのサラリーは13人で$172.1Mとタックスギリギリです。仮にプレーヤー・オプションのリショーン・ホームズがオプトインしたとしても、ノンギャランティーのセス・カリーとダンテ・エクザムを切ればタックスをギリかわせます。このようにタックス回避を念頭に置くと、マヴスがグリーンにあげられるサラリーの上限は$12.6Mになります。そのためグリーンの契約は$12.6Mからはじまるものになっていると思われます。

また、サラリーキャップを超えていると、MLE以上の選手をFAで獲得する事ができません。そのため、チームはルーキー契約の選手をMLE級のミドルクラスの契約に変えて、サラリーキャップ超えのチームとして戦力を維持すると同時に、トレードがあった時のためのサラリーマッチ要員としてキープしておく対応策を取ります。これは新しいトレンドではありませんが、タックスチームのキャップワークの一環としてよくある事なので、スター選手以外との契約延長はこれに当てはまるケースが多いと思います。特に昨今トップレベルの選手たちはフリーエージェントになるよりも契約延長を選んでいるため、チームとしてはスター選手獲得のためにキャップを空けておく意味があまりなくなってきています。それであれば、今後あるかもしれないスター選手のトレードのためにミドルクラスの契約を揃えておく方が良さそうです。

セカンドエプロンチームのミドルクラス契約延長

エプロン超えのチームが使えるエクセプションはミニマムしかないため、実施的にフリーエージェンシーはないと思っていいでしょう。

そのため、バードライツを使って契約延長をして今の戦力を継続させていくと共に、未来のトレードのアセットに変えていきます。

ナゲッツはKCPがフリー・エージェンシーになれば、彼の代わりになるような選手をFAで獲得する事が不可能になります。そんなもしもの時のために少しでもトレード要員が欲しいところですが、ミドルクラスの選手はまさにそのKCP以外にいません。そのため、出場があまりできていなかったジーク・ナジにリーズナブルな$8.8M (6.3%)で契約延長を与えて、彼をアセットとしてキープしたのでしょう。

セルティクスも来年は14人で$210Mチームになり、ミニマム選手でしか戦力強化できません。そのため、ミニマム選手よりも活躍できるペイトン・プリチャードと契約延長したものと思われます。彼は大切なバックコートの控えで、良いプレーをしてくれればかなりリーズナブルなサラリーになりますし、もし今後キャップが10%づつ上昇していけば、彼のサラリーの8%の上昇率を上回り、タックスを超えていたとしてもかなりのお得感が出てきます。むしろタックスを超えているからこそ、更なるお得感が出るのかもしれません。

このように今後も再建チームのトレード要員として、タックスチームやエプロンチームの選手確保の手段として、ミドルクラスのルーキースケール契約延長が増えて行く事が予想されます。

ジェイデン・マクダニエルズの契約延長

ウルブスがジェイデン・マクダニエルズと5年$131Mの契約延長をしました。ウルブスは来シーズン既にルーディー・ゴベアー、カール=アンソニー・タウンズ、アンソニー・エドワーズの3人で$129Mにコミットしているので、マクダニエルズの$22.5Mが加わると現状14人でセカンドエプロンを超えてしまいます。

(*メディアは5年$136Mと報道していますが、これは情報を与えてくれるエージェントの仕事ぶりを良く見せるための誇大バージョンの数字で、$5Mのアンライクリー・インセンティブを含めての数字です。正しくは$131Mです)

ただ、マクダニエルズの契約内容に関してはキャップの15.91%のみという事もあり、識者たちからは好意的な反応が多かったです。

これはスパーズのデヴィン・ヴァッセルとの契約延長の5年$135M(*メディアは5年$146Mと報道していますが、これはエージェントを良く見せるための誇大バージョンの数字で、$11Mのアンライクリー・インセンティブを含めての数字です)に引っ張られたとも言われ、今後の有望な若手の契約延長の基準になるでしょう。

これを見ると、夏にウィザーズと4年$90Mの再契約をしたカイル・クズマの数字が少なくみえます。クズマの数字は年々下がる契約で、契約が終わる最後の年は$19.4M (キャップの11.31%)になり、平均$22.5Mの契約です。今回契約延長したヴァッセルの平均は$27M、マクダニエルズは$26.2Mです。クズマなら彼と同じ$27Mはいけたと思うのですが、タイミングが悪かったようです。来年のジョッシュ・ギディー、ジョナサン・クミンガ、トレイ・マーフィー、キャメロン・トーマスらの契約延長組は、ヴァッセルとマクダニエルズのサラリーをベースにして交渉にあたるのではないでしょうか。

ヤニスの契約延長

ヤニス:「金は重要ではないが、大金は重要だ。だから私は来年それにサインする。今それをするのはメイクセンスではない。」

このように、この夏にバックスとは今シーズン契約延長はしないと言っていたヤニスでしたが、シーズン開幕前に3年$177.1Mのマックス契約延長に契約しました。(*メディア--特にESPN--は3年$186Mと報道していますが、これは誇大された数字を使ってエージェントを良く見せるトリックで、現在NBAの出しているキャップの上昇率では$177.1Mになります。)

そうした理由はデイム獲得で優勝を狙っていくという球団の姿勢が確認できた事だけではなく、実は経済的なもののようです。ヤニスが「経済的にメイクセンスではない」と言っていたのは次の契約延長が終わった時の数字を見ていたからでしょう。ヤニスが今マックス契約延長をした時の金額と来年マックス契約延長をした時の金額を比較すると、来年契約延長をした方が$63.7M多くもらえます。

ですが、それは32歳までの話で、38歳までの長期的な視点で見るとその金額が逆転します。

ヤニスは38歳ルールに引っかかる前に、マックス契約延長をあと2回する事ができ、仮にそれができるとしたら次のようになります。

  • 今3年契約延長をした場合:今シーズンから2033-34シーズンまでのトータルのサラリーは$831.5M

  • もし来シーズンに契約延長した場合:今シーズンから2033-34シーズンまでのトータルのサラリーは$822.5M

このように最終的にはこの$9Mの差が決め手になり、今契約延長をする事にしたようです(2025年からキャップが10%づつあがるものとして計算)。

ただ最初バックスはそのようなオファーの仕方はせずに、普通にマックス契約延長をオファーしたようです。ESPNのラモナ・シェルバーンによると、バックスがヤニスと契約延長が可能になった日、GMのジョン・ホーストはヒューストンでハキーム・オラジュワンとワークアウトをしているヤニスに契約延長を直接オファーしに行きました。その時、ヤニスはそのオファーを断っていますが、ホーストは諦めずに、ヤニスに更なるプレゼンをする事にします。そのために新しく20ページのプレゼン資料をつくったそうです。おそらくその内容に長期的視点から見た金額が盛り込まれていたと思われます。

ホーストはそのプレゼン資料と3年前にヤニスと再契約した時に贈ったバーボンと同じものをシカゴにいるヤニスのエージェントまで届けたそうです。その後、ホーストは直接エージェントと会うためにシカゴまで出向いて、Hexe Coffeeというカフェでヤニスの契約延長をピッチしたそうです。そのオファーはエージェントに響いて、エージェントはその場でヤニスに電話をして相談しました。「その会話は生産的なもので30分近くかかった」との事。その時ヤニスは、家族と相談するから一晩考えさせてくれと答えたそうです。そして翌日ヤニスは契約延長に合意しました。

この契約延長でヤニスはこの10年先の稼ぎを最大化でき、バックスもヤニスを少なくても次の4年キープできるようになったので、お互いにWin-Winの契約になりました。NBA的にはヤニスがトレード市場やフリーエージェント市場から外れただけでも大きなインパクトがあります。

ヤニス:「この街は私に多くの愛を見せてくれた。そしてまた、私が家族と一緒に出かける時はいつでも、私をそっとしておいてくれる。彼らが私を道で見た時、彼らは私をそっとしておいてくれる。彼らは私を人として、私がミルウォーキーの街のためにやってきた事をリスペクトをしてくれている。私はそれに背を向ける事はできない…私はコミットしたかった。私はミルウォーキーの街に恩返しをしたい。私たちはチャンピオンシップをひとつ勝った。でも私は私たちが2回目を勝てると信じている」

ただ、ヤニスが運動能力が衰えてくる34歳あたりで再びマックス契約をするためには、このままリーグトップレベルの選手でい続けなければいけません。それでもヤニスが長期的な方向性を選んだのは、自分自身に賭けたのでしょう。そのためには、年をとっても効率良く点をとれるようにシュートを決めれるようにならなければいけません。今年はこれまでバスケットからの距離毎のFG%が3PT以外はあがっているので(FT%は下がっていますが…)、今後良くなり続けていく事を期待しつつ、見守って行きたいと思います。


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