見出し画像

デンバー・ナゲッツがNBA王者に!! 支配的だったナゲッツのプレーオフについて

デンバー・ナゲッツがNBA初優勝!球団が1976年にABAからNBA入りしてはじめての優勝です。それまでに47年かかりましたが、ようやくタイトルを勝ち取る事ができました。

しかも、カンファレンス・ファイナルズでは4-0で、ファイナルズでは4-1という支配的なパフォーマンスを見せての優勝でした。

どれくらい支配的だったかと言うと、プレーオフはこの20年間で最高勝率2位タイの16勝4敗で終え、史上最高チームのひとつと言われている2017年のウォリアーズの16勝1敗に次ぐ成績でした(2007年のスパーズとタイ)。

ナゲッツには一般のファンが凄いと言うようなスーパースターがおらず、オールスターに出場した事がある選手はニコラ・ヨキッチとデアンドレ・ジョーダンだけです。

NBA MVP2年連続受賞したヨキッチもスターになるつもりもなく、SNSもやらなければ、インタビューを受けない等、メディアの露出も少なめです。なんなら同郷で同じセンター・ポジションをプレーするジャーニーマン、ボバン・マルヤノヴィッチの方が露出度が高いのかもしれません。

(NBAファイナルズでも流れた映画グランツーリシモのTVCMにボバンも出演)

またチーム的にもマーケットサイズは15位とリーグど真ん中で、ローカルのTV放送も限定されているため、TV放送で見られる試合が少ないようです。

そのため、ナゲッツの快進撃が本当にどれだけ凄かったのかピンと来る人はコアなファン以外はあまりいないのではないでしょうか。

今回はそんなナゲッツがどう凄かったのか数字を通して見て行きたいと思います。

ニコラ・ヨキッチ

まずはこのプレーオフでも平均30/13.5/9.5を記録し、ほぼ30得点トリプルダブルと、NBAファイナルズMVP相応しい活躍をしたニコラ・ヨキッチから見ていきましょう。

ヨキッチはヤニスのような華麗なダンクやステフのような爆発的なスリーはないですが、PERやEPMを含むレギュラーシーズンのアドバンス・スタッツのほぼ全てを3年連続でトップになり、スキルとIQなどを含む全体的なクオリティーはもはや現役最高選手と言っても過言ではありません。

ヨキッチがプレーオフで打ち立てた様々な歴史的記録を紹介します。

● ヨキッチは、このポストシーズン最高PERの31.2を記録!これにより、彼のプレーオフのキャリアPERは29以上になり、現在歴代1位になっています(最低50試合)。順位は次のようになります。

  1. ニコラ・ヨキッチ:29.02

  2. マイケル・ジョーダン:28.6

  3. レブロン・ジェームズ:27.9

  4. AD:26.6

  5. シャック:26.13

  6. ハキーム・オラジュワン:25.69

● このプレーオフで、「30点/20リバウンド/10アシスト」のスタッツラインを3回を記録し、NBAプレーオフ史上最多。シングル・プレーオフ中にそれを2回も達成した史上初の選手になっています。そして、それをファイナルズで達成した史上唯一の選手にもなりました。次が「30/20/10」選手一覧です。

  • 2023年:ニコラ・ヨキッチ

  • 2023年:ニコラ・ヨキッチ

  • 2021年:ニコラ・ヨキッチ

  • 1970年:カリーム・アブドル・ジャバー

  • 1967年:ウィルト・チェンバレン

まだヨキッチの「NBA史上初」が続きます。

● このプレーオフで「600得点/269リバウンド/190アシスト」を記録し、この3つのカテゴリーでプレーオフ全体1位になったNBA史上初の選手になりました。

そして、シングル・ポストシーズンで「500得点/250リバウンド/150アシスト」を記録した史上初の選手にもなっています。

● シングル・ポストシーズンでトリプルダブルを10回記録したのもNBA史上初です。

● NBAファイナルズMVPの+レギュラーシーズンMVP×2年連続受賞している選手は今までに10人しかいません。

  1. ウィルト・チェンバレン

  2. カリーム・アブドル・ジャバー

  3. モーゼス・マローン

  4. ラリー・バード

  5. マイケル・ジョーダン

  6. レブロン・ジェームズ

  7. ティム・ダンカン

  8. ステフ・カリー

  9. ヤニス・アデトクンボ

  10. ニコラ・ヨキッチ

また、キャリア・プレーオフ平均が最低50試合で「25得点/5リバウンド/5アシスト」を記録している7人の選手の内のひとりに入っています。

  • マイケル・ジョーダン

  • レブロン・ジェームズ

  • ジェリー・ウェスト

  • ステフィン・カリー

  • ヤニス・アデトクンボ

  • ニコラ・ヨキッチ

  • ジャマル・マレー

このように、ヨキッチはNBA最高の舞台で、NBAレジェンドたちと肩を並べる程のパフォーマンスを見せていました。もうヨキッチをスーパースターと呼んでもいいのではなでしょうか。

実はディフェンスもオフェンスに負けていない程の数字を残しています。ヨキッチには派手なブロックのようなわかりやすいリム・プロテクションがないだけで、彼のポジショニング、アングル、読み、ディフェンシブ・リバウンド、スチールなどは一流だと思います。

ナゲッツは、このプレーオフでヨキッチがいるの747分のディフェンシブ・レイティングが110.2でした。これはレギュラーシーズンでは2位に相当する数字で、大活躍したデヴィン・ブッカーとケヴィン・デュラントを擁するサンズとのシリーズでは109.3で、レギュラーシーズンでは1位に相当する数字を出しています。

リストリクテッド・エリアでは相手のフィールドゴールを62.6%に抑えていて、これはジャレッド・アレン、ドレイモンド・グリーン、クリント・カペラよりも良い数字です。

The Ringerのマイケル・ピナによると(*ファイナルズのゲーム5含めず)、彼のPnRのディフェンスは102.2 pdp(1回のプレー毎の数値)。この数字はなんと今年のDPOYのJJJの102.6やADの106.5、ドレイモンドの107.9よりも良いもので、エリートレベルです。もちろんPnRディフェンスはまわりのカバーも影響してくるのでチームの数字と言う意味合いの方が正確ですが、それでもこの数字はディフェンスができない選手のものではありません。

ドロップした時のヨキッチのディフェンスは100のポゼッションで105.6。このカテゴリーでのエンビードの数字は107.9になっています。

対DHOは0.89 pdpで、相手チームは得点できていません。ジミー・バトラーはヨキッチ相手に平均17.5回のPnRをして、0.94ppp(1回のポゼッション毎の数値)でした。ヒートのオフェンスはヨキッチ相手のDHOで成果を生み出せなかったと言っていいでしょう。

ファイナルズではPnRのボールハンドラーに合わせてドロップしたり、アップトゥータッチをしたり、ポケットパスのアングルを消したりして、自分の与えられた仕事をきっちりとこなしていました。

このように数字からは、ヨキッチは、歴代のNBAレジェンドたちと肩を並べる程の実力を持ち、レブロン、ステフ、ヤニスらと同じく現代NBAを代表する選手と言えます。バスケも戦術が発展していくにつれて、IQとスキルの時代に入ったのかもしれません。

ESPNのザック・ロウはヨキッチについて次のように書いています。

「ヨキッチに答えを持っているチームはない。彼はすべてのスキームを破ってきた。彼はリーグのベスト・パッサーとベスト・ローポスト・スコアラーの両方かもしれない。彼はドリブルからとキャッチからの両方でエリートなミッドレンジ・シューターだ。彼はプレーオフでスリーを41%決めていた。アークから離そうとしても、ヨキッチはパンプ&ゴー・ドライブのエクスパートだ。3人目のディフェンダーを彼に飛ばしに送っても、ヨキッチは毎回正しいパスをする。彼は個別のスキルが単に良いだけではなく、その全てが素晴らしい。バスケットボールは、それら全てが素晴らしい7フィートの選手にはまだ出会った事がない」

ジャマル・マレー

マレーはオールスターに一度も選ばれた事もなく、メジャーな賞も「オール・ルーキーチーム」以外に勝っていない選手ですが、このプレーオフではオールスターどころかNBAレジェンド級の活躍を見せつけました。

マレーのレギュラーシーズンPERは18.0でしたが、プレーオフPERは21.6にジャンプアップしています。そして、少なくてもプレーオフ50試合&30分出場した選手の中で、PERが21.5以上なNBA選手は、史上最高と呼ばれる選手たちとジャマル・マレーしかいません。マレーのキャリアPERの歴代順位は29位で、その上は全員が殿堂入りしているか、殿堂入りが確実な選手ばかりです。下を見れば、そこにはジョエル・エンビード、ジミー・バトラー、アレン・アイヴァーソン、ラリー・バード、ケヴィン・ガーネット、カイリー・アーヴィン、スティーヴ・ナッシュらがいます。

プレーオフであがったのはPERだけではありません。ユーセッジ、得点、パス、リバウンド、ファウルドロー、フリースローなどのほぼ全てのカテゴリーで数字があがりました。下がったのはファウルとターンオーバーだけです。マレーは今シーズンにACLの怪我から復帰したばかりなので、レギュラーシーズンの数字 -- とくに序盤のものは良くないため -- は低くなっています。しかし、実質全体的にプレーオフのような守備が激しくなる試合で結果を出し続けるのは並大抵な事ではなく、実力がなければあり得ない話です。

The Athleticのジョン・ホリンジャーが、マレーのプレーオフのPERとBPMを見て次のように書いています。

「レイカーズとサンズとのシリーズで、彼はセカンド・オプションとしてジェームズよりも良く、ケヴィン・デュラントと同等だった。この文章をもう一度読んでみてくれ。でも本当なんだ!」

● マレーのキャリア・プレーオフ平均得点の24.98得点は、最低30試合プレーオフでプレーしている選手の中でも歴代22位で、ダーク・ノウィツキーとリック・バリーの間に挟まれています。これはオールスターのラッセル・ウェストブルック、ジェイソン・テイテム、ジョエル・エンビード、カイリー・アーヴィン、ジェームズ・ハーデンよりもいい数字です。


● プレーオフで50得点を複数回している選手は、マイケル・ジョーダン、ウィルト・チェンバレン、アレン・アイヴァーソン、ドノヴァン・ミッチェル、デミアン・リラード、ジェリー・ウェストしかいませんが、ジャマル・マレーもこの中に入っています。

● 30得点の「50/40/90」ラインを複数のシリーズで達成したのはNBA史上マレーとケヴィン・デュラントのみ。

● マレーはプレーオフの4Qで20+得点した事が4回あり、それを複数回した選手はアレン・アイヴァーソンとマイケル・ジョーダンのみ。

● NBAファイナルズで平均「20得点/10アシスト」を記録した選手はNBA史上4人だけ。

  • マジック・ジョンソン

  • マイケル・ジョーダン

  • レブロン・ジェームズ

  • ジャマル・マレー

● 上記のヨキッチのところで紹介したキャリア・プレーオフ最低50試合で平均「25点/5R/5A」を記録している選手。

こうやって数字だけ見れば、この選手がオールスターになった事が一度もないとは思えないでしょう。ヨキッチと同じで、マレーも派手なハンドルやダンクのハイライトがない&デンバーのメディアのカバーも少ないため、露出もあまりないのが人気や評価に影響していると思われます。このNBA優勝とプレーオフの活躍を機に全国区の選手になって欲しいと思います。

ヨキッチ&マレーの2マン・ゲーム

今年のプレーオフでのヨキッチ&マレーの2マン・ゲームはアンストッパブルでした。どのチームもそれぞれ対策を講じましたが、結局シリーズ中にそれを解決する事ができませんでした。むしろそれらの対策をカウンターで解決してきたのはこのふたりの方です。ヨキッチにフロンティングすれば、マレーにスクリーンかけて無効にし、スウィッチすればヨキッチが小さな選手をパニッシュし、ヨキッチにPFをつけてCをローミングさせても、サイドからの2マン・ゲームで攻略し、マレーをトラップしても、ヨキッチがフリーで得点かパスをさばく… 変幻自在で、まさにブルース・リーの名言「Be Water(水になれ)」を体現しているかのようなゲームです。

そんなヨキッチとマレーの2マン・ゲームを数字で見てみると…

2019年からヨキッチ&マレーはポストシーズンで1048回PnRをしていて、リーグ最多。この数字はマレーがACL損傷で失った2年も入っています。

ピナによると、2019年/2020年/2023年の3つのプレーオフでのPnR回数は、ステフ・カリーとドレイモンド・グリーン+ジミー・バトラーとバム・アデバヨ+レブロン・ジェームズとADを合わせた数よりも多いそうです。

また、 それの2位との差は98回。1試合平均19.7回はプレーオフ最多。PnRのpppは1.26。そして、その内の80.8%でショットやショットに繋がるパスが出たそうです。これも1試合平均10回以上でリーグ最高。

今年のプレーオフでの最多アシストは、ヨキッチが190本でマレーが142本でリーグのトップ2を独占。同じチームの2人がアシストを独占するのは2001年ぶりだそうです。

ナゲッツのプレーオフ

そして、そんなふたりが率いるナゲッツがこのプレーオフでどれくらい強かったか数字から見ていきましょう。

まず、もっとも目につくのがナゲッツのオフェンス効率です。アンストッパブルと言われているニコラ・ヨキッチとジャマル・マレーの2メン・ゲームを中心としたオフェンシブ・レイティングは118.2で、このプレーオフトップ。2位のクリッパーズの116.3とは1.9差で、この2差がどれくらいの数字かと言うと、その間に2位のクリッパーズ6位のバックスが入ってしまう程大きなものです。レギュラーシーズンでの2差になると、その中に8チームが入ってきます。

118.2がどんな数字かと言うと、2000年からのレギュラーシーズンで最高オフェンシブ・レーティングを叩き出した2022-23シーズンのキングスが118.6なので、守備を48分間し続けるプレーオフでの118.2は素晴らしい数字です。

ちなみにナゲッツが勝ち抜いてきたシリーズのオフェンスは…

・ウルブスとのシリーズ:119.4
・サンズとのシリーズ:124.3
・レイカーズとのシリーズ:120.2
・ヒートとのシリーズ:113.7

なんと、ナゲッツのオフェンスはヒートとのシリーズ以外は、この23年で最高値を出したキングスよりも高い数字を出しています。もしヒートに勝ったファイナルズのゲーム5でもっとスリーが入っていたら、きっとキングスも抜いて120代になっていたかもしれません。

また、ナゲッツのネット・レイティングは8.0で、2位のセルティクスの3.2とは驚愕の4.8差です!これがどれくらいすごいのかと言うと…

各オフシーズンのネット・レイティングの1位と2位の比較:

  • 2021-22シーズン:1位のウォリアーズと2位のセルティクスの差が1

  • 2020-21シーズン:1位のシクサーズと2位のネッツの差が1.5

  • 2019-20シーズン:1位のレイカーズと2位のセルティクスの差が1.6

  • 2018-19シーズン:1位のバックスと2位のラプターズの差が3.2

  • 2017-18シーズン:1位のウォリアーズと2位のペイサーズの差が3.8

  • 2016-17シーズン:16勝1敗のウォリアーズと2位のキャブスの差が4.8 👀

あのKDがいた史上最高チームのひとつと言われているウォリアーズと同じ数字です。単純に今のナゲッツが、あのデスラインアップと同じくらい強いチームとは言えませんが、そのレベル近くにいるチームだと思っても良いかと思います。ヨキッチとマレーの数字を見れば、その相乗効果が破壊的なものになるのもうなずけます。

そして、ナゲッツが何気に凄いのは、絶対に大敗しなかった事です。各シリーズでナゲッツが負けた試合の得点差を見てみると…

  • ウルブスに6点差

  • サンズとは7点差&5点差

  • ヒートには3点差

これを過去2回の優勝チームと比べると…

2022年優勝のウォリアーズは、WCセミファイナルズのグリズリーズのシリーズでは39点差の負けがあり、ファイナルズのセルティクスとのシリーズでは16点差の敗戦があります。

2021年優勝のバックスは、ECセミファイナルズでのネッツとのシリーズでは39点差の敗戦、ECFのホークスとのシリーズでは22点差の敗戦、サンズとのファイナルズでは13点差をつけられて負けています。

ヨキッチ&マレーの2マン・ゲームがあれば大きく引き離されないどころか、常に逆転可能圏内でゲームをマネジメントできている事がわかります。

そして、このナゲッツは中心選手がまだプライムで契約はまだ数年残っているため、その強さはまだしばらく続きそうです。少なくとも後2~3年は衰えそうにありません。

  • ニコラ・ヨキッチ:28歳(残り契約5年)

  • ジャマル・マレー:26歳(残り契約2年/契約延長可)

  • MPJ:24歳(残り契約4年)

  • アーロン・ゴードン:27歳(残り契約3年)

来年のベガスとドラフトキングでの優勝予想では、現在ナゲッツが1位になっています(2位はセルティックス、3位がバックス)。もちろん、これからのトレードやFAでオッズが変わってくると思いますが、ナゲッツの強さが認められたと言う事でしょう。

ナゲッツも現状のチームをキープできるとは限りません。NBAファイナルズのゲーム5で決勝点を決めたブルース・ブラウンはこの夏にFAになれます。ナゲッツが彼にオファーできるのは$7.7Mだけですが、市場では確実にMLEの$12.2Mは得られると言われているので、ブラウン確保はむずしいかもしれません。

もしブラウンがディスカウントでチームに残ると言うのであれば、今年はセカンド・エプロンを気にせずに1+1で契約して、アーリーバード・エクセプションが使えるようになる来年の夏に4年$55Mの契約をする事ができます。これはクリッパーズのニコラス・バトゥームやバックスのボビー・ポーティスがやったやり方ですね。

https://twitter.com/NBA_Reporterjp/status/1669544207265181696?s=20

いずれにせよ、来シーズンのウェストのチームが優勝を狙うなら、ナゲッツを倒さなければいけないと考えていいでしょう。はたしてコーチのマイケル・マローンが言うように、ナゲッツはまた優勝できるのでしょうか。来シーズン注目すべきチームのひとつです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?