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ホリデー争奪戦ブレークダウン

セルティクスがホリデー争奪戦を制しました。これでセルティクスは6人目までの選手たちがリーグ最高峰だと言われています。ベガスでもNBAとパートナーシップを結ぶFanDuel(+400)とDraftKing(+400)で優勝オッズがバックスと並び、ナゲッツを抜かして優勝最有力チームにあがってきました。

今回はこのホリデーのトレードをブレークダウンしていきます。

ジュルー・ホリデーのトレード

まずはホリデーのトレード内容から。

セルティクス獲得:

  • ジュルー・ホリデー

ブレイザーズ獲得:

  • マルコム・ブログドン

  • ロバート・ウィリアムズ

  • 2024 ウォリアーズの1巡目指名権(トップ4プロテクション)

  • 2029 セルティクスの1巡目指名権(プロテクションなし)

ザ・ボストン・グローブのアダム・ミメルスバックによると、たくさんのチームがホリデーを欲しがっていましたが、当初ブレイザーズは数少ないアセットを持っているチームとしか交渉をしなかったそうです。その時ブレイザーズは4つか5つの1巡目指名権を欲しがっていたとも言われています。

では具体的にどのようなチームがホリデー争奪戦に参加したのでしょうか。

ESPNのザック・ロウは、ブレイザーズに連絡を取ったチームにはセルティクスの他にも、クリッパーズ、ヒート、ジャズ、ニックス、ペイサーズがあったとレポートしていました。もし再建に入るブレイザーズが指名権を求めるなら、指名権が多いジャズがトレードパートナーに最適です。

ホリデー獲得に動いていたと言われたチームの指名権数:

  • ジャズ:2024(ジャズTop10)、2025(ジャズ、キャブス、ウルブス)、2026(ジャズ、キャブススワップ、ウルブススワップ)、2027(ジャズ、キャブス、レイカーズTop4、ウルブズ)、2028(キャブススワップ)、2029(ジャズ、キャブス、ウルブスTop5)

  • ニックス:2024(ニックス、マブスTop10、ピストンズTop18、ウィザーズTop12)、2025(ニックス、バックスTop5)、2026~2030

  • ペイサーズ:2024(ペイサーズ、クリッパーズ)、2025~2030

  • セルティクス:2024(セルティクス、ウォリアーズTop4)、2025~2030(2028スパーズとのスワップあり)

  • クリッパーズ:2028、2030

  • ヒート:2028、2030

  • シクサーズ:2030

ジャズに次いでアセットを持っていたのがニックス、ペイサーズ、セルティクスになっています。もし仮にブレイザーズがホリデーを指名権アセットに変えたいのであれば、いちばんアセットを持っていたジャズとのトレードをするべきでしたが、そうはなりませんでした。ペイサーズともトレードをしなかった事からも、ブレイザーズがセルティクスをトレードパートナーに選んだ理由には指名権以外の事が考えられます。

まず可能性としてあがるのが、ジャズとペイサーズが交渉から外れた事です。ブレイザーズの要求が複数の指名権&期待の若手だったのであれば、まだプレーオフ進出ができていない彼らがホリデー獲得の前にもっとやる事があると判断したのもおかしな話ではありません。

次に考えられるのが、ブレイザーズがホリデーの意向を汲んだのではないかという事です。

マイアミ・ヘラルドのバリー・ジャクソンによると、ホリデーは「ヒート、クリッパーズ、レイカーズ、セルティクス、ブルズ、シクサーズ」に興味があったそうで、ミメルスバックも「ホリデー側はブレイザーズに行きたいチームのリストを渡しセルティクスはそのリストに入っていた」とレポートしていました。ホリデー本人もセルティクスにトレードされてから、「ポートランドは私を祝福してくれた。ジョー・クローニンは私がどうやって行きたいのかについてのコミュニケーションで素晴らしい仕事をした…彼との仕事はとても簡単でシームレスで、それがこの全てを実現した」と話していたので、ブレイザーズはホリデーがあげてきた希望リストのチームの中からベストなリターンを得ようとしていたのかもしれません。

また、ESPNのブライアン・ウィンドホーストは、「少なくても3チームが大きな入札をしていた。最後まで残ったのが、セルティクス、ヒート、それにクリッパーズだったと思っている。その3チームになったのは、ジュルー・ホリデーがどこかのタイミングで本当に長期的に契約できるので彼が求めたチームだったと思う。」と言っていました。ホリデーは4/2以降に契約延長が可能になり、両サイドはすでに契約延長について話をしているそうです。超富豪のオーナーを持つクリッパーズも契約延長は可能だと思います。逆にヒートのフロントはセカンドエプロンを気にしているという話もあり、セルティクスやクリッパーズと比べて契約延長に積極的ではなかったのかもしれません。

デミアン・リラードのトレード要求はヒートだけだったので、それがブレイザーズにとって不条理な条件だったのは確かですが、11年球団に尽くしてきた選手の要望はまったく聞かずに(ヒートからのオファーすら受け付けなかった)、一度もポートランドの地を踏む事のない選手の要望を聞くのは腑に落ちません。ホリデーの要望以外にも理由がありそうです。

ブレイザーズは何を求めていたのか

ブレイザーズがアセット以外に求めていたものに、「気に入った有望な若手」、「更にアセットに変えられそうなベテラン」、「切れる契約」があると考えられます。

ここで再びホリデー争奪戦に参加したチームのアセット以外の要素を振り返ってみます。以下、「有望な若手」と「切れる契約」をメインに、それぞれのチームのホリデーの契約にサラリーマッチできそうなパッケージを見ていきます。トレーニング・キャンプ前にトレードを終わらせようとしていたようなので、どのチームも3つ目のチームを探す時間がなかったと仮定します。

チーム切れる契約有望な若手サラリーフィラージャズ・ケリー・オリニク
・THT・テイラー・ヘンドリクスニックス・エヴァン・フォーニェ(TO)
・アイゼェイア・ハーテンスタイン・イマニュエル・クウィックリー
・クエンティン・グライムスセルティクス・ロバート・ウィリアムズ・マルコム・ブログドン
・アル・ホーフォードヒート・カイル・ラウリー・タイラー・ヒーロー
・ニコラ・ヨヴィッチ
・オーランド・ロビンソン
・ハイミ・ハクェズクリッパーズ・マーカス・モリス
・ロバート・コヴィントン・テレンス・マン
・KPJシクサーズ・トバイアス・ハリス・タイリース・マキシィ

  • ジャズのパッケージ:ケリー・オリニク(切れる契約)+THT(切れる契約)+テイラー・ヘンドリクス(若手)。
    ジャズはいまいちですね。それこそ1巡目を3つくらいいただかないと割に合わないでしょう。ジャズも33歳のホリデーにそこまで出すほどの価値はないと判断したのかもしれません。

  • ペイサーズのパッケージ:バディー・ヒールド(切れる契約)+ダニエル・タイス(切れる契約)+ジャレイス・ウォーカー(若手)。
    ペイサーズがトレード先を模索しているバディー・ヒールドを中心にパッケージを組むと、数字的にタイスと今年のドラフトの8位指名のウォーカーをパッケージに入れる事が考えられます。ウォーカーはヘンダーソンやシャープとのタイムラインに合い、実質追加の1巡目指名権と考える事もできるので魅力的ですが、ペイサーズがハリバートンと組ませるというビジョンを持っていて躊躇ったのかもしれません。またははじめからウォーカーではなくニィスミスをオファーしていたのかもしれませんし、まだ本当にホリデーが必要なほどチームも成熟していないので、指名権は今後必要になる時までキープする事にしたのかもしれません。

  • ニックスのパッケージ:エヴァン・フォーニェ(切れる契約)+イマニュエル・クウィックリー(若手)+クエンティン・グライムス(若手)+アイゼェイア・ハーテンスタイン(切れる契約)。
    ニックスはホリデーが加入すればバックコートのアップグレードになりますが、残念ながらパッケージに入れられるサラリーを有する選手が足りていませんでした。クウィックリーやグライムスはブレイザーズの未来を担うシャエドン・シャープやアンフェニー・サイモンズともポジションが被りますし、他のポジションには有望な若手がいません。フォーニェをまたトレードして指名権を得ようとしても、せいぜい2巡目指名権がいくつかもらえるだけでしょう。またニックスはクウィックリーとグライムスを出す気はなかったと思います。

  • セルティクスのパッケージ:マルコム・ブログドン+アル・ホーフォード or ロバート・ウィリアムズ(若手)。
    関係が崩れていたブログドンをパッケージの中心に組んだ場合、数字的にアル・ホーフォードかロバート・ウィリアムズのどちらかをトレードに含めなければいけませんでした。契約は切れませんが、ブログドンをトレードすれば、また1巡目指名権をひとつ得られるかもしれません。すでにリラードのトレードでサンズからデアンドレ・エイトンを獲得していますが、彼のディフェンスならトレードに出せば更に指名権を得られそうです。また、ブレイザーズが有望な若手としてロバート・ウィリアムズを気に入っていた可能性もあります。

  • ヒートのパッケージ:タイラー・ヒーロー(若手)+ニコラ・ヨヴィッチ(若手)+オーランド・ロビンソン(若手) or タイラー・ヒーロー(若手)+ハイミ・ハクェズ(若手)。またはカイル・ラウリー(切れる契約)+ミニマム。
    ヒートに関しては、指名権はセルティクスと同じく2つ出せますが、ブレイザーズはすでにリラードのトレード時からヒーローとヨヴィッチへの興味がない事がわかっているので、ヒートはホリデーとポジションがかぶるラウリーをパッケージに含めたと思われます。今のラウリーを他チームにトレードしても1巡目指名権はもらえないので、ヒートからは少なくてももうひとつ1巡目指名権をもらわなければいけません。あらゆる要素でセルティクスのパッケージには見劣りします。

  • クリッパーズのパッケージ:マーカス・モリス(切れる契約)+テレンス・マン(若手) or コヴィントン(切れる契約)+マン(若手)+KPJ(若手)。
    クリッパーズもセルティクスと同じく1巡目指名権をふたつ出せ、しかもその価値は高そうです(その指名権がコンバートする頃にはまだテイタムとブラウンが健在であろうセルティクスよりもカワイ・レナードやポール・ジョージがいなくなるクリッパーズの方が成績は悪くなるでしょう)。また、クリッパーズにはロバート・コヴィントンやマーカス・モリスらの「切れる契約」は多いのですが、ガードヘビーなブレイザーズに合う「有望な若手」はケニオン・マーティンとかなり限られていました。それにそれらのベテラン選手は1巡目指名権にも変えられません。やはりセルティクスのパッケージよりは見劣りします。または、クリッパーズは1巡目指名権のプロテクションにこだわったのかもしれません。

  • シクサーズのパッケージ:1巡目指名権がひとつだけなので省略します。

最終的にブレイザーズがセルティクス、ヒート、クリッパーズの中からセルティクスのパッケージを選んだという事は、彼らはヒートのハクェズやクリッパーズのKMJよりも、セルティクスのロバート・ウィリアムズに価値を見出していたと考えられます。それに加え、将来的にアセットに変えられるブログドンもプラス要素だったと思います。

ちなみに、ホリデーのエージェントのジェイソン・グルションは、ジェイレン・ブラウン(セルティクス)、マーカス・スマート(元セルティクス)、アル・ホーフォード(セルティクス)、サム・ハウザー(セルティクス)のエージェントでもあり、結構セルティクスと太いつながりがあります。もしかしたら、エージェントの力添えも一要因としてあったのかもしれません。

ブレイザーズとロバート・ウィリアムズ

ブレイザーズはロバート・ウィリアムズを気に入っていたようで、ヘビー・ドットコムのスティーヴ・ブルペットによると、セルティクスにウィリアムズをトレードにいれる必要があると伝えていたそうです。

ブレイザーズのフロントにいるドラフト・エキスパートのマイク・シュミッツは以前からウィリアムズを気に入っていたようなので、彼の意見も反映されていたのではないでしょうか。

エイトンとのポジションの被りが気になりますが、Wojによると、「ブレイザーズはロバート・ウィリアムズをキープしてデアンドレ・エイトンと組ませたがっている」との事です。2021年にセルティクスがウィリアムズとホーフォードを同時に使ってディフェンスがリーグトップになったのと同じような事をやりたがっているのでしょうか。それとも「組ませる」のはエイトンの控えの事を指しているのでしょうか。こればかりはシーズンがはじまって実際にローテーションを見ないといけません。

こうしてみると、セルティクスがホリデー獲得競争に競り勝ったのは、ブレイザーズが「気に入った若い選手」がいて、「多くの指名権」を持ち、且つ「ホリデーが契約延長できるような優勝候補チーム」という複合的な理由があった事がわかります。そう考えると、ホリデーのセルティクス行きは思ったよりも必然的なものだったのではないでしょうか。

ブログドンとセルティクス

セルティクス側からすれば、関係が悪化して夏中トレード相手を探していたとも言われていたブログドンを手放す事ができてラッキーでした。

The Athleticのジャレッド・ウェイスによると、その6マン・オブ・ザ・イヤーは夏に他チームで再出発したがっていたそうです。理由はいくつかあり、イグジットミーティングでは、彼はチームの長期的プランに入っていると印象を受けたにも関わらず、クリスタプス・ポージンギス(以下KP)獲得のトレードのパッケージに出された事が大きかったと言われています。

セルティクスがこの夏にKP獲得を目指し、KPのいたウィザーズとクリッパーズとの3チーム・トレードを試みました。ブログドンはKPのプレーヤー・オプションの締め切りの次の日にロスに肘の検査を受けに行く予定でしたが(おそらくトレードに絡めて)、そのタイミングではクリッパーズがブログドンのメディカルを見直す時間はありませんでした。KPのオプションのデッドラインが近づく6/21の深夜、クリッパーズがブログドンの健康の懸念を理由にトレード交渉から離脱しました。KPはオプションの締め切り日を24時間も遅らせるつもりはなく、フリーエージェントになろうとしていたそうです。そうなるとキャップがないセルティクスはKPをあきらめなくてはならなくなります。

そのため、セルティクスはピボットして、今度はブログドンではなくマーカス・スマートをグリズリーズにトレードしてKPを獲得しました。

また、ヘッドコーチのジョー・マズーラがレポーターたちにデリック・ホワイトがスターティング・ポイントガードになるだろうと言っていた事も、関係悪化の要因になったようです。ブログドンは、スマートがいなくなったため、先発はキャンプでホワイトと競争する事になると思っていましたが、すでにホワイトに決まってしまっていました。トレードに出された上に、スタートするために競争もさせてくれない事にブログドンは起こりました。スブラッド・スティーヴンは8月末にブログドンがいるアトランタへ飛び、関係を修復しようとしていましたが、ブログドンはまだ「他チームで再出発をしたがっていた」そうです。

他にもブログドンは自分の肘のケガに対するセルティクスの対応にも怒っていたと言われています。

オールインのセルティクス

セルティクスはオフシーズンに優勝候補チームらしからぬ積極的な動きをして、主力ローテーションに入っていたスマート、グラント・ウィリアムズ、ロバート・ウィリアムズ、マルコム・ブログロンの4人をジュルー・ホリデーとクリスタプス・ポージンギスの2人に変えました。

セルティクスはこのホリデーのトレードでサラリーとタックスが$11M増えて、トータルで$222.1Mになり、バックスに次いでリーグ5位になっています。

来シーズンのサラリーキャップは、現状ホリデーとプリチャードのキャップホールド込みの12人でサラリーが$212.8Mで、タックスは$139.6M、トータルで$352.4Mになります(*プリチャードの契約延長前の数字です。以下も同様)。

セルティクスはすでにホリデーと契約延長をして長期的に彼をキープしたがっているそうです。また、テイタムもすでにスーパーマックス契約延長の権利を保有していて、来年の夏に5年で$317Mの契約延長が可能になります。もしふたりが契約延長をしたらどうなるのでしょうか。

テイタムのスーパーマックスがはじまる2025-26シーズンはリピータータックスに入るので、その数字は恐ろしい事になります。ざっと計算(ホリデーが4年$120Mの契約延長をしたとして)したところ、サラリーは$219.1Mになり、タックスが厳しくなった新CBAも正式運用に入るため、タックスは$181.2M(!!)になり、トータルで$400.8Mになります。

セルティクスのガバナーのウィック・グロウスベックはこのような状況について、「私は次の6年間を本当のチャンスと見ている。私たちは何としてもバナーを掲げるまでこれをやり続ける。私たちは18個目のバナーを目指して進み続ける」と言っていて、大きなタックスも勝つためには払っていくという意気込みを感じさせてくれます。

ただ、グロウスベックはバルマーのような資産家でもありませんし(資産額はリーグでも下の方)、球団もウォリアーズのような金を生み出すアリーナを持っている訳ではありません。1巡目指名権凍結に耐えながら、$400Mを4年も払い続けていけるのかはちょっと心配ではありますが、ここまで来たら優勝を目指して踏ん張って欲しいと思います。ひょっとすると、この支出は今後あると言われているベガスとシアトルのエクスパンションフィーでまかなえるという計算があるのかもしれません。優勝の可能性があるにも関わらず、タックスを回避しようとするオーナーにはこのこのセルティクスのアグレッシブな姿勢を見習って欲しいものです。


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