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ウォリアーズのクリス・ポールのトレードについて

クリス・ポールのプレースタイル的なフィットや高額なサラリー、そして優先すべき補強はサイズだと言われていた事から、ウォリアーズが彼の獲得に動いた事に疑問を持った人は多かったのではないでしょうか。

しかもポールにはサイズもスピードもなく、ディフェンス的にも相手チームから狙われやすく、昨シーズンからの課題だった守備のアップグレードはできていませんし、彼が昨シーズン平均20得点していたプールの得点力をカバーできるとは思えません。basketball-referenceによると、TO%もプールの14.7%と比べて、ポールは13.4%で劇的に良くなっている訳でもありません(ただNBAが出しているスタッツでは、ポールのTO%は8.3%、ステフが10.1%、プールは12.2%になっていて、カウントの仕方に差があるようです)。

今回はポールのトレードを通して今後のウォリアーズに与える影響や課題などを見ていきます。

クリス・ポールのチームへのフィット

クリス・ポールはPnRを得意としていて、ウォリアーズはスティーヴ・カーがコーチになってからポールが活きるようなオフェンスはしていませんし、チームにはポールの相方になってリムランができるようなビッグがダリオ・シャリッチしかいません。そのため、ウォリアーズのシステムでポールがチームの勝利に貢献できるのかという疑問があがってきます。

ポールがウォリアーズにフィットしないと言うよりも、ポールとウォリアーズのプレースタイルはまったくの真逆と言った方が正しいかもしれません。その例をいくつかあげていきます。

  • オフェンスの速度:昨シーズンのウォリアーズのオフェンスの平均速さはリーグ6位で、ポールは最低1000分プレーした選手の中で最もスローな選手。

  • ボールタッチの時間:ウォリアーズは平均タッチが2.7秒でリーグ最短で、クリス・ポールはリーグでもっとも長い5.6秒で7位。

  • PnRのボールハンドラー:ウォリアーズはリーグ29位の3.9%で、ポールはPnRのボールハンドラーとしてリーグ1位の55.9%。

  • ボールスクリーン数:ウォリアーズはリーグ28位で、クリス・ポールは4位。

  • プレースタイル:ウォリアーズはランダムなモーション・オフェンスで、ポールは計算され整然としたオフェンスが得意。

こうして見ると、ポールはウォリアーズにまったく合わない選手です。

ウォリアーズはポールにターンオーバーせずにセカンド・ユニットを率いて欲しいそうですが、これまでずっとスタートしてきているポールはまだベンチに下がるつもりはないようです。レポーターからウォリアーズのセカンド・ユニットとのフィットについて聞かれると、「あなたがコーチするのか?(笑)」と聞き返し、「私はまだ状況がどのようなものになるかわからない。だからそれは私たちが動き出してからどうするか決めることになると思う」と答え、ベンチ出場については「キャンプがはじまった時に話すものだ。私とスティーヴは話しているが、まだ『What up, man? あなたはスタートするのかベンチから出るのか』という話はしていない」と話しています。

ポールは連続スタート率が100%の選手です。他の主な選手と比較してみると…

  • クリス・ポール:1,214/1,214 (100%)

  • レブロン・ジェームズ:1419/1421

  • ケヴィン・デュラント:983/986

  • ティム・ダンカン:1389/1392

  • デミアン・リラード:769/769

年とは言え、ポールがまだスタートに固執するのも理解できます。

しかし、ウォリアーズのスターティング・ファイブは昨シーズンのネット・レイティングでNBA王者のナゲッツとリーグで1位を争った程の完成度を誇っています。ポールがウォリアーズでスタートするのはむずかしそうです。

また、ドレイモンドやステフは、ポールは行った先々のチームを勝つチームに変えてきたとポール獲得については前向きの発言をしていましたが、それはボールが(ロケッツ以外では)司令塔をしていたからかもしれません。ウォリアーズに合わなかった選手にはかつてディアンジェロ・ラッセルやケリー・ウーブレらがいますが、ヘッドコーチのスティーヴ・カーは彼らを活躍するポジションに置くよりも、チームの「アイデンティティー」を優先してきました。今回もカーがポールを活かすためにチームのシステムを変えるとは考えられません。ウォリアーズがポールのポテンシャルをマックスで活かせないシステムである以上、ポールが今までのようなアウトプットを出すのはむずかしいと思われます。

もしポールがウォリアーズで活きるとしたら、ベンチ出場でセカンド・ユニットの司令塔をしてもらい、セカンド・ユニットを「勝てるチーム」へと変えてるような使い方になると思います。ペースも変わって意外とハマるかもしれません。

そうなると、今までスタートしてきたポールがベンチにまわっても100%のパフォーマンスが出せるかどうかが課題になってきそうです。年とった選手がベンチ出場になると、ワームアップが思うようにでなかったり、プレー時間が短くなるのでリズムに乗れなかったりとパフォーマンスが落ち込むのは良く聞く話です。特にボールを多く持つような選手がベンチにまわるとその傾向が強くなると思います。ポールのコンディションを維持する意味でも、ポールをスタートさせて最初の5分でベンチにさげ、2Qと4Qのはじめにセカンドユニットをランするローテーションが良さそうです。

ポール本人は、すでにスティーヴ・カーと話をしていて、勝つためにウォリアーズのモーション・オフェンスとオーガナイズされたカオス・スタイルにも適応すると言っているそうですが、カーはどのような判断をするのでしょうか。シーズン開幕からステフ、ポール、ウィギンス、クレイ、ドレイモンドのスターティング・ラインアップで戦うのでしょうか。それとも昨年まで機能していたラインアップを選ぶのでしょうか。どうなるか楽しみですね。

クリス・ポールとジョーダン・プールのトレードについて

以下、ジョーダン・プールとクリス・ポールのトレードの詳細です。

ウォリアーズ獲得:

  • クリス・ポール

ウィザーズ獲得:

  • ジョーダン・プール

  • パトリック・ボールドウィン

  • ライアン・ロリンズ

  • 2030 1巡目指名権(トップ20プロテクション)

  • 2027 2巡目指名権

新CBAのセカンド・エプロン超えのチームに課される制限が厳しくなり、ウォリアーズの予算の関係もあって、ウォリアーズはジョーダン・プールの契約を手放したがっていたようです。

そのため、ウォリアーズはクリス・ポールとのトレード前には、プールよりもサラリーが$10Mほど低いラプターズのOG・アヌノビーやセルティクスのマーカス・スマートとのトレードを模索していたそうです。

  • プールの契約:2026-27シーズンまで契約が残っていて、2023-24シーズンは$27.4M、2024-25シーズンは$30.9M

  • アヌノビーの契約:2024-25シーズンまで2年残っている。2023-24シーズンは$18.6M、2024-25シーズンは$19.9M

  • スマートの契約:2024-25シーズン残り2年残っている。2023-24シーズンは$18.8M、2024-25シーズンは$20.2M

もし彼らを取れていれば、2023-24シーズンには$63M以上節約でき、GP2やルーニーをなんとかすればセカンド・エプロンの回避可能なところまで行けたはずです。

ウォリアーズがプールよりも高いサラリーのポールを選んだ最大の理由は、彼の来シーズン以降のサラリー$30.6Mが無保証な事だと思います。簡単に言うと、2024-25シーズン前にポールをウェイブすれば、サラリーキャップを2023-24シーズンの$411Mから$171.4Mまで落とす事ができるようになります。ウォリアーズの$171.4Mは少ない数字のような気がしますが、その金額を今シーズンと比較するとリーグ9位(7/20時点)になるのでまだまだ大きな数字です。

ESPNのブライアン・ウィンドーストが「ウォリアーズがクリス・ポールのトレードをした理由は、第一にサラリーダンプだ…彼らはこれが良いフィットだからやった訳ではない」と言っていたように、このトレードは新CBA下のキャップ・マネジメントの一環のように思われます。

ウォリアーズのサラリーキャップ

ウォリアーズのサラリーキャップを詳しく見ていきましょう。

現時点(7/18)でウォリアーズのロスターは13人ですが、このままミニマムを追加してロスターを14人でシーズンをはじめたとすると、キャップは次のようになります。

サラリー:$209.2M
タックス:$201.8M
合計:411M

もしこのトレードをせずにプール含めて現状維持した場合は次のようになります。

サラリー:$210.1M
タックス:$208M
合計:$418.1M

The Athleticのティム・カワカミが球団のソースに聞いているところによると、ウォリアーズの予算は$420Mが精一杯のようです。ポールのトレードをしなくても予算内におさまっていたように見えますが、15人目を入れると予算は確実に超過してしまいます。次のシーズンもまだ試合に出れないであろうRBJやロリンズをサラリーダンプして、代わりに2巡目で$1.1Mしかかからないトレイシー・ジャクソン=デイヴィスをドラフト指名してロスターを埋めたのは理解できます。

もし、2024年の夏にポールをウェイブして、クレイが$23Mで再契約してくれて、ロスターが14人(ミニMLE使用しない)場合は…サラリーキャップは$171.4Mになります!

サラリー:$171.4M
タックス:$0M !!
合計:$171.4M

ウォリアーズの超高額キャップに見慣れた目には驚きの数字ですが、タックスが回避できてしまいます。新CBAで更に厳しくなるリピータータックスから逃れるチャンスでもあり、セカンド・エプロン($190M)をかわせるのは今後のチーム運営にとって大きな意味を持つと思います。

また、クレイが$23Mで再契約してくれて、クリス・ポールを2人の選手とトレードする事もできます。その場合の14人のロスターのサラリーキャップは以下のようになります。

サラリー:$197.1M
タックス:$89.5M
合計:$286.6M

しかし、これだとセカンド・エプロンを突破してしまうので、やはりクリス・ポールはよほど良い選手が獲得できない限りウェイブする方向だと思います。

ポールの「実験」がうまくいかなければ、シーズン中にポールの契約を2023-24シーズンで契約が切れるホーネッツのゴードン・ヘイワードとトレードして、来シーズンにバードライトでヘイワードとリーズナブルな契約を結ぶなどの可能性も考えられます。数字的にはカーが欲しがっていたクリッパーズとの契約の切れるニコラス・バトゥームとマーカス・モリス+KJ・マーティンや、ブルズのデマー・デローザンのトレードも可能です。

ウォリアーズのケミストリーとカルチャー問題

ウォリアーズの課題はサラリーやポールの活かし方だけではありません。カルチャー是正も課題です。シーズンが終わってから、ドレイモンドとカーがほぼ同じタイミングでそれぞれドレイモンドの暴力がシーズン通して影響をしていた事を明かしています。

カー:「それを隠す事はできない。シーズンはじめのドレイモンドとジョーダンの一件が影響した。信頼が失われるときはいつでもチームに影響が出やすい。信頼が失われるとそのプロセスがより難しくなる。それが私のできる限りの率直な気持ちだ。私たちは私たちを成功させてくれていた事を取り戻さなくてはいけない。それは本当に信頼関係のある環境で、お互いに頼れてお互いを良くするグループの事だ。ドレイモンドは今年バスケットボールの観点からは素晴らしいシーズンを送った事はわかっている。でも彼は10月に起こったことで物事を悪化させたこともわかっている。だから彼が来年戻ってくる時は、彼が長い間ここで得てきた信頼と尊敬の一部を再構築することを考えなくてはならない。」

ドレイモンド:「私は絶対に(まだプレーしていると)思っている。私はまだそう思っている。なぜなら実際私は誰も私たちを倒すことができるとは本当に思っていない―私はロサンゼルス・レイカーズの功績を取り上げようとしている訳ではない。彼らは高いレベルで戦っている、良いチームだ。私たちは今プレーしていない。なぜなら、私が殴ってなければ、ファウルやロードでチームとしてやってしまうミス、団結できなかった事は起きていないからだ。」

他にもシーズンが終わってから若手とベテランが分断されていたなどの噂が出てきていました。フォックス・スポーツのクリス・ブルサードによると、「彼らの選手の中には口をとがらせていた者達がいた。若い選手達、クミンガ、ディヴィンチェンゾ、ジョーダン・プールだ…彼らはプレー時間が与えられなかったからだ」そうで、The Ringerのローガン・マードックは「すでに確立された選手たちはジョーダン・プールと問題を抱えていた。クレイ・トンプソンは皮肉にもジョーダンはパスをせずにシュートを撃ちすぎると言っていた(クレイもパスをせずにシュートを撃っていました)」とレポートしていました。

また、他にもステフ、クレイ、ドレイモンドはプールを好きではなかったとか、若手はプールを殴ったドレイモンドに罰則(出場停止処分)を与えなかった事に不満を持っていたとか、ドレイモンドとクミンガの間に「関係はない」などのレポートが出てきました。これまでカルチャーに関する問題とはあまり縁がなかっただけに、ドレイモンドのチームメイトへのマジ殴りがシーズン通してチームに与えた影響がいかに大きかったのかを物語っています。

ケミストリーにも亀裂が入っていたようですが、チームのカルチャーにも問題があったようです。カーはドレイモンドのポッドキャストに出た時に、プールとクミンガをこのように暗に否定していました。

カー:「マイアミの選手たちは、ベンチに座って『まあ、私はプレーしなかった』とか『ああ、彼らは誰それを試合に出していた』などと言っている人はいない。 彼らはただ勝つことがすべてだ。そして、私たちのこれまでのグループを見ればわかると思うが、そのようなチャンピオンシップのメンタリティを持っていて、誰もがバイインして、ひとりひとり全員ががただ勝とうとしている時、誰もそんなことは気にしていない。ロッカールームで『うーん、私はもっとプレーするべきだ』だとは言わない。ただ勝ちたいとだけ思うんだ。チャンピオンシップチームでは、ゼインがバイインしていて、その魔法を見つけることの美しさがある。そう言う時、コーチの決断はとても簡単になる。自分の直感に従って、良いプレーをしている選手がだれであろうと、その選手を出せばいい」

このような選手とコーチの間で信頼関係が築ず、責任感が生まれないようなカルチャーは問題です。カーはまるで選手に問題があるように言っていますが、チームのカルチャー問題を解決するべきなのはヘッドコーチのカーの仕事の一部であり、フロントオフィスの責任でもあります。このままなぜ選手たちが不公平感を抱くのか理解しないまま進んでも、チームがまとまる事はないでしょう。もちろん、ケミストリー再構築とタックス節約のためにプールをトレードしたのは理解できます。プールをトレードしてケミストリーが良くなったとしても、肝心なカルチャーは変わらなければチームもまとまる事がなく、ハイレベルで勝つ事はできないと思います。

特に73勝をした頃の「Strength in Numbers (全員バスケ)」のカルチャーはウォリアーズのモーション・オフェンスのベースとなるケミストリーを支えてきました。しかし、今のチームでは新規加入選手は強みを活かされる事もなく、カリー、ドレイモンド、クレイのサポート役でしかないように見えます。カーもカルチャーの再建が最優先だと考えているようで、「これを正す唯一の道は、選手たちとコーチたちとコミュニケーションを取り続ける事だ。それらの関係性は構築されなければいけない。絆も築かなければいけない。それがこのオフシーズンに集中する事だ」と話しています。

2023-24のウォリアーズの注目ポイントは、スタートしたがっているクリス・ポールを加えた時のプレースタイル、今後のキャップワーク、そしてケミストリー&カルチャーの再構築になると思います。


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