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ロバート・サーヴァーへのNBAの罰則について

9月14日、NBAが昨年11月から続けていたサンズのオーナーのロバート・サーヴァーの人種差別とミソジニーの調査結果を発表しました。NBAから調査を委託された法律事務所のWachtell, Lipton, Rosen & Katzは、10ヶ月かけて、320人にインタビューをし(20人は調査のことを知って連絡してきた/12人の球団マイノリティーオーナーとサーヴァー本人含む)、80,000件のテキストやメールや書類を調査していたそうです。

調査結果はオープンなので、気になる方は読むことができます。ここのサイトからダウンロードできます。

その内容は以前お伝えしたこともあるESPNのバクスター・ホームズの記事の内容も含め、かなりショッキングな内容です。NBAコミッショナーのアダム・シルヴァーも「個人的な見解は、サンズの球団でこの18年で起きていたことを知ったことについては、ある意味信じられないことだった」と言っている程です。

例えばなにが見つかったかというと…ここからは女性にはショッキングな内容も含まれていると思うので、そのような事に触れたくない方はここを飛ばして次のパラグラフまで進んでください。サーヴァーはフィジカルチェックを受けている時に、膝をついていた男性従業員の前でパンツをおろしてフルチンになったとか、シャワーを浴びた後に隣の部屋でミーティングしていた従業員の前にフルチンで入ってきて、女性従業員に「お前はFucking出ていけ、こんな大きなものは見たことないだろ」とか言ったりしていたそうです。他にもフルチンエピソードがあり、職場で脱ぐのが大好きな露出狂の社長のような感じすらします。また、他にも職場で裸の女性の写真や男女がセックスしている動画を男性従業員にメールで送ったり、女性従業員の夫には「彼女はフェラがうまいだろ」とか言ったりしていたそうです。

女性従業員に対してのセクハラも酷く、「夏にアップグレードしたのか(豊胸)」とか、妊娠した女性従業員に向かって、じろじろ見ながら妊娠前のサイズに戻れると言ったり、女性従業員の体重や体のことを頻繁に言っていたそうです。特に批判が大きかったのが、妊娠した従業員に対して、妊娠しているから仕事ができないだろと言って外そうとしたことでした。これを読んだ出産経験のある女性はいい思いはしなかったのではないでしょうか。

個人的にもっともショックだったのは、サーヴァーの人種差別発言です。黒人選手の家族(黒人)が試合に行くチームフライトに乗ろうとしたところで、サーヴァーは彼らに「白人は前で、ニガーは後ろだ」と言っていたようです。これは、黒人が白人といっしょにレストランやホテル、プールなどに一緒に入れなかったりしていた60年代の公民権運動時代を思い起こさせます。無神経で人権無視の発言で、サーヴァーが金持ちだろうが許される発言ではありません。これが録音されていたら一発アウトだったと思います。

他にも、サンズの選手の性器のサイズや性欲について話したり、選手に金玉を剃るのか聞いてまわったり、ロスで選手が夜に出歩かないようにプロの女性を呼ぼうとか提案したり、選手達に娼婦と子供をつくらせてフェニックスにルーツを持たせるアイディアを出したりしていたようです。

もちろんパワハラもやっていて、従業員にむかって暴言を吐いたり、みんなの前で従業員を罵ったりとハラスメントを繰り返していたようです。

それが18年も続いていたと言うのです。ひどい話です。

サンズの問題はサーヴァーだけではなく、組織内でパワハラ&セクハラが横行していたようです。まさに「組織は頭から腐るという」ことわざを地で行っていて、それを管理するべき肝心の人事部が、パワハラやセクハラの被害者の方を粛清していたという訳がわからない運営になっていたそうです。これをきっかけに全うな組織に変わることができれば、ハーバードのMBAで職場環境改善についての代表的なケーススタディーに取り上げられてもいいくらいです。

サーヴァーへの罰則

この調査結果発表の翌日に、コミッショナーのアダム・シルヴァーがサーヴァーが記者会見を開きました。調査結果の罰則を発表するためです。NBAが出した答えはサーヴァーの永久追放ではなく、1年の停職処分と$10Mの罰金です。

現在のメディアの否定的な雰囲気では、NBAが出した答えは「サーヴァーのたった1年の停職処分と$10Mの罰金だけです」と言い変えた方が適切かもしれません。サーヴァーの行為が酷い割には罰則が軽いという印象です。(むしろサーヴァーの罰則を擁護しているメディアは、Sirius XM NBA Radioのブライアン・スカルブリーニしか聞いたことがありません。私が追いつけていないだけで、もっといるかもしれませんが…)

他にも球団に対し罰則があり、多様性やインクルーシブについて第三者機関の評価や対策を受け入れることや、カルチャー改善の具体的なアクションプラン提出や調査をすることなどが要求されていますが、妥当な処置だったためか取り上げられることはありませんでした。

具体的にシルヴァーがサーヴァーの正当性をどう説明したかと言うと(意訳になります):

「彼らのレポートはそれらの発言の状況をもとにつくられ、それらは人種の敵意からのものではないと結論解釈できると考えた。私はまた、本質的に彼のハートの中や究極的に彼のマインドの中はどう思っているかわからないと言っていると思う。大きな枠では、彼が言ったことは馬鹿げていて、擁護されるべきものではないが、私たちは彼がそれらの状況の中で人種をもとにそれを言ったという動機を見つけられなかった。しかし、それが彼ら(調査した法律事務所)が見つけたものだ」

「サーヴァーの暴言は人種や性ベースの敵意から来たものではない。実際、彼の行為が人種差別の敵意から来ているものであれば、究極の決定に影響があったことは間違いがないが、それは見つけられてはいない」

「ドナルド・スターリングのケースで私たちが見たのは、特定の人たちに向けられたあからさまな人種差別的行為だったと思う。人の心や気持ちを知ることはむずかしいが、(あの時)私たちはその言葉を聞きいた。… ロバート・サーバーの件では、まず、私たちは彼がチームを所有していた18年間の状況を総合的に見て、最終的に私たちが判断を下した。私が、彼がそのような言葉や行為を使うのは、私が言ったように弁解の余地がないとはいえ、(これ以上の罰則に)十分強いとは言えないという判断を下した」

「それは(スターリンの)ケースとはまったく違うものだった」

SIのハワード・ベックによると、この軽い罰則とシルヴァーの説明に、コーチや選手たちをはじめ、放送局関係者、リーグの従業員(元と現役)からも苛立ちがあがっていたようです。

また、この調査レポートに関しては、シルヴァーが言っている通り、全てが公開されている訳ではないようです。元サンズで働いていたアミン・エルハッサンは、知り合いたちから「真実を暴く人たちに自分のキャリアをリスクにかけて真実を話したのにも関わらず、レポートに自分の証言が入っていないと怒っている人たちがたくさんいる」と話しています。NDAにサインしている人たちの証言の多くを公にしていない可能性もあり、それが実質公開されていたものに対してどのような割合なのかわからないのも問題です。それがもし公開されたものよりも500%多かったとしたら、サーヴァーの罰則への印象も変わっていたかもしれません。それが狙いだったのかもしれませんが… 公開できるものを文字で公開したことは評価できますが、全体的に見るとNBAらしからぬ透明性の足りない調査レポートになったと思います。

ESPNのザック・ロウが数人の知り合いの弁護士にこの調査レポートを読んでもらって感想を聞いたところ、NBAは「敵意」という言葉を使うことで、ドナルド・スターリンとは違うケースにしたがっているようだとの返答をもらったそうです。実際は、過去のケースと比較することがポイントではなく、サーヴァーの行為自体が敵意ありなしに関わらず永久追放に値するかどうかです。しかし、NBAにとっては法的なポイントが重要なようです。

なぜ法的根拠が重要だったのか?

それは、永久追放やより重い罰になるとサーヴァーから訴えられてしまうと言われています。この詳細は後述します。

オーナーの特権

NBAはこれまで人種差別をはじめ、あらゆる社会的差別/不正義に対して声をあげてきているので、今回のサーヴァーの件では釈然としないものがあります。革新主義のNBAの価値とは真逆にいるサーヴァーの行為に対してほぼ何もしない… 正義も感じられません。罰走もゆるくて、1年はただのバケーションだと言う人もいます。1年休んでほとぼりの冷めた頃にしれっと戻ってくればいい訳です。他人に厳しく、身内には甘いと言うダメダメな組織のパターンのようにも映ります。

そして、この会見でいちばん問題になったのがこの質問に対するシルヴァーの答えです。ハワード・ベックがシルヴァーにオーナーだからと言ってパワハラ&セクハラのような行為を許すのか質問をしました。

ハワード・ベック:

アダム・シルヴァー:

「NBAチームを所有する誰かは、雇われた誰かとは違い、ここに特別な権利を持つ…しかし、私的にはMr.サーヴァーの結果は評判的には酷いものだ。匿名の状態で職場で不適切な行為を犯した誰かとこの人物を巡る公の大問題を比べるのはむずかしい」

また、「ここにはきちんとした回答はない。(チームを所有するのは)職についているのとは違う」とも答えていました。

どうやらオーナーの人種差別と性差別やパワハラは他の従業員のそれとは定義が違うようです。オーナーなら悪意がなければ人種差別やセクハラをしても問題ないというように聞こえてしまいます。もし私たちがサーヴァーの行為を職場でやったら完全アウトのはずです。ダブルスタンダードですね。

これに対して、NBAのスポークスパーソンのマイク・バスが、シルヴァーの発言の火消しに走りました。

バス:

シルヴァーとNBAにとって珍しくPR的に勝利のない会見になってしまいました。これまでNFLに対してリードしてきたものが、一瞬で灰塵と化した感じすらします。これは叩かれても仕方ありません。

ドレイモンド・グリーンも自身のポッドキャストで、オーナーを特別扱いするのはなぜかと疑問を呈しています。「NBAの中では、ローバート・サーヴァーがやったことの調査で出てきたことの半分をやっただけでも1000%首になる」

パンドラの箱

サーヴァーに永久追放のような重い罰則を課せば、サーヴァーから法廷闘争に持ち込まれるかもしれません。そうなると困るのがオーナーたちです。

そこまで行けば、裁判の証拠すべてが公開されてしまい、あらぬところへ飛び火する可能性もあります。実際に、NFLでワシントン・コマンダーの調査をしていたら、まったく違うチームのコーチが昔に送った人種差別、ゲイ差別、ミソジニーに関するメールが見つかってしまったケースもあります。ホークスのオーナーだったブルース・レヴィンソンは人種差別のメールが原因で球団を売却するはめになりました。どこかのチームのオーナーが何かしら問題になるようなメールを送っているかもしれず、もし裁判になれば、何が出てくるかわからない状況になってしまいます。

アミン・エルハッサンSIのクリス・マニックスが揃って、法廷闘争では「パンドラの箱を開ける」危険性があるため、オーナーのために働いているコミッショナーは絶対にそんな事になるような事はしないと話していました。

しかし、NBAは規約でそのような反発から守られているので、NBAがパンドラの箱を恐れているというのは、ちょっと盛り過ぎた意見だと思います。

NBA規約と定款

NBAには憲法的に位置付けされるNBA規約と定款があり、その中にはNBAを守る条項も入っています。そこにはコミッショナーの権限で行われた決定に対しては、どのような人も訴える事はできないと明記されており、サーヴァーも例外ではありません。

NBA規約の第14条項(J):「前述の手順に従って行われた協会の決定は、最終的で、拘束力があり、決定的なものであり、各メンバーおよび所有者は、そのような決定を再検討するために法廷に訴えるあらゆる手段を放棄する」

これにより。サーヴァーがNBAを相手取って訴訟に持ち込もうとしても、訴訟手続きの段階で裁判所から申請が却下される可能性が高そうです。ある弁護士によれば、申請が通ればバンドラの箱リスクが出てくるでしょうが、この規約にサインしているサーヴァーがそこまで行けるのかは疑問だそうです。

こう見ると、シルヴァーはコミッショナーの権限で、訴訟の心配なくサーヴァーに何年でも停職処分を課すことも可能です。オーナーも裁判沙汰になることにはならないとわかっていたはずです。しかし、彼らの出した答えは永久追放でもオーナーシップ剥奪でもなく「1年の停職」でした。

なぜ停職が3年ではなく1年なのかも、NBAとオーナーたちの考えを理解する重要なポイントだと思います。

NBAの批判回避策

話をまとめると、オーナーには3/4の23人が合意すれば他のオーナーのオーナーシップ剥奪が出来、球団売却を強制できる。そして、コミッショナーのサーヴァーには伝家の宝刀の永久追放があります。

上記ふたつとも、法的強制力があります。

にも関わらず、なぜかサーヴァーの停職がたった1年…

でも仮に、調査結果と処分に不満があるサーヴァーが訴訟を起こすと暴れたらどうなるでしょうか。

サーヴァーは今回の処分に対しての声明でも、「NBAレポートのいくつかの特定のものには合意しかねるが、私の発言と行動で傷ついた従業員に謝罪したい」と言っており、「納得していない部分があるが、仕方なく我慢する」的なニュアンスを込めているほどで、なかなか自分の非を認めることができない頑固さが見てとれます。

そんな行動予測不可能で頑固なサーヴァーが3年の停職処分や永久追放を受けたら、無理とわかっていても訴訟騒ぎを引き起こし、大きなニュースになるかもしれません。

そうなると、スターリンの時のようなスポンサー離脱問題や将来の放映権の交渉にも影響が出てきます。実はNBAやオーナーは、パンドラの箱よりもビジネスの方を恐れているのかもしれません。

このサーヴァーの差別問題は、クライアントやTV放送のスポンサー問題にも関係してくる問題です。はたして露出好きで女性差別者がオーナーをしているサンズの試合のスポンサーになりたいと思う企業があるでしょうか?バスケで女性をメインのターゲットにしているスポンサーは少ないとは思いますが、そこに関わってもいいイメージがつくとは思えません。そのために、調査公開と罰則のタイミングをなるべく大きなニュースにならないように画策したのかもしれません。

また、NBAはこの罰則が軽いことを自覚していて、アミンは「これはNFL開幕の1週目に当てて、すぐに消え去るニュースとしてデザインされている」と解説しています。スポーツニュースはNFLを取り扱わなければいけないので、でもどうしてもサーヴァーの罰則の話題に費やす時間は少なくなります。

このように、この「1年」という期間からは、NBAがなるべく波風立たせずに問題を解決したい様子が伝わってきます。

もしかすると、シルヴァーとオーナーたちは本当にサーヴァーの18年にも及ぶパワハラとセクハラに対して「1年の停職」が妥当だと考えていたのかもしれませんが…

シルヴァーもこの記者会見を理事会の後に開いており、他のオーナーたちとも罰則について話しているはずです。罰則をシルヴァーが決めたのか、オーナーたちからの提案だったのかはわかりませんが、シルヴァーが単独で罰則を決めているとは考えにくいです。

シルヴァーもこの罰則には政治的意図があったかもしれません。オーナーのために働くコミッショナーの立場があるにしても。シルヴァーのこれまでの言動やNBAのアクションを見ていれば、サーヴァーの行為はNBAが掲げる価値とは相容れないものだとわかります。シルヴァーは本当はサーヴァーを永久追放をしたかったのだけれど、他のオーナーたちに貸しをつくるために罰則を軽くして、悲願のインシーズン・トーナメント達成や他の案件を通そうとしているのかもしれません。海外ドラマの見過ぎでしょうか(笑)。

いずれにしても、この「1年」あたりが、他のオーナー、サーヴァー、シルヴァーががもっとも揉めずに平和的に合意できる落とし所だったと見て間違いなさそうです。

しかし、問題は現場の被害者(女性や選手たち)や従業員のことを考えた罰則ではないことが明らかだったことです。もっと被害者やNBAの価値観に寄り添った罰則にしていれば、NBAもここまで責められなかったと思います。

スターリンとサーヴァーの違い

スターリンが永久追放になってクリッパーズを売却したことから、コミッショナーであるシルヴァーにはその権限があるように見えますが、シルヴァーができるのは永久追放までで、オーナーシップ剥奪権限はありません。NBAではオーナーからオーナーシップを剥奪して球団を売却するようにできるのは、オーナーの3/4がそれに合意したのみです。実際に、シルヴァーはスターリンを永久追放だけをしていますし、後述するNBPAのタミカ・トレマリオも、NBAには売却ではなく「永久追放」を要求しています。それはシルヴァーにそれができるからです。

結局、シルヴァーは他のオーナーたちに理事会でスターリンのオーナーシップ剥奪動議をかけるように要求しています。しかし、そうなる前にスターリンの妻が裁判を通してオーナーシップをスターリンから正式に譲り受け、オーナーになったスターリンの妻がスティーヴ・バルマーに球団を売却したのです。

でも、なぜシルヴァーはスターリンの時はオーナーたちに強気でいられたのか?

まず、録音という証拠があったことがひとつ。あとは金です。

スターリンの人種差別発言はしばらくの間、全国的にもっとも大きなニュースになってしまいました。盗聴したのが愛人だったり、差別の相手がマジック・ジョンソンだったのもあり、話題性も大きく、CNNをはじめとするあらゆる報道媒体が一大ニュースとして取り扱いました。その時は、ちょうどクリッパーズはプレーオフでウォリアーズとのシリーズ中だったのですが、スターリンと関わりを持ちたくないスポンサーが逃げ出しはじめました。放送権を払っている局にとっても大打撃です。

収益だけではなく、最大のクライアントでもある局との関係にも影響してきます。そのため、オーナーたちはシルヴァーの究極兵器である永久追放の使用に異を唱えなかったと言われています。

中国問題を見てもわかるように、NBAは大人の事情にすごく敏感です。サーヴァーも同じようにニュースで大体的に扱われていたら、永久追放になっていたかもしれません。

ボブ・アイガーの陰謀論

ここでSubstackのイーサン・ストラウスが言っていたサーヴァー調査に対する陰謀論を紹介します。

(アダム・シルヴァーとボブ・アイガー)

元ディズニーのCEOのボブ・アイガーが、サーヴァー調査を食らったフェニックス・サンズの買収に興味があるとレポートがありました。その頃、アイガーはまだディズニーにいて、ディズニーの子会社のESPNがサーヴァーの問題をレポートしました。

このことから、サンズを買収したいアイガーが、ESPNを使ってサーヴァーを追い出すように仕向けたという陰謀論が出ていました。

アイガーはクリス・ポールとは友人で、クリス・ポールも最近は引退した後にNBAチームのオーナシップに加わりたいと公言しています。

停職中のサーヴァー

サーヴァーがバスケの運営や決定に関われないということで、性格が悪い私などは、ケチなサーヴァーがいない間にチームを強化してタックスまみれにしてもおもしろいと思ってしまったのですが、どうやらそれは不可能なようです。

停職中で誰とも話せないはずなのに、バスケの運営に関われないはずなのに、どうしてか?

それは、NBAはその罰則を強制することができないからです。できないと言うよりも、実施的にサーヴァーを牢屋にいれる以外にそれを回避する術がありません。仮にトレードをしようと思っても、妻や息子経由や友人経由でタックスの支払いが増えることを聞かされたサーヴァーに止められてしまいます。仮にサーヴァーのまわりに常に監視員を置いたとしても、話が筒抜けになる経路は抑えられません。スマホチェックすら意味をなさないでしょう。特に、今回サーヴァーの代わりにインテリム・ガバナーになったサム・ガーヴィンは、今回の件でもサーヴァーを支持していました。実質骨抜きなりそうな処置です。むしろ、1年ファンや選手たちの前に現れずにブーイングを浴びずに済むサーヴァーにしたらラッキーなのではないでしょうか?

予想:トレードデットラインで、サンズはタックスを抑える動きを見せると予想します。

NBA罰則とサーヴァーを巡る動き

このサーヴァーへの罰則に対する各方面からの反応です。

● 選手たち

レブロン:

レブロンがスターリンの時と同じように、リーグには人種差別の場所はないと強い表現でNBAを批判しました。

サンズのクリス・ポール:

サンズでプレーするクリス・ポールもNBAの罰則の軽さを批判しています。

「ニューメディア」の盟主のドレイモンド・グリーンも自身のポッドキャストでサーヴァーやNBAを批判。これにはウィンドーストも「パワーチェスムーブだ」と褒め称えていました。グリーンは、サーヴァーのオーナーシップ剥奪投票しよう、結果がどうなるか見てみたいとオーナーたちに呼びかけました。

● NBPA

そしていちばん大きな批判が、NBPAからあがりました。

NBPAのエグゼクティブ・ディレクターのタミカ・トレマリオさん:

「ミスター・サーヴァーのレポートされている行動と行為は恐ろしいもので、私たちのスポーツやどのような職場にも居場所はない。加えて、調査ではミスター・サーヴァーの嘆かわしい振る舞いは2021年の11月にわかった訳ではなかった事が確認された。実際、レポートはミスター・サーヴァーの人種や女性への無神経さ、ミソジニー、ハラスメントを含む不適切な行為が長く行われていたことを示唆している。有害な職場環境につながるすべての問題は10年以上続いていた。私はこの罰則についての私の考えに関して、アダム・シルヴァーに私の立場をよく理解してもらえるようにした。そして、サーヴァーは私たちのリーグでふたたび管理職につくべきではないと強く信じる」

また、トレマリオはESPNにも出演し、選手を代表してサーヴァーの永久追放を求めました。

組合がここまで強く言ってくれると心強いですね。

選手たちもバラバラで声をあげずに、まずはレブロンとクリス・ポール、続いて組合のトップと、事前に打ち合わせたかのように統制がとれている印象です。まだ何か隠し持っているような怖さもあります。

このNBPAの強気の姿勢は戦略的意図もある思われます。あまり弱みを見せないNBAがヘマをやらかしたので、このチャンスをついて今後のNBAとの交渉のために強く出ている感があります。水面下ではすでにCBAの交渉の前哨戦がはじまっているのかもしれません。NBPAは、選手が引退した後もNBAチームからエクイティーを受け取れるような制度を導入しようとしています。

もしこれでサーヴァーが1年後に永久追放になればそれはそれで言うことないですし、開幕戦ボイコットや「ミソジニー反対」などのTシャツを着て抗議するなどして、NBAは「プレーヤーのリーグ」だとリーグやオーナーたちに知らしめることができれば、NBPAはNBAに対して交渉で上手を取れます。この影響がCBA交渉にどう出てくるのか楽しみです。

● オーナーシップ

さらにサンズで2番目の大株主で、球団のヴァイス・チェアマンでもあるJahm Najafi氏がサーヴァーに辞任を要求しました。

この方は、あの元NFLで片膝をついて黒人差別に抗議をしたコリン・キャパニックの友人です。

Najafi氏は、ESPNのサーヴァーの記事が出た後の試合をキャパニックと一緒に観戦しています。今は一緒に人種と多様性問題を解決するためのMission Advancement Corpを設立しています。このように、Najafi氏はサーヴァーの価値観とはまったく違う正義感を持った人物と見受けられます。

(ホークス戦を観戦するキャパニックとNajafi氏)

ただ、ウィンドースト曰く、マイノリティー・オーナーは投票権もないので、彼はファンたちにサーヴァーにプレッシャーを与えるように頼るしかないようです。

● スポンサー

また、サンズのパッチスポンサーのPayPalも、サーヴァーが球団に戻ってきたらスポンサー契約の更新はしないと明言しています。

8月には、公民権の象徴的存在であるアル・シャープトン牧師がPaypalにオープンレターを書いてサーヴァーとの関係を止めるように要請していました。Paypalの決定にはシャープトン牧師の働きかけも影響していたのかもしれません。

スポンサー契約を失うのは、利益が$15Mと言われているサンズにとっては痛いはずです。今年はタックスの支払いが現時点で$34Mあるので、プレーオフでカンファレンスの決勝に行かないと赤字になってしまうかもしれません。それがサーヴァーのせいで更にスポンサーを失うとしたら… 取引先の投資銀行などからサーヴァー解雇のプレッシャーがかかるかもしれません。

● フェニックス市

そして、フェニックス市長もサーヴァーに対し声をあげました。

要約すると:フェニックス市は人種、宗教、性のアイデンティティー、出生、年齢、資産などの差別やヘイト行為は許されない、サンズは世界中で知られていてフェニックス市を代表している。そのリーダーシップがレポートの行為をしているのは許されない。市もこれに対し何ができるのか調査に入る。NBAにはこのような行為がなくなり、カルチャーを改善することを要求する。

市はサーヴァーの球団のために税金を使っているので、ここから批判があったことは相当厳しいと思います。今後のアリーナや練習場などに関する市からのお金がサーヴァーがいる限り認可されないことも起こり得ます。また、サーヴァーは市とアリーナの修繕費用でもめていた時、議員に球団をベガスかシアトルに移すと脅しています。その時は球団が$80Mを出して、市が$150Mを出すことを要求。その変わりにサンズは2042年までフェニックスに残ると交渉をしていました。サーヴァーは球団を移すことは言っていないと否定。

サーヴァーはESPNの最初のレポートも下のように完全否定していたので、サーヴァーがいかにブルシットなのがわかると思います。

サーヴァー:「バクスター・ホームズのまちがったレポートにショックを受け続けている。このストーリーの中にはかなり多くの不正確でミスリーディングがあり(ウソ。NBA調査内容とほぼ一致)、私は何から手をつけていいのかわからない。でもハッキリさせておく:Nワードは私のボキャブラリーの一部ではない。私は誰も、どんなグループもNワードで呼んだことはないし、誰かやどんなグループもその言葉を声に出したり書いて話題にしたことはない(ウソ)。私はその言葉を使わない。それは忌まわしく醜くて誹謗で、私の信じているすべてに反する。私の自分やプロフェッショナルの人生の導き方がそれを明らかにしている。真実をレポートする代わりに、ホームズのストーリーは元サンズのコーチのアール・ワトソンと他の名前なしの「ソース」からの不当な行動を元にしている。Mr.ワトソンは私たちの球団にプロらしくなく有害な環境をつくった。彼は明らかに信頼できるソースではない。何人もの目撃者がMr.ワトソンのストーリーの真偽を問題にしているのを聞いているのに、Mr.ホームズはここで真実を完全に無視した。今、私たちは何も起きてないことに対して証明しなければならない立場にいる。

現時点で、私は完全に公平なNBAの調査をよろこんで受け入れる。私の名前と私がとても誇りにしている球団の評判の汚名を晴らすたったひとつの証明になる」

このように、サーヴァーを巡る批判は、NBAを代表するスター選手、選手組合、オーナーシップ、スポンサー、市にまで発展しています。試合がないため、まだファンがどう反応するかわからないので、完全包囲とまではいきませんが、全方位から攻撃されている状態です。仲間は昔からのオーナーシップのサーヴァー派閥くらいではないでしょうか。

また、メディアデーでも、クリス・ポール、デヴィン・ブッカー、HCのモンティー・ウィリアムズらが何と言うか注目が集まっていました。もし、彼らが批判的なことを言えば、これまでの軽い罰則の流れが変わるかもしれません。

特に、スターリンの時のようにスポンサーがお金を出す事をためらうようになれば、NBAももっと厳しい罰則に動かざるを得ません。また、NBAに巨額の放映権を払っているESPNの親会社はディズニーで、サーヴァーのような行為とは真逆の価値観を持っています。NBAが次の放映権更新でESPNから圧力をかけられるかもしれません。ESPNは今シーズン11試合を全国放送に予定しています。億単位の金がかかった時、仲間のオーナーたちはどう動くのか。そんなことも気になります。

また、ファンが声をあげれば、サーヴァーも売却を検討せざるを得なくなります。まだまだサーヴァー問題は終わらなそうです。

そんな四面楚歌の中、サーヴァーがサンズとマーキュリーの買収のプロセスに入ると発表しました。


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