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デミアン・リラードのブロックバスター・ブレークダウン

ESPNのマーク・J・スピアーズが、「今週(9/25の週)に入ってからデミアン・リラード獲得の先頭を走っているのがラプターズだ」とレポートしたすぐ後のことだったので、リーグ全体がこのブレイザーズ/バックス/サンズのスリーチーム・ブロックバスターに驚いたようです。アメリカでもかなり多くのレポーターたちが「Holy shit!」や「Oh my god!」などのメッセージを送り合っていたと読んだり聞いたりしました。それほどリラードのバックス行きのショックが大きかったようです。

その理由のひとつに、ESPNのザック・ロウをはじめ他チームのフロント関係者を含む多くの人たちが、最終的にはヒートのオファーが最も良いものになるため、リラードはヒートにトレードされると考えていた節があると思います。その理由ももっともなもので…

(A)リラードのヒートへのトレード要求が続く可能性もあった。

ザック・ロウによると、「あるGMが、『私たちはリラードが行きたい場所に行くまでの途中下車駅になる』と言った。」とレポートしてた程、みんながリラードのヒート願望を懸念していた。

(B)リラードの残りのサラリー

リラードの残りのサラリーは4年$213Mで、36歳の2026-27シーズンにはキャップのおよそ32%の$60.2M(!!)になり、リスクがとても高い。

(C)ヤニスの今シーズンにバックスとは契約延長しない発言。

ヤニスがNYタイムズのインタビューで、バックスの優勝へのコミットメントが見えない限り契約延長はしないと話しました。

ヤニス:「みんなが同じ意思を持って、みんなが優勝を目指して、みんなが私のように家族との時間を犠牲にするとわからなければ、私はベストを出せないだろう。そしてそれが感じられないなら、私は契約にサインしない…最終的に、優勝が第一優先だ。私は同じチームに20年いて優勝できないという事にはしたくない」

再来年の夏にFAになれるヤニスがトレード市場に出てくる可能性も出てきた。ジョエル・エンビードもヤニスと同じように、「私はただ優勝したいだけだ。どんな手段を使ってもだ。それがフィリーになるか他の場所になるか、どこでになるかはわからないが、ただそれを達成するチャンスが欲しいだけだ。」と言っていて、優勝の可能性が感じられなければトレードを示唆するような発言をしていて、もしシクサーズがハーデンのハンドリングをミスをしたらトレード要求をする可能性も出てきていた。ドノヴァン・ミッチェルも再来年の夏にはFAになれ、もしキャブスに残る確約がなければ来年のどこかでトレードに出されるかもしれない。Wojも「来シーズン、巨大な才能がトレードに出されるかもしれない。それはトレード・デッドラインになるかもしれないし、翌年になるかもしれない。チームはリラードのトレードで使うアセットと誰がトレードに出されるか測っている。リラードよりも若く、オールNBAのファーストチーム的な選手達が市場に出るかもしれない」と言っているように、チームはそれらの可能性に備えてキャップマネジメント&アセットマネジメントを変えてくる流れがあった。

これだけの条件が揃えば、リラードの市場が盛り上がるはずもありません。最終的にヒートのオファーが一番良いものになるはずでした。

しかし、ヒートは最後にオファーすらさせてもらえませんでした。マイアミ・ヘラルドのアンソニー・チアンによると、「ブレイザーズはバックスからのオファーを受け入れる前にヒートと再交渉はしなかった」そうです(このあたりの詳細は後述します)。

これでデミアン・リラードがバックスにトレードされ、ヤニスとのP&Rを武器に優勝を目指す事になりました。これがそのブロックバスターの詳細です。

ブレイザーズ獲得:

  • ジュルー・ホリデー(バックスから)

  • デアンドレ・エイトン(サンズから)

  • トゥマニ・カマラ(サンズから)

  • 2029 プロテクションなしの1巡目指名権(バックスから)

  • 2028と2030のプロテクションなしの指名権スワップ(バックスから)

バックス獲得:

  • デミアン・リラード(バックスから)

サンズ獲得:

  • ユスフ・ナーキッチ(ブレイザーズから)

  • ナッシァー・リトル(ブレイザーズから)

  • キオン・ジョンソン(ブレイザーズから)

  • グレイソン・アレン(バックスから)

ブレイザーズは当初求めていたような「多くの1巡目指名権」と「切れる契約」が獲得できませんでしたが、これから球団の未来を託すルーキーのスクート・ヘンダーソンとポジションが被るホリデーをセルティクスにトレードして以下のアセットを確保しました。

  • マルコム・ブログドン

  • ロバート・ウィリアムズ

  • 2024 ウォリアーズのTOP4プロテクションの1巡目指名権(セルツから)

  • 2029 プロテクションなしの1巡目指名権(セルツから)

ここでは「切れる契約」はとれませんでしたが、元ドラフト・エキスプレスのドラフトエキスパートで今ブレイザーズのフロントにいるマイク・シュミットが評価していた25歳のロバート・ウィリアムズが「有望な若手」として獲得できました。ブログドンは今後再びトレードされるようなので、その時に「切れる契約」を得られるかもしれません。


ここからリラードのトレードのブレークダウンをして行きますが、ホリデーを含めた4チーム・トレードではなかったので、ここではブレイザーズ、バックス、サンズのトレードだけに絞っていきます。しかし、その前にリラードがトレード先に要求していたヒートを取り上げなければ全体像が見えてきません。このブロックバスターをより理解するために、まずヒートとブレイザーズの交渉について見ていきましょう。

マイアミ・ヒート

そもそもブレイザーズはヒートとの交渉を避けていたようです。ここではThe Athleticのシャムズとサム・エイミックB/Sのヘインズのレポートを中心にヒート-ブレイザーズ間の情報をまとめていきます。

ヒートがブレイザーズと話す事ができたのは、7/1にリラードがトレード要求をしてから7/7~17にベガスで開催されたサマーリーグにかけての期間だったそうです。最初の交渉では、ブレイザーズはジミー・バトラーかバム・アデバヨを要求したそうです。再建チームにジミーやバムは必要がないため、ヒートはブレイザーズは自分たちと交渉するつもりはないと考えたそうです。

しかも実際に担当者全員がベガスに行っているので直で会って交渉しても良さそうなものですが、そのミーティングをブレイザーズが拒否。結局電話での交渉になったそうです。それがヒートがブレイザーズと話した最後でした。

この7月の時点で、ヒートが具体的に何をオファーしたのかはわかりませんが、スピアーズは、「タイラー・ヒーローと1巡目指名権2つをオファーした」とレポートしていたので、おそらくこれがヒートの最初のオファーだと思われます。シャムズとエイミックは、7月と8月になり、ヒートは「タイラー・ヒーローを3つ目のチームに送って、1巡目指名権3つ、複数の2巡目指名権、スワップ、切れる契約、2022年の1巡目指名のニコラ・ヨヴィッチ」のオファーを準備していたとレポートしていました。ヘインズは、ヒートは「ヒーローと3つの1巡目指名権まで行けた」とレポートしています。いずれにしてもブレイザーズは終始一貫してヒートには興味も持たなかったようです。

ブレイザーズがヒートと交渉をしていない件に関しては、「ブレイザーズはヒートと真剣な交渉に入るのをためらい続けていて、ヒートとすぐにトレードを終わらせる事に興味を持っていないように行動している」(by マイアミ・ヘラルドのバリー・ジャクソン)や、「ヒートとブレイザーズはしばらくの間、あらゆるレベルでの交渉をしていない」(by ESPNのブライアン・ウィンドホースト)などのレポートも出ていましたので、本当のようです。ヒートがリラードのトレードを知ったのはニュースになった時だったそうで、それくらいヒートは蚊帳の外に置かれていたようです。

またリラード派とブレイザーズ派のレポーターのレポートの仕方もおもしろいものがあり、リラード派のヘインズは、「ブレイザーズはヒートとの話を拒否している。ヒートは自分にはアセットがないと理解しているが、『ヘイ、ポートランド、私達は3つ目か4つ目のチームを加えるが、私達とコミュニケーションを取って&あなたが求めているのが何か教えてくれ』と知りたがっている」とブレイザーズに問題があるかのように話をしていました。

ブレイザーズ派のWojは、「彼ら(ヒート)はデミアン・リラードを欲しがっている。彼らはただあきらめなければいけないものを最小限に留めたいだけだ…彼らは基本的にあえてブレイザーズに市場に出て行かせたがっている 。」とヒートの方に問題がある感を出していましたが、実際に適切なオファーをさせなかったのはブレイザーズの方でした。

ジミーもリラードが取れなかった事に相当がっかりしているようで、インスタに次のような投稿をしています。

このブレイザーズのやり方には疑問を持つ人も多くいるように見受けられます。クローニンGM本人がリラードのトレードではチームにとってベストな事をすると言ってましたが、そうであるならリターンを最大限にするためにもヒートにヒーローの引き受け先を含めた最終オファーを出させて、リラードの価格を釣り上げるべきだったと思います。また、11年間球団に忠誠を尽くしてきたリラードにリスペクトを見せる意味でも、ヒートからの最終的なオファーを受け取った上で、彼になぜヒートにはトレードしないかを説明すべきだったとも思います。リラード側も感じていたように、GMのジョー・クローニンにとってこのトレードは感情的で個人的なものだったように見えます。ただ、Wojによると、クローニンは自分自身に「感情、フラストレーション、疲労を排除しろ」と言い聞かせていたそうなので、冷酷に徹するが故にリラードに誤解を与えてしまったのかもしれません。

ちなみにヒートのもっとも妥当なパッケージは、「1巡目指名権2つ+ヒーロー+若手ひとり」という意見が多かったです。

ヒートが出せる選手&アセットは:

  • 1巡目指名権3つ

  • タイラー・ヒーロー

  • ニコラ・ヨヴィッチ

  • ハイメ・ハクェズ

  • ケイレブ・マーティン

こうして見ると、リターンはヒートよりもバックスとサンズとのトレードの方が良いと思うので、やはりヒートからのオファーを取ってリラードに説明を入れていれば、そこまで揉めなかったと思います(リラードとブレイザーズの泥沼離婚に関しては後述します)。

フェニックス・サンズ

センターのデアンドレ・エイトンはマックスプレーヤーですが、チームでは明らかにKD、ブッカー、ビールに次ぐ4番手で、コスパは良くありません。また、ブラッドリー・ビールの加入でオフェンスでのボールタッチが減り、主な役割はディフェンスの要に変わると言われていて、チームへのフィットが金銭的にもロール的にも良くありませんでした。

その上、エイトンは継続的にやる気を出さないと言われていて、前ヘッドコーチのモンティ・ウィリアムズだけではなくてチームのスタッフ内にもそれを問題だと思っていた人たちがいたらしいので、いずれはトレードに出されると言われていました。ただ、今シーズンが終わるとセカンドエプロンのサンズはエイトンをトレードしようとしても、サラリーマッチが難しくなるため(110%→100%)、トレードのチャンスがある時にやってしまおうという判断だったのだと思います。

アリゾナ・セントラルのデュアン・ランキンは、ユスフ・ナーキッチは役割を引き受けて、チームメイトたちから愛され、パスでサンズを助けられるチームプレーヤーだと見られていたそうです。ロールプレーヤーとして見れば、ナーキッチの方がオフェンス的にもディフェンス的にもロッカールーム的にも財政的にもフィットしそうです。

https://cdn.theathletic.com/app/uploads/2023/09/28064549/kit0vv_1.mp4?_=2

(ナーキッチはスクリーンとパスで選手やボールを動かす役割ができる)

また、サンズはPGの層が薄く(グッドウィン?)、ヒートのPGのカイル・ラウリーに興味があったらしく、そのためリラードもヒートへのトレードの望みを最後まで抱いていたそうです(by ヘインズ)。それに対しアリゾナ・スポーツのギャンボは、「これには全く真実がない。それについてたくさん聞かれたのでここで返信する。サンズはカイル・ラウリーには興味はなく、トレードでは完全にナーキッチとまわりの選手達(ロールプレーヤー)に集中していた。」と反論していました。

いずれにしても、サラリーマッチが大変なので、実際にはラウリーのトレードの実現はほぼ不可能だったのではないかと思います。

ここでおもしろいのは、サンズはこの3チーム・トレードで残りのチームがバックスになるとは直前まで教えてもらっていなかった事です。その理由はふたつあり、(A)バックスがホリデーとの関係を守るために秘密にしたがっていた、(B)公になるとリラードのエージェントがそれを潰そうとするリスクがあったためでした。

サンズがエイトンのトレードでブレイザーズからナーキッチ、リトル、ジョンソンを引き受けてもまだサラリーマッチに届きません。そのため他チームからのもうひとりの選手を加える事が必要でしたが、このブロックバスターを仕切っていたクローニンはサンズにバックスのアレンの事を明かせませんでした。クローニンはサンズのCEOに「私を信じろ。あなたはそのミステリー選手を気にいる。信じてくれ。」とだけ言い続けて、サンズに伝えたのはその選手のサラリーとポジションだけだったそうです。サンズはその情報からその謎の選手をバックスのアレンとサンダーのヴィクター・オラディポに絞る事ができました。結局サンズがアレンの事を知ったのはトレード直前だったそうです。

ホーストは、ホリデーのことを3つ目のチームに知らせずにトレードをする事は不可能だと考えていたそうですが、クローニンはなんとかやり切りました。サンズはエイトンのトレードでナーキッチを取りたかったので、謎の選手がアレンでもオラディポでも問題がなかったのも、これが実現した大きな理由だったと思います。

また、この3チーマーが時間のない中でもスムースに行った理由には、サンズとバックスが昨シーズン、ジョー・クラウダーのトレードでずっと話しをしていたため、サンズがバックスの選手たちのデューデリを終えていた事も大きかったようです。アレンはデューク大時代からダーティープレーヤーだと見られていましたが、それも含めて検討済みで気にしていなかったようです。

サンズはこのトレードでサラリー&タックスがおよそ$3.5Mあがりました($5Mというレポートもあります)。それでもナーキッチのサラリーはエイトンのおよそ半分ですし、アレンの契約も今年で最後なので、来シーズンは今のところサラリー&タックスでおよそ$41M近く節約した事になります。サンズとしても良き来トレードだっと思います。

ミルウォーキー・バックス

GMのジョー・クローニンとのミーティングで、リラードはヒートへのトレードはないという感触を得たため、9/17にバックスとネッツを他のトレード先候補としてあげました。スピアーズによると、それからリラードのエージェントのアーロン・グッドウィンが内密にリラードの興味をバックスとネッツに伝えたそうです。それまではリラードには再びヒートへのトレード要求をするリスクがありましたが、これでバックスは確証を得て動くことができるようになりました。

バックスにも動かなければいけない事情がありました。前述したヤニスの発言により、バックスはヤニスに球団一丸になって優勝をめざす姿勢を見せなければいけませんでした。

しかし、Wojによると、バックスは7月はじめからブレイザーズとトレード交渉をはじめていたそうなので、実際にヤニスの発言前からヤニスキープのために早めにリラード獲得に向けて動いていたようです。

ホリデーはリラードとポジションが被る&サラリーマッチに使いやすい&複数の1巡目指名権をとれるなどの理由でパッケージに入ったと思われます。Wojによると、バックスのホーストは、ヤニスにジュルー・ホリデーが去る責任を負わせたくなかったので、ホリデーのトレードについてヤニスにお伺いは立てなかったそうです。相手がリラードとは言え、一緒にNBA優勝をしたホリデーと別れる判断をヤニスにさせるのは酷すぎるという気づかいもあったと思います。それでもホーストはリラード獲得がバックスの優勝の可能性を上げて、それがヤニスをキープする確率を上げると信じていたため、このトレード交渉をする事にしたそうです。

また、ヘインズによると、バックスはホリデーとの関係を守りたかったため、極秘で交渉を進めていたそうです。ブレイザーズ派のWojとリラード派のヘインズのレポートで唯一同じだったのが、この「ホリデーとの関係性を守るために極秘で交渉を進めた」ところだけでした(笑)。Wojによると、7月はじめからバックスのGMのジョン・ホーストはクローニンに、「もしこれが(このトレード情報が)漏れたらバックスは引き下がる」と伝えていたそうです。

バックスもヤニスは最終的にリラードのトレードに賛成する確信はあったと思います。ヘインズによると、ヤニスは5月に一般人から誰といちばん組みたいか聞かれた時、リラードだと答えていたそうです。また、ヤニスはオールスターゲームのドラフトでリラードを1位指名していました。

リラードの方も、「優勝するのにあなたを助けてくれる選手に誰を選ぶか?」と聞かれ、「ヤニスを選ぶ…彼がするプレーは私がするプレーを引き立ててくれる」と答えていました。

かわいそうなのはジュルー・ホリデーです。ホリデーはトレードの直前にミルウォーキー・ジャーナル・センティネルのインタビューで、「私はここで優勝する前から、私は人生ずっとバックだと言ったと思う。心の底からそう思っている。他のチームではプレーしたくない。バックスと球団と素晴らしい事をし続けるチャンスがあると思うので、私はミルウォーキーにいたい。」と言っていましたが、バックスから出されてしまいました。

豆知識として、デミアン・リラードのヘッドコーチのテリー・ストッツをトップアシスタントとして雇っています。リラードはポートランドへのお別れメッセージできちんとストッツにもお礼を言っていました。バックスは7月からリラードを狙っていたとなると、これは偶然ではないかもしれません。

ポートランド・トレイルブレイザーズ

Yahoo Sportsのジェイク・フィッシャーは、「ブレイザーズは過去にもエイトンに興味を持っていて、ユスフ・ナーキッチをサンズに送る考えに集中している。ナーキッチは新ヘッドコーチのフランク・ヴォーゲルにディフェンスのアンカーを与えられる。」とレポートしています。

アリゾナ・スポーツのギャンボも「デアンドレ・エイトンの噂について言わせて欲しい。サンズは夏ずっとDAを動かすつもりはなかった。フィットは良いと考えていて、それが変わるようなオファーがなかったからだ。もし、ナーキッチが取れるなら、サンズがそれを検討しないとしたら驚きだ。」と話していて、トレードはすぐにでもあるかもしれないと話していました。

フェニックス・スポーツのジェラルド・ブーグェットも、「ブレイザーズのソースは、この数週間でサンズのデアンドレ・エイトンの名前が複数回あがったと認めた。昨年ブレイザーズはエイトンに興味があったというレポートもある」と言っていました。

Yahoo Sportsのヴィンセント・グッドウィルは、「リーグ中でブレイザーズはエイトンをリーグのトップ5センターと見ていると考えている。特に彼の年齢を考えれば価値あるアセットだ。ブレイザーズのコーチのチャンシー・ビラップスもエイトンは再生プロジェクトだとわかっている。彼もかつてはその1人だった。」とレポートしていました。確かにビラップスはピストンズで実力を発揮するまで5チームを渡り歩いていたので、彼ならエイトンのポテンシャルを引き上げられるかもしれません。

このことから見ると、ブレイザーズはリラードのトレードに絡めてエイトン獲得を最優先にしていましたが、他チームとも最後まで交渉していて、結局サンズとのトレードがベストだと判断したようです。

タイミング的にはブレイザーズはサンズに最後の数週間連絡を入れていましたが、交渉が加速したのはトレードの2日前だったそうです。

またブレイザーズがはやくからヒートを交渉から外したのは、彼らにはタイラー・ヒーローを欲しがるチームからトレードに入りたいとの連絡が入ってくるので、ヒーローの市場価値を早い段階でわかっていたからだとも言われています。それでホリデーの方が最終的に多くのドラフトアセットと変えられると判断し&ヒートのニコラ・ヨヴィッチやハメスはシュミッツのお眼鏡にかなわなかったため、ヒートとは一切の連絡を取らない事に決めたのかもしれません。

サンズからしてみても、ヒートにはエイトンとナーキッチのサラリーマッチに使える$10M前後のミドルレンジのサラリーはありませんし、シューターのダンカン・ロビンソンのサラリーも高過ぎます。残念ながらこのふたりの選手のトレードがメインになってくると、ヒートはトレード・パートナーにはなり得ませんでした。

最終的にブレイザーズにとって元NBAドラフト1位指名でまだ25歳のエイトンを得られたのは大きかったと思います。

リラードとブレイザーズの「泥沼離婚の内情」

ヘインズはリラードがバックスのトレードを知った時にたまたま電話していた程仲が良く、彼がこのブロックバスターの裏側を書いた「リラードとブレイザーズの泥沼離婚の内情」はリラードから直接聞いたものをベースにしているため、他では見られないような事が詳細にレポートされています。このスター選手がチームを変えていく昨今のNBAで11年も小さな球団に忠誠を尽くしてきたリラードが、最後に「この夏に裏側であった事はまったく後味の悪いものだった」と言うのは残念で仕方ありません。一体何があってリラードはどう思っていたのか?ここではこのブロックバスターをより理解するためにその記事の内容を紹介します。

8月末、リラードのエージェントのグッドウィンは、トレードが実現せずにリラードがチームに戻るかもしれない時のために、クローニンにリラードと直接会って関係を修復する事を提案しました。クローニンはそれに同意して、9/5にリラードの家で会ったそうです。その1時間のミーティングで、リラードはクローニンに、球団に長年コミットした自分に対しての状況のハンドリングの仕方の不満や、クローニンはなぜヒートと交渉しないのか、自分が望むチーム以外のチームにトレードされる事がどれだけ失望的な事なのか等を伝えたそうです。それに対しクローニンは、もしマイアミとのトレードを余儀なくされた場合は、あらゆるアセットを何がなんでも狙うつもりだと答えたそうです。それを聞いたリラードはヒートには行けないと思ったとの事。そして、リラードは、ヒートとのトレードがなければトレード要求を取り下げてブレイザーズに戻りたいと伝えました。クローニンはそれを「拒否した」そうです。クローニン本人はその時に「個人的にそれは悪い考えだと伝えた」と伝えたと言っていました。リラードはその答えにショックを受けましたが、「球団に戻れない事はがっかりするが、自分は望まれない場所にはいれない」的な事を言ってミーティングを終わらせたそうです。

この時はクローニンはすでにバックスとも交渉していたので、リラードに「私を信じろ。あなたはそのチームを気にいる。信じてくれ。」とサンズに伝えていたように説得しても良かったように思います。信じてくれと言っても、リラードからすれば、これまで言って来た事と違う事をし続けてきたクローニンの言う事はもう信じられなかったかもしれませんが、クローニンも誠意を持って対応すれば少なくとも「後味が悪くなる」ことはなかったと思います。

この時、クローニンは裏でグッドウィンを動けなくするために、およそ3週間の間リラードとグッドウィンからの電話とメッセージに返信をしなかったそうです(記事では9/5にミーティングをしてその後3週間の無視があったと書かれていますが、それでは時間軸の整合性がとれていないため、リラード側の記憶が曖昧だったのかもしれません)。その理由は、クローニンは思ったようなオファーがなく苛立っていた&グッドウィンに交渉の邪魔をさせたくないためだったようですが、スター選手とのコミュニケーションをシャットダウンするのは「何かリラードにとって良くない理由がある」としか受け取れません。実際にコミュニケーションが切られたジェームズ・ハーデンもモリーに切れていましたし、これでリラードのクローニンへの不信感はより増して行ったと思います。ヘインズもWojもは触れていませんでしたが、ひょっとしたらリラード側がクローニンに何か怒るような事を言っていたのかもしれません。

リラードは新築の家にバスケットボールコートもつくったので、そこでワークアウトをしていましたが、まだブレイザーズ所属だったため、ワークアウトするために9/11からブレイザーズの練習場に通いはじめたそうです。本人はプレッシャーを与えるためではないと言っていますが、クローニンはリラードを見かけてもトレードの進捗どころか一言も何も言わなかったそうです。クローニンからすれば、「トレード要求を取り下げは悪いアイディアで、チームに戻れないと伝えたのに、なんで練習に来ているんだ?」という感じだったのでしょうか。リラードはその事を「彼は私と話さなかった。それに気づいた時、私は彼とわざわざ話す事はないと決めた。」と振り返っていました。

お互いにこのような調子で9月の後半に突入し、リラード側とブレイザーズの対立が顕著になってきたため、NBAが仲介に入ることになりました。NBAはお互いにコミュニケーションを取らせるために、9/23にZoomミーティングを開きました。ブレイザーズからはクローニンと球団の弁護士が、リラード側からはリラード本人、グッドウィンが出席し、NBPAからも顧問弁護士のロン・クレンプナーが出席したそうです。そのミーティングでは双方共に信用できない事を言い合って、「時としては興奮したものになった」そうです。その事からかなり主張を激しく言い合った事がわかります。これはもう仲間割れです。ヘインズがこれを「泥沼離婚」と呼んだのも理解できます。前述したように、クローニンは自分に感情的になるなと言いきかせていたようですが、実は感情的になっていたのかもしれません。少なくてもリラードには彼の振る舞いと行動はそう見えていたようです。話がそれましたが、最終的にクローニンがもっとコミュニケーションを取る事を約束しミーティングを終了したそうです。それからの数日間、クローニンとグッドウィンは再びコミュニケーションを取り始めたそうです。

そして、9/25にブレイザーズはリラードをバックスにトレードします。

リラードにとって11年間過ごしてきた球団との別れはこのような形で「後味が悪くなる」終わり方をしましたが、リラードはヘインズとバックスのロスターを見直している時に、これは私がプレーするベストチームだと言っていたそうなので、リラードにとってはヒートに行くよりも結果オーライだったかもしれません。リラード:「私は人生ずっとアンダードッグ・チームにいた。良いシーズンだったら、それは出来過ぎだった。今、私は自分よりも良い選手とプレーすることができ、全体的に素晴らしチームにいるのは夢が叶ったようだ。そんな経験はした事がない。この状況にいる時間がきた。自分自身を十分に良くわかっているので、私はそれを最大限に活かす。この機会にエキサイトしている。」

Wojによると、クローニンは「彼らはリラードに正しい事をして謝る事は何もないと信じている。」と思っているそうです。クローニンはまだGMになって日が浅く、パワハラ疑惑で解雇されたニール・オルシェイのやり方しか見てこなかったため、リーダーシップやEQの面ではまだまだこれからのような気もします。球団のために正しい事をするのは当たり前ですが、それが球団史上最高選手のひとりと言われている選手との関係を壊す理由にはならないと思います(少なくてもリラードはポートランドのお別れの手紙で主要スタッフ全員に感謝を伝えていましたが、クローニンの名前が出てこないほど嫌われてしまいました)。クローニンもここからさらに成長し、これからはヘンダーソンと誤解を生む事がないような関係を築いて行って欲しいです。

また、ヘインズによると、実際には「リラードとブレイザーズの泥沼離婚の内情」の中で書いていたものよりも多くの事があったそうです。今後それも次第に明かされて行くのかもしれません。

トリビア

ちなみにこのトレードの勝者はリラードやヤニスやクローニンやサンズなどトレードに関わった全員だったと思いますが(間接的にセルティクスも入るかもしれません)、それ以外にクリス・ヘインズもいます。ヤニスの妻はヘインズのまたいとこ(いとこの娘)で、ヤニスとはファミリーという太いパイプで繋がっています。そして友人のデイムもバックスに行きました。これからのバックスのニュースはヘインズ対Wojになりそうです。



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