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セルティクスのマズーラボール

今シーズンのザ・アソーシエーションはセルティクス抜きには語れません。セルティクスはすでに57勝14敗と2位のナゲッツに7ゲームをつけてザ・アソーシエーション独走中で、早くもプレーオフ進出を決めています。(*以下の数字すべて3月上旬時点)

そのネット・レイティングは11.9と2016-17シーズンのウォリアーズの11.4を上回り、プラスマイナスもダイナスティーを築いた1996-97シーズンのブルズの10.8、2016-17シーズンのウォリアーズの11.6をも超えるか同等の圧倒的な強さを誇っています。それだけではなく、その爆発力も驚異的で、NBA記録となる50点差ゲームを3回達成し、オフェンスは122.0とNBA史上No.1です。

今回はそんなセルティクスの強さの秘密に迫ります。

セルティクスのスリーボール

セルティクスのオフェンスで特徴的なのがスリーで、スリーの%FGAが46.8とリーグ1位(アテンプツも42.3本でリーグトップ)になっています。スリーの%PTも40.4でリーグ1位。ほぼ半数近くのシュートがスリーにもかかわらず、EFG%は57.5%でリーグ2位と驚異的な正確さを見せています。

そのスリーもバランス良く撃っていて、スリーを1試合平均4本以上シュートしている選手にはジェイソン・テイタム(8.4本)、デリック・ホワイト(6.5)、ジェイレン・ブラウン(5.8)、クリスタプス・ポージンギス(5.2)、ジュルー・ホリデー(4.6)、ペイトン・プリチャード(4.4)、サム・ハウザー(5.4)の7人がいて、それに1試合平均3.8本のアル・ホーフォードを足せばほぼ8人にもなります。これほどスリーを分散して大量に放っているチームは他にありません。

そのためか、セルティクスは現にスリーを守れるチームとの相性が悪く、スリーを撃たせないペイサーズ(29.4でリーグ1位)はセルティクスに2敗、ナゲッツ(31.3本でリーグ2位)にも2敗、ウルブス(32.5本でリーグ4位)は2試合ともOTで1勝1敗になっています。

ちなみに、スリーの開祖を擁するウォリアーズのスリーは、%FGAが43.0と4位、スリーの%PTは37.7%と2位になっていますが、それらはステフ・カリー(1試合に12.1本)とクレイ・トンプソン(1試合に8.7本)のふたりに頼っている状態です。ウォリアーズにはスペースがないのでディフェンスはシューターふたりのアクションにも順応してきていて、スリーのクオリティーもあまり良くなさそうです。それに加え、ウォリアーズはフリースロー、2ポイントシューティングが平均以下でEFG%も55.3%と14位になっており、スリーがオフェンスの重要な役割を担っている割には効率が良いロスター構成ではありません。このあたりのスリーの使い方を見てもゲームが進化しているのがわかります。

進化と言えば、スリーの優位性についてもあたらしい情報が出ていきています。先月おこなわれたMITのスローン・スポーツ・アナリティクス・カンファレンスでは、今はどのチームもスペースを広げてスリーを撃つため、スリーが確率的な優位性なリターンを生み出せなくなっているという数字が出てきていたそうです。現状、スリーのリーグ平均が36.7%で、ツーの平均が54.5%になっており、スリーの想定リターンが普通のツーより高くなるかならないかのところに来ていて、これにフリースローのツーを入れるとすでに平衡点を超えたとも言われているそうです。

また、スリーの本数とオフェンスのエフィシェンシーの関係性が壊れていて、スリーの本数が3位のグリズリーのエフィシェンシーはリーグ最下位になっていて、スリーを撃つ率が平均以下のサンダーとペイサーズのオフェンスがリーグ2位と3位になっています。

これはディフェンスにも影響をしていて、スリーを撃たせないディフェンスをしているチームでは、ナゲッツ、マジック、ウルブス以外は結果を出せていないようです。特にペイサーズはスリーを100ポゼッションで28.6本とリーグで最低に抑えていますが、ディフェンスはリーグ25位になっています。

このようにスリーのトレンドがカーブアウトしている中でも、セルティクスのオフェンスが確率以上に機能しているのは、それがスリーだけに頼っている訳ではないからでしょう。

クロスマッチ

The Athleticのジャレッド・ワイスによると、今、セルティクスのシステムはほぼポストアップを中心にデザインされているそうです。セルティクスの対戦相手はスリーを防ぐためにスウィッチを多用しているため、ミスマッチを特定してポストに入ることが簡単になっています。そこでマズーラは5アウト・オフェンスをベースにしつつも、ミドルにプレッシャーを与えられる柔軟性が高いフレキシブルなシステムをつくりたがっていたそうです。そして、セルティクスはマズーラのビジョンにフィットするクリスタプス・ポージンギスを獲得しました。

外からも中からも点を取れるポージンギスがいる事によって、セルティクスはコートのどこからでもミスマッチを狙えるようになりました。マズーラはそれをミスマッチとは呼ばずに「クロスマッチ」と呼んでいるそうです。理由はオフェンスとディフェンスは途切れず流れの中で存在しているため、オフェンスでのミスマッチがディフェンスでのマッチアップにもクロスで影響するためだからです。

マズーラのオフェンスは、「ディフェンスを見て、それがどうしたいのか問い、ディフェンスが避けたい事を狙う」のだそうです。ディフェンスに穴がふたつあれば、テイタムとホワイトがまずひとつめの穴でクロスマッチを狙い、それがダメならウィークサイドのブラウンとKPでまたふたつ目の穴にクロスマッチをつくって攻めて行くのが良く見られます。

更に相手チームはクロスマッチしたディフェンス後のトランジション・オフェンスで、どのマッチアップに行くか数秒で決めなければいけません。

特にホリデーをディフェンスで相手センターにつけた時は、それで相手チームの選手たちが自分のマッチアップを混乱するためにディフェンスが数秒遅れるとまで言われています。セルティクスのオフェンスはディフェンスからはじまり、ディフェンスはオフェンスからはじまっているのです。そのため、オフェンスではショットセレクションにも気をつけているそうです。

マズーラがバスケットボールでオフェンスとディフェンスの「連続体」を体現しようとしているのは、子供の頃から見ていたサッカーの影響が大きいそうです。

マズーラのフィロソフィー

マズーラにとって、バスケットボールとサッカーは非常に似ていて、オフェンスとディフェンスが同じ次元にあるものだそうです。両者は多様性に価値をおくトランジション・スポーツになり、全員がすべてをこなす事ができるようになってきています。そして、ゲームの中ではどうやって小さなアドバンテージをつくるのか理解できていなければいけません。そのため。選手にはIQと即興性が求められています。マズーラはセルティクスにもそのアイディアをチームに反映していくため、役割を取り払い、流れの中でオフェンスを組み立てられるようなシステムをつくっていっているようです。

マズーラ:「全員がバスケットボールをオフェンスとディフェンスに分けたがる。だかそれはひとつのゲームだ。トランジション・ディフェンスがクソだったら、全員がトランジション・ディフェンスについて話す。でもそれにはスペーシングと、判断と、ショット・セレクション、そしてトランジション・ディフェンスが関係している。バスケットボールとサッカーが同じなのは、トランジションがすごく速く起きるところだと思う。2秒後にはオフェンスしていたりディフェンスしたりしている。ゲームは常に変化して行く」

マズーラは特にマンチェスター・シティーのマネージャーのペップ・グアルディオラをリスペクトしていて、今年のオールスター休暇中にグアルディオラに会いにマンチェスターまで行ったほどです。

(ペップの話を聞いているマズーラ)

マズーラはチームにマンシティーの試合を観せたり、グラディオラのフィロソフィーである連続体の事を説明する事もあるそうです。

マズーラ:「私にとっては、これがバスケットボールのゲームというもので、サッカーのカウンターアタックというものだ。だから私はたくさんマン・シティーを研究した。たくさんペップを研究した。彼はあらゆるスポーツの中で、あらゆるレベルでベストコーチだと思う。それは私に大きな影響を与えた」

マズーラにとっての課題は、そのフィロソフィーをどうやって選手たちに理解してもらうかでした。自分のビジョンや考えをどのように選手たちに提案して、それをどうシステムに組み込むのか考えなければいけませんでした。

マズーラ:「私がサッカーとバスケットボールを観る時、どうやって戦術的にアドバンテージをつくるかを見る。どうやって1対1をつくるか?どうやってディフェンスの弱点を見つけて、どうやってそのアングルからのアドバンテージを活かすかだ」

マズーラのお気に入りのドリルは、オフェンスとディフェンスのアサインなしで5対5で、その中では全員が正しいプレーコールをして、正しいディフェンスのカバレージをしなければならないそうです。狙いは瞬間的にリード&リアクトする事を習得する事だそうです。マズーラはこれを「脳みそをトランジションに書き変える」と言っています。

ブラウン:「それは私をより効率良いバスケットボール選手にしてくれる。なぜならゲームを自分自身にとってやさしくしなければいけないからだ。ゲームを特定して、操り、正しいマッチアップを得る。余裕をもってプレーし、時間をかけて、それらの得点はより簡単だ」

このような流れの中で、クロスマッチを意識しながら最適なオフェンスをしていくマズーラボールの基本原則は、「Read fast, play slow (読みは速く、プレーは余裕を持って)」だそうです。

「Read fast, play slow」を実践していけば、有機的に得点するチャンスがやってきます。選手たちのIQが高くないと実行できないかもしれませんが、そこは問題なさそうです。ただ、試合終盤のフローが良くないので、今後は疲れた時の判断能力を維持できるよう連続体理解の精度をあげて行く事が求められます。

また、ヘッドコーチ1年目に課題だったタイムアウトの取り方についてもサッカーの影響を受けているそうです。

マズーラ:「そこから私のタイムアウトのフィロソフィーがはじまった。サッカーのコーチはベストな先生だと思う、なぜならいちどゲームがはじまれば、タイムアウトは取れない。選手たちが試合の動向に合わせて動いて機能するシステムをつくる能力はとても大切だ。どうゲームが進んでいるか、どう素早く修正して相手ランをストップするか自分のランをつくりだすか理解させるために選手たちに力を与えなければいけない」

セルティクスの圧倒的な強さは、5アウトでスリーを爆撃投下するからだけではなく、クロスマッチで中からでも外からでも点を取れるところにもあります。また、フロントオフィスがマズーラに彼のビジョンをカタチにできる選手たちを与え、マズーラはきちんと自分のフィロソフィーをチームに浸透させていることも成績に反映していると思います。後はプレーオフでどこまで勝ち進めるかです。セルティクスはレギュラーシーズンの勢いを維持し、優勝を果たすことができるでしょうか。ポストシーズンが待ち遠しくなってきました。

マズーラボールまとめ:

  • ポジションの壁を取り払い、多様性をもたせる

  • 連続体のコンセプトの中でクロスマッチを生み出し、アドバンテージがどこにあるか理解する

  • Read fast, play slow

  • 選手にエンパワメントを与える

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