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ドレイモンド・グリーンの無期限出場停止処分について

グリーンが12/12(米時間)のサンズ戦で、ナーキッチに振り向き様に払いのけるフリをしたパンチをくらわせてNBAから無期限出場停止処分を受けました。そのおよそ1ヶ月前の11/15にウルブスのルーディー・ゴベアーにチョークホールドをキメて5試合の出場停止処分を受けたばかりでしたが、今回もナーキッチへのパンチに対しては意図的ではないとして謝罪はしましたが、「私は自分が完全に360°回転してパンチを正確に当てられる程のパンチャーだとは思わない。それは不運だった。私はファウルを取ろうとしていた。なぜなら彼が私を掴んで腰を後ろに引っ張っていたからだ。だから私は回転して避けたがぶってしまった」などと言っていて全く反省の色はありませんでした。

(ゴベアーにチョークホールドをかけるドレイモンド)

グリーンは常々何があろうと自分は変わらないとか、ドレイモンド・ルールだとか審判やNBAを批判してきていますが、今回の無期限出場停止処分でグリーンは変わることができるのでしょうか。

NBAはなぜ無期限にしたのか。

無期限出場停止処分はいつ復帰できるかわからないため、かなり重い処分になります。なぜ10試合などの具体的な数字にしなかったと言うと、グリーンがもう二度とコート上でこのような乱暴な振る舞いをしないように受けるカウンセリングが何日かかるかわからないためという事でした。この無期限出場停止処分はウォリアーズのGMのマイク・ダンレヴィーとグリーンと彼のエージェントのリッチ・ポールとミーティングをしてNBAに提案したそうです。後に、Wojが、カウンセリングを受けて暴力行為をなくす条件を提案したのはウォリアーズではなくてNBAだったとレポートしています。

これについてNBAのバスケットボール・オペレーションの責任者であるジョー・デュマースが次のように説明しました。

デュマース:「選手の問題に対処するには単に罰則的である必要はないと思っている。私はまた彼ら若い人たちがより良い大人になるのを助け、問題にどう対処するのかを助ける義務があると思っている…私たちは罰則を管理しなければいけないが、同時に彼らを放棄してもいけないと信じている。彼らは人えんだ。もし私たちが罰則を管理すると同時に彼らを助けられるなら、私たちはそうするべきだ。それが今やっている事だと思う。私たちがやろうとしているのは出場停止処分するだけじゃない」

「ただの数字に集中したくはなかった。それが5であれ10であれ20であれ、そうするとそれだけが見られてしまう。みんなが何試合かを見てしまい、『ドレイモンド、時間をかけて治してこい、必要な事はなんでもするんだ、診てもらて治してこい』とはならない…だから最低出場停止試合数もない」

「私たちが望んでいるのは、彼が復帰した時に良くなっているのを見て、何度も何度も同じ問題に対処しないようにする事だけだ。だからこの無期限の裏にある目的は、彼が準備できた時に復帰する事だ。私たちが彼は準備ができていると感じた時、彼は復帰する。チームが彼が準備ができたと思った時、彼は復帰する」

グリーンが復帰する条件としては、グリーンがチームとNBAが事前に取り決めた課題をクリアしなければならないようです。

しかも驚いた事に、これまで自分は変わらないと言い続けてきたグリーンがこの処分に納得しているそうです。

これまでの彼は、10代の時からメンターで今回グリーンに5回の出場停止処分と無期限出場停止処分を下した(去年は踏みつけたとしてプレーオフでグリーンを1試合の出場停止処分にしている)NBAのジョー・デュマースの言う事も、球団やヘッドコーチの言う事も聞いてきませんでした。ゴベアーにチョークホールドした後は「感情をコントロールできなければ、今の私のようにはなれない。感情をコントロールできないなら、優勝を4回もできない」と言っていて、まるで感情コントロールには何の問題はないかのような発言までしていました。

しかし、デュマースはグリーンについて「彼はこれをとても良く受け入れている。彼はこれに反対していない。彼は何をする必要があるか同意している。彼はまったくこれについて反抗的ではない」と話しています。

プールを殴った時は、謝罪はせずに自分のドキュメンタリーをYouTobeに投稿してPR活動でイメージ巻き返しをするような人間です。それがなぜこんなにもおとなしいのでしょうか?

考えられる事は:
➀グリーンがリスペクトしている自身のエージェントのリッチ・ポールやチームメイトのステフ・カリーから何か言わた可能性がある。カリーは「(グリーンが)集中しなければいけない事は(そのような行為を)正す事と、人として、男として、父として、夫として、バスケットボール選手としてあるべき人間になれるようにする事を確実にするためのものだった」と話し、グリーンの暴力的行為にはメンタル的な問題が根底にあり、それを治すべきだということを示唆していて、明らかに今までより踏み込んだ話をしている様子が伺えます。

➁NBAが条件付き無期限出場停止処分を出したので、従わざるを得なかった。グリーンはこの出場停止期間中に試合を欠場するたびに$153,941失うそうです。現在7試合欠場しているので、この欠場期間中に$1M以上失っている事になります。これは自分の過ちを絶対に認めてこなかったグリーンにとってもかなり堪えるのではないでしょうか。すでにキャリアで罰金が$3Mを超えています。

また、このままグリーンがコート上で暴力的な行為をすれば、スポンサーも離れてしまいますし、今後新たなスポンサー契約も得られなくなります。これでオリンピック代表もなくなるでしょう。実務的にグリーンのエンドースメント契約を獲得するリッチ・ポールもグリーンにNBAの言う事を聞くように説得するでしょう。これまでリッチ・ポールからの声明は出ていません。

➂また、ESPNのザック・ロウが言うように、今後このような事が続けば、グリーンのキャリアがスモールボールでリーグを変えたディフェンスの天才としては覚えられず、このような制御不能な暴力的な選手として覚えられてしまうかもしれません。前述したように、暴力行為をしながらも自分のイメージを気にしているようなので、このようなレガシー的な問題を避けるためには、NBAの言う事を聞くしかないと思った事も考えられます。

NBAの考え

デュマースは前述したように教科書的な説明に徹していますが、実はNBAはウォリアーズのグリーンのハンドリングの仕方に不満があったとも言われています。

ESPNのラモナ・シェルバーンは、「リーグの忍耐が切れたのは明らかだ…グリーンがチームメイトのジョーダン・プールを殴った時、リーグはウォリーズの実績とリーダーシップを考え、彼らに内部で問題に対応する事を許した。ブルズでチームメイトだったマイケル・ジョーダンに殴られたカーと、当時GMだったボブ・マイヤーズ、オーナーのジョー・レイコブはそれを内部で適切に処理できると考えていたので、その自由を与えた。それは簡単な決断ではなかった」とレポートしていました。

それは今回ウォリアーズのグリーンのスタンスが180度変わった事にも現れています。これまではウォリアーズは試合に勝つためにグリーンのコート上やコート外での暴力的行為を容認してきて、今回のナーキッチの件もコーチのカーは「私たちはドレイモンドが必要だ。彼は平穏さを保つ方法を見つけて出ていなければならない…私はまだリプレーを見ていない。だからそれについてコメントできない」と言って、終始チームメイトたちのためにコートに残らなければいけない事を強調し、暴力行為の事は非難も否定もせずに見て見ぬふりをしていました。それが1日で態度を変えたのは、おそらくNBAから強く言われたと思われます。

このようにしてウォリアーズにグリーンの対処を任せていた結果、グリーンの行為は治るどころか悪化してしまいました。ここまできたら、もうウォリアーズには任せておけないと言う事でしょうか。

現在NBAはESPNとTNTと次のTV契約を交渉中ですが、苦戦中だと言われています。数年前は前回の契約の3倍と言われていたものが、今は1.5倍にしかならないとの予想もあります。NBAもインシーズン・トーナメントを開発したりとTV契約に向けてがんばっているところに、コート上での暴力的行為が頻発にあると交渉にも影響を与えかねませんし、リーグにとってもマイナスイメージになります。デュマースはゴベアーの時にグリーンにTV契約の懸念を伝えていたようですが、グリーンは聞く耳を持たなかったようです。そして、1ヶ月もたたない内に今回の暴力的行為です。NBAが怒ったとしても仕方ありません。

選手たちの声

選手たちも現役や引退を問わず、グリーンの行為に疑問をなげかけていて、グリーンに対して否定的に話すようになりました。むしろ彼を擁護する声はウォリアーズの中からも聞こえてきません。

ナーキッチ:「彼に何が起きているのか私にはわからない。個人的にはあのブラザーには助けが必要だと思う。彼が私の首を締めなくてよかった。あれはバスケットボールとは何の関係もない。私はただバスケットボールをプレーしていたけど、彼はスウィングしていた。私はそれが良くあると思う。でも彼の人生に何があろうと良くなる事を願う」

それを聞いたグリーンは「リスペクトをするんだ。私は未だに私の意図をわかっている。でもリスペクトだ…彼はそれについて自分で思ったように思う権利がある。私はここに座って彼がどう思っているかやりとりするつもりはない。それは彼の問題だ」と言っていました。

元グリーンのチームメイトで史上最高選手のひとりとも言われるケヴィン・デュラント:「あれはどうかしている。NBAの試合であんな事は見た事がない。出来事に次ぐ出来事。私は彼が必要としている助けを得られる事を願っている。私がいた時やリーグに入った時、彼はそんな事はしなかった。だから彼が必要としている助けを得て、コートに戻って、すべてを解決してくる事を願っている」

元NBA選手からも笑い話にされてしまうほどで、元グリーンのチームメイトのニック・ヤングは次のように話しています:

ヤング:「彼はどちらかというとチープショット(弱い相手にする汚い事)をする選手だ。でも彼はそれを多くのヨーロッパ人にやる傾向がある。彼は外国人以外にはちょっかいを出さない…彼はたくさんのUFCのスキルを持っている」

ギルバート・アリーナス:「私はドレイが何をやっているかわかっている。彼はヨーロッパ人をひとりづつやっつけている…メディアがヨーロッパ人をプッシュしようとするから、彼は首を絞めたり、引っ叩いたりしているんだ」

ウドニス・ハスレム:「みんなは彼はクレイジーだと思っている。私は彼はスマートだと思う。なぜなら、彼は誰につっかかればいいかわかっているからだ。彼はゴベアーの首を絞め、彼はナーキッチを殴った。彼はやり返さない人にちょっかいを出している」

ケヴィン・ガーネット:「最後の出来事の後、彼らは座って&(ドレイモンドを)しからなければいけなかった…私は実際、あの球団は彼と本音で話すことを恐れていると思う。彼らはこの男を怖がっている」

そんな中、グリーンを無期限欠場のような厳しい処罰から守るはずのNBPAもいつものような反対の声明をリリースしませんでした。

NBPAとしては、グリーンよりも試合中に首を締められたり顔を殴られる協会所属の選手のために動かなくてはなりません。元グリーンのチームメイトのアンドレ・イグォダラも、グリーンに関しては現在NBPAのトップとして公平な立場を取らざるを得ません。

肝心なウォリアーズの動き

ウォリアーズはグリーンの行為を非難も否定もせず、彼の人生の方を心配するというPR的動きをしてきました。グリーンをまだ庇っているのがわかります。

カー:「出場停止処分はメイクセンスだ。私にとって、それはバスケットボール以上のものだ。それはドレイモンドを助ける事についてで、これは彼にとって一度(バスケから)離れて変わる機会だ…ルーディーの首を締めて、ユスフをワイルドに打って、昨年ジョーダン・プールを殴った人、彼こそが変わらなければいけない人だ」

カリーもグリーンの人間性には触れずに「お互いに責任感を持ち、ドレイモンドに責任感を持たせ、何が起きていたのか、何を変えなければいけない」と話しています。チームメイトなので悪く言わないのは仕方ないのかもしれません。

しかし、ここまで来ると、復帰したグリーンが再びキレた場合、誰が責任を取るかが問題になりそうです。今は定期的にドレイモンドのカウンセリングが順調に行っているかを、NBA、NBPA、ウォリアーズ、それにクラッチを交えてZoomミーティングをしながら確認しているそうです。これは、もしグリーンが復帰した場合、NBAも球団もドレイモンドはもうキレて暴力的行為はしないと承認した事を意味しています。もしまたグリーンがキレると次の処分はどのようなものになるのでしょうか。また無期限の出場停止処分でカウンセリングのやり直しなのでしょうか。

デュラントやデュマースが暗に指摘しているように、グリーンが感情コントロールができなくなるのははADHDや精神疾患などのメンタル系の病気を抱えているためだと思われます。仮に精神疾患でも、アンガーマネジメントのカウンセリングは通常4~6週間かかるそうで、これはシャムズやWojがレポートしていた早ければ1月はじめに復帰するという期間よりも長くなります。ひょっとすると、グリーンの復帰はもっと遅れるかもしれません。

これは私が脳神経の本を読んで知った事なのですが、突発的にキレて人を殺してしまうような人は脳の神経回路に障害があるそうです。なので、精神疾患があると言うよりも、物理的に脳の神経回路に障害があるため、感情を抑えられずに直情的な行動をしてしまうようです。神経回路にそのような問題が発生する理由は主に3つあり、1.子供の頃に強く頭を打った、2. 子供の頃の極度の栄養失調で神経回路がうまく発達しなかった、3. 子供の頃のトラウマがあるそうです。これに母親の妊娠中の薬物中毒なども入ってくるかもしれません。グリーンが殺人事件を起こすような人たちと同じとは言いませんが、グリーンは2016年にもキレて大学生を殴って警察沙汰になった事もあります。暴力的な反応を抑えられないのは昔から明らかなので、数週間のカウンセリングでは何も解決しないと思います。むしろそんな短期間で根本的な問題が解決するならみんなが救われているはずです。

それに復帰したとしても、常々「私は何があろうと自分のままでいる。それが変わる事はない…私はどう行動するかは変わらない。なぜならそれが勝利に繋がるからだ」などと言ってきているグリーンのプレーのクオリティーは維持できるのかも疑問です。これまでのようなエッジが失われれば、今後のプレーにも影響を与えるはずです。

また、グリーンのリーダーシップにも疑問がつくでしょう。去年プールを殴った後と同じように、暴力的行為を繰り返すグリーンの声は薄れ、これまでのようにチームを導けないのではないでしょうか。復帰後のグリーンのパフォーマンスにも注目です。

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