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デンバーの標高の影響について

マイアミ・ヒートの敵はこのプレーオフで平均29.3P/13.2R/10.2Aのトリプルダブルを記録しているニコラ・ヨキッチや、53.2%/39.2%/92.8%のスプリットを記録しているジャマル・マレーだけではありません。それはデンバーの標高です。

標高がどれくらいプレーに影響するのかピンとこないので、デンバーとマイアミの気圧と酸素濃度を調べてみました。海面気圧を標準の1013hPa/標高0メートルの気温25℃で計算すると…

  • マイアミ:標高はジミー・バトラーの身長とほとんど同じの2メートル(グーグル検索による)。気圧は841(hPa)で酸素濃度は100%

  • デンバー:標高5,280フィート(1,600メートル)。気圧は841(hPa)で酸素濃度は83%

ChatGPTにデンバーの標高に慣れるのにはどれくらいかかるか聞いたところ、「人にもよるが、標高に完全に順応するには2日から数週間かかる」ものだそうです。重要なのは水分補給、たくさんの休み、激しい運動を避ける事で、最初の数日は心拍するもあがるそうです。世界屈指のアスリートと言えども、肉体への負担は想像以上にかかっていそうです。

レイカーズをスウィープしたナゲッツはデンバーに9日続けて残っているので、標高対策はバッチリだと思います。反対にヒートはボストンから直でデンバー入りし(これで10時間多く標高に順応する時間を得ましたが、デンバーに到着したのは朝の5時だったそうです。睡眠と標高順応を天秤にかけて順応を選択したのでしょう)、順応する時間は60時間しか残されていません。この問題に対してヒートのタイラー・ヒーローは「標高の高いところでの試合の経験はあまりない。私たちはデンバーよりも高い標高のメキシコシティー(7,350フィート)でプレーした。でもそれは感じた。順応しなくてはいけないのは確かだ」と話していました。

では酸素濃度が20%近く減ると、コート上で選手にどのような影響を与えるのかというと…

  • 吐き気、疲労、認知機能障害。

  • 最初の数分で空気の薄さは忘れるが、試合終盤で多少影響が出るかもしれない。

  • スプリントをコート2往復すると急に呼吸が苦しくなる。

  • ドラフトワークアウトでは選手たちが青ざめて吐きそうになる。

  • ビジターのスピードは1Qには4.20 mph出ていたのが、4Qでは3.89 mphに落ちる。

  • 選手が歩いたり立ったりする時間は1Qでは69.1%なのが、4Qには73%に増える。

最後のふたつは他の標高でのデータがないのでどこまで信用できるかわからないのですが、実際にはまるでナゲッツには標高という6人目の選手がいるかのような影響があるようです。

選手たちはデンバーの標高についてこう話しています。

● マジック時代にデンバーに来た時に標高を感じていたアーロン・ゴードン:「筋肉を感じる事もできなかった。ここでプレーする時は酸素を十分に筋肉に届ける事ができなかったように思う。クレイジーだ。慣れるのに1週間か2週間かかるかもしれない」

● 対レイカーズのWCFのゲーム2の4Qに23得点した後のジャマル・マレー:「私たちはデンバーにいる。ここでは空気は薄い。私は気力で乗り切った。ジョーカーも疲弊していた。私たち全員が疲れていたが、気力でやり抜いた。彼らも疲れていたのはわかっている。私たちはたくさんデンバーでプレーするけど、彼らはそんなにしない。だからもし最後に私たちが疲れているなら、彼らは良くても私たちと同じか、私たちよりも疲れているはずだ」

● WCFのゲーム1の後のレブロン・ジェームズ:「それは本当だ。(標高が高いところでは)より早く疲れる」

● ロケッツのジェイレン・グリーン:「本当に大変だ。最初の5分なんだ。最初の5分を終えれば問題なくなる。でも最初の5分はひどい。コートを走ると唇が白くなって口が渇く」

最初の5分の事は以前レブロンも同じような事を言っていて、それを過ぎてしまえば体が回復して負担を感じなくなるそうです。

● ポール・ジョージ:「あれはひどい。ユタでもだ。それはアドバンテージだ。デンバーでは彼らはちょっとしたアドバンテージがある。それはアドバンテージだ。だからそれが彼らが強いという理由とは言わない。彼らは才能があるから強い。でもそれはアドバンテージになる」

● ナゲッツのブルース・ブラウン:「最初は疲れる。家に帰れば慣れるが、他のチームはガス欠だ。私がブルックリンとデトロイトでプレーしている時はそうだった。デンバーに行った時、早めの交代があった。なぜなら最初私は物凄く疲れたからだ。本当に最初の(コートの)往復でだ」

● 元NBAプレーヤーのエヴァン・ターナー:「標高はチートコードだ…すべてのシリーズで最低1試合を犠牲にして順応しなければならないのは確かだと思う…あの標高で、あのファーストペース・オフェンスで、ディフェンスは本当にハマっている(ナゲッツの事)。どうしようもない。あのチーム相手に不利な戦いを続ける事になる」

● 元ナゲッツのアンドレ・イグォダラ:「みんなその標高で足がどう感じるのか理解していない。胸は焼けるようで、他の何よりも足が悪く感じる。足が感じられない。試合前のワークアウトでも、私の足はどこにあるんだって感じなんだ。ショットが無感覚のように感じる。足が自分の下にあるのか、足が開き過ぎているのか閉じすぎているのかもわからない」

イギーはゲーム1でヒートのマックス・ストルースがスリーを外しているのをみて、「あれは標高足」だと思ったそうです。セルティクスとのシリーズでスリーが60%だったケイレブ・マーティンが、ゲーム1ではスリーが14%だったのも「標高足」が大きな要因だったのかもしれません。

このように選手たちも標高がパフォーマンスに影響しているのは感じているようです。ナゲッツの選手たちですら、長いロードトリップから帰ってきた時には標高に慣れるために、短時間で高負荷の肺を広げるエキササイズをしているようです。もし2連戦の2戦目がデンバーでの試合になったら…?それに西からの移動で時差がからんでくるとしたら…?考えるだけでも恐ろしいですね。

このような地の利を活かすため、ナゲッツのコーチのマイケル・マローンは試合開始後にペースを確立させて、それについて来た相手チームの疲労を狙っているそうです。マローン:「ほとんどのチームは呼吸が回復する。でも標高はここにあるので、どうせなら私たちが有利になるように使いたい」

ナゲッツが標高を使うのは戦術にだけではありません。彼らは会場全体を通して「標高が高い=ツライ」というイメージをビジターに植え付けようとしています。例えば、ナゲッツはビジターに標高を意識させるため、「マイルハイ・シティーの訪問者全員に注意喚起。この標高で激しい運動をすると、低酸素症になり、疲労、呼吸困難、心拍数の上昇、頭痛、混乱などの症状が現れます」と場内アナウンスするそうです。

殿堂入りのケヴィン・ガーネットもこのアナウンスについて「ナゲッツが試合前にあなたのメンタルをFuckしようとするのを知っているか?『デンバーへようこそ。もし気が遠くなりはじめたら、それは標高5,280だからだ』と言う。レイアップラインにいてそれを聞くと、ちょっと待て、アナウンサーは今5,280フィートと言ったのか?パニック発作を起こしそうになる」と言っていました。

このように「標高5,280フィート」をちょいちょいアナウンスに含めたり、コートに「5280」という数字をプリントしたり、フリースローラインでは「標高注意」というサインを出して、サブリミナル的に相手選手たちへ疲れている事を意識させているそうです。プレーしている時は標高の事を忘れていますが、それが目や耳に入って意識し出すとシュートやパスが乱れる事を狙っているようです。

(フリースロー中に掲げられる酸素濃度注意のプラカード)
(コートにさりげなく書かれた標高)

標高の問題はコート上だけではありません。

標高が高くなると疲労度も高まり、リカバリーにも影響するようです。また、標高が高いと睡眠も浅くなるそうです。中には眠れなくなったり、何度も目が覚めたりする人もいるとの事。ECFを1日おきにゲーム7までプレーしてきたヒートにとって、今までとは回復のレベルが違うシリーズにもなりそうですが、デンバーでのゲーム1とゲーム2の間に2日あるのが救いです。

ただ、選手たちを標高に慣れさせるノウハウはナゲッツの方が多いので、例えゲーム5のために、ナゲッツとヒートがマイアミから同時刻にデンバーについたとしても、ナゲッツのコンディショニングの方が勝ると思います。

このように標高はコート内外で選手の精神と肉体を消耗させ、疲労回復やプレーの質にまで影響を与えています。そのおかげか、ナゲッツはホームでは滅法強く、レギュラーシーズンのホーム勝率(34-7)がリーグ2位で、プレーオフではこれまでホームで負けなしの8-0です。しかし、ホームコート・アドバンテージのないヒートが優勝するには、ロードのデンバーでも勝たなければいけません。ヒートは持ち前の粘り強さでナゲッツのオフェンスだけではなく標高すら乗り越えてくるのでしょうか。

かつてコービー・ブライアントはデンバーでの試合の前日にはシガーを吸って肺を広げていたそうです。ジミー・バトラーはNBAファイナルズのゲーム1に向けて「水、ワイン、ミュージック、スペード、ドミノ」で準備をする言っていましたが、それにシガーを組み入れても良いのではないでしょうか。

(*数字は全てNBAファイナルズ前のものです)


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