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「文戯」掲載小説

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文藝雑誌「文戯」に掲載して頂いた過去作品です。新作はBCCKS(https://bccks.jp/)他で読めます。
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#お題

柿の実 猫の木 ヨリの庭

文藝MAGAZINE文戯16 Fall 巻頭企画「秋の味覚」掲載作品です。 お題に合わせて 随分以前に書いた初稿「びわの実」を秋らしく「柿」に変えたことで 色々調整に悪戦苦闘。毎度、猫の出て来る思い出深い作品です。 ---------------------------------------------- ◆柿の実 猫の木 ヨリの庭◆ 「『庭の柿』だよ。凄いでしょ」 ビニールの袋にどっさり入れて それをうちに持ち込んだのは幼馴染のひよりだ。 ──見た目は悪いけど、こう

終点の氷細工屋

文藝MAGAZINE文戯14 2021 Spring 掲載作です。お題は「花言葉」 お屋敷の脇、どくだみの咲く通学路は私の思い出の風景でもあります。 母がせんじ薬にするつもりで庭の隅に植えたものが 今では随分広がっています。多少荒っぽく抜いたって元気に根っこを広げていきます。強い花です。 ◆終点の氷細工屋◆ 誰かの呼ぶ声が聞こえる。 寂しげな笛のような音が遠く響く。振り向いてあたりを見回しても誰もいない。細い道。辺りは真っ暗な闇だ。踏み出したらその先、足元に何も無い。不

OUR HOUSE

文藝MAGAZINE文戯13 2021 Winter 掲載作品です。 創作後のnoteでのつぶやきは こちら。 ◆OUR HOUSE ◆ ── 何が間違いだったのか *  転勤先で、二人だけの新しい暮らしが始まった頃は楽しかった。 地方都市らしい小ぢんまりした町並みも親しみやすい感じがするし、耳慣れない土地の言葉さえ、新婚生活のスタートにはふさわしく新鮮に思えた。 新しくはないけれど清潔な社宅の部屋。くるくると家事をこなし、やりくりを一生懸命している柚子の様子は、何だか