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文藝MAGAZINE19 2022 summer 掲載作品 テーマは「花火」です ------------------------------------------------ 暮れていく空の下、鹿子(かのこ)さんは僕の少し前、ペースを崩すことなく歩き続けている。顔を真っ直ぐ前に向け、その先にある何者かに挑むように。 さっきまで残っていた夕焼けも色褪せ、空はだんだん紫から藍に変わる。星がいくつか数えられるようになってきた。周囲は田んぼと畑ばかりの田舎道で、民家は遠く
文藝MAGAZINE文戯14 2021 Spring 掲載作です。お題は「花言葉」 お屋敷の脇、どくだみの咲く通学路は私の思い出の風景でもあります。 母がせんじ薬にするつもりで庭の隅に植えたものが 今では随分広がっています。多少荒っぽく抜いたって元気に根っこを広げていきます。強い花です。 ◆終点の氷細工屋◆ 誰かの呼ぶ声が聞こえる。 寂しげな笛のような音が遠く響く。振り向いてあたりを見回しても誰もいない。細い道。辺りは真っ暗な闇だ。踏み出したらその先、足元に何も無い。不