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「文戯」掲載小説

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文藝雑誌「文戯」に掲載して頂いた過去作品です。新作はBCCKS(https://bccks.jp/)他で読めます。
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2022年1月の記事一覧

OUR HOUSE

文藝MAGAZINE文戯13 2021 Winter 掲載作品です。 創作後のnoteでのつぶやきは こちら。 ◆OUR HOUSE ◆ ── 何が間違いだったのか *  転勤先で、二人だけの新しい暮らしが始まった頃は楽しかった。 地方都市らしい小ぢんまりした町並みも親しみやすい感じがするし、耳慣れない土地の言葉さえ、新婚生活のスタートにはふさわしく新鮮に思えた。 新しくはないけれど清潔な社宅の部屋。くるくると家事をこなし、やりくりを一生懸命している柚子の様子は、何だか

たすけ舟の家

2020年3月発行の 文藝MAGAZINE文戯10 Spring 巻頭企画「気づいて、先輩!」掲載作品です。 ◆たすけ舟の家◆その家は「こども110番の家」だった。子供が身を護る時に、頼っていいという「助け舟」になる家だ。 小学校の行きかえり、そのプレートと「大須賀」という表札の並んだ玄関を見るたびに、私は少し立ち止まり、駆け込む自分を想像した。そこには優しいあの人が居て、「どうしたの?大丈夫?」と話を聞いてくれる。私が落ち着くのを待って、温かな飲み物を差し出してくれる。

彼岸の蜉蝣

文藝MAGAZINE文戯11 2020 Summer 掲載の作品です。お題は「あの世」 ◆彼岸の蜉蝣(ひがんのかげろう)◆ ──池の向こう側が彼岸 ──ひがん? ──そう、「あの世」 深く暗い森のような庭の隅にその池はあった。花の時期を外れた蓮池は、水面とそこから突き出す葉ばかりでひっそりとしている。彼女が指さした「彼岸」側の木々の隙間から見える空は、ほんの僅かの間に夕焼けの色を広げている。茜色に染まった世界は引き込まれるように美しかった。 ** 「おさだかなこです