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ミディアムレアは何故美味しいのか。

ステーキの焼き方として、レア、ミディアム、ウェルダンがあります。ステーキの本場アメリカでは、さらにミディアムレア、ミディアムウェルを追加した、5つに分けるのが一般的です。

アメリカのステーキハウスチェーンの Meats by Linz が2022から2023年に行った調査があります。

Consumer Steak Report

https://shop.linzheritageangus.com/pages/consumer-steak-report

アメリカ人のステーキに対する行動、意識を調査したものでとても面白いです。この調査によると、ミディアムレアが一番好まれる焼き方です。ウェルダンはあまり好まれない選択肢で、レストランでウェルダンステーキを注文する人はわずか13%、自宅で調理する場合ウェルダンを好む人は15%でした。さらに面白いのは、41%の人がウェルダンを注文したり調理したりする人を批判したことがあると回答しました。回答者の 3人に1人以上 (34%) が、初デートで相手がウェルダンを注文したら批判的になるだろうと述べています。つまりウェルダンが好きな人は、それだけで嫌われる可能性がある、という事です。居酒屋で唐揚げにいきなりレモンかける人は許せない、のアメリカ版だと思ってください。

https://steakschool.com/learn/steak-temperature-chart/

焼き加減はこのようなチャートで具体的に表されます。チャートによって少しずつ温度が異なりますが、大体このような感じです。レアであっても必ず50℃まで加熱すると決められています。それがアメリカ人のルールです。

では質問です。

なぜレアであっても必ず50℃まで加熱しなければならないのでしょうか。

アメリカ人になった気持ちで考えてみてください。



答えに移る前に、まずこちらを見てみましょう。

Wikipedia 食のタブーより

生肉を食べる文化を持つ民族は世界的に見て実はかなり限定的です。ユッケを食べる日本人は完全なマイノリティです。アメリカ人は生肉を食べません。「美味しいのは知ってるけど食べたくない」ではありません。生肉を食べる概念そのものが無いのです。だからレアであっても必ず50℃まで加熱します。アメリカ人にとっては当たり前の事なので、ステーキの焼き方を英語で調べても、「なぜレアであっても50℃まで加熱しないといけないのか」については誰も説明していません。そんなのわざわざ書く必要もないわけです。

つまり上の質問の答えは「焼くのが当たり前だから」です。

ちなみに、仮に牛肉の中身が微生物で汚染されていたとして、上のチャートのミディアムレアである54℃まで加熱しても、完全に殺菌することはできません。だからミディアムレアで食べても食中毒になる可能性があります(あくまで肉の中身が汚染されていたとして、の話です)。そういったちゃんとした知識を持つ欧米人はたくさんいます。それでもやっぱりミディアムレアで食べます。これは習慣の問題で、正しいとか間違ってるとかの話ではないんですね。そもそも生肉を美味しそうだと思わないわけですから、そんなもの敢えて食べようしない、食べる必要もないという事です。

さて、Linzの調査に戻りますが、アメリカ人はレアと反対のウェルダン、つまり焼き過ぎのステーキに対しても否定的です。これは日本人にも同じ感覚があるので分かり易いですね。肉を焼きすぎるとパサパサににってしまうからです。つまり、アメリカ人は「生では食べたくない、でもステーキを焼きすぎるなんて考えられない」わけです。ミディアムレアは、その感覚に一番フィットする焼き方だと言う事ができます。

ステーキは当然欧米の食べ物ですから、日本人は基本的に欧米人の感覚に従ってステーキを焼いたり語ったりしてきました。日本にも焼き方はミディアムレアが一番だと思っている人は多いと思います。しかしながら、日本人はユッケのような生肉を食べる食文化を持つという事、欧米人とは違う感覚を生肉に対して持っているという事を、ちゃんと理解してステーキを焼いたり語ったりしている人はどれくらいいるでしょうか。アメリカ人がミディアムレアが好きだと言っているから、ミディアムレアが一番良い焼き方です、って思ってる人が多いような気がします。

ちなみに欧米においても、レア以下の焼き加減でステーキを食べる文化が少しずつ台頭してきています。Blue Steak(ブルーステーキ)と呼ばれています。私はわかりやすく、激レアステーキと呼んでいます。牛肉は基本的に微生物は表面にしか生息していない事、だから表面さえしっかり加熱すれば安全に食べられる事、そして生肉も結構美味しいということが、一部の人に認知されてきています(ごくごく一部ですが)。

Blue Steakで検索

冷蔵庫の普及や、流通システムが洗練され新鮮な食材が手に入りやすくなった事により、食中毒にかかるリスクは昔に比べてずっと低くなりました。産まれた時からそういう生活に慣れているアメリカの現代人にとって、生肉=食中毒ではなくなってきているのだと思います。食に対する正しい知識が広まった事、異文化コミュニケーションが盛んになった事等、いろいろな理由により、ステーキに対する考え方は変わってきています。


この記事の一番上の画像を見てください。美味しそうだな、と思いましたか? 思った人は、この記事を読んだ後、ステーキに対する考え方が変わったと思います。是非一度、激レアステーキを食べてみてください。作り方はとても簡単です。厚めのステーキを買ってきて、表面だけしっかり焼けばいいだけです。中まで均一に火を通したりする必要はありません。

最後に私が焼いた、激レアステーキ ユッケ風の画像を載せておきます。

激レアステーキ ユッケ風 by 謎の肉屋

日本人は日本人のステーキを焼けばいい、それが私の考えです。

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