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#ドリーム怪談 『削ぐ』オリジナル版

こちらは今回、榊原夢さんの『集まれ! 怪談作家』という企画に投稿させていただいた『削ぐ』の編集前のものになります。文字数がオーバーしてしまったので、応募したバージョンになるまで編集した次第です💦
無断転載等は禁止します。

こちらが投稿したバージョンです。

Mさんが学生時代の夏の事。
遊び仲間での飲み会の後、Yという男友達のノリに付き合わされ、四名程で、彼の車で肝試しに行く事になった。
友達のTちゃんも付いて来たのだが、理由を聞いたら
「こういう時に家に一人でいる方が、怖い事あるじゃん? そういうのやだもん」
との事。
Tちゃんは日頃怪談本や、それ系の動画を、暇さえあれば見ているので、フラグをよく知っている。彼女のおかげで助かる事もあるかもしれない。
となれば、自分や、もう一人の男友達のFが彼女を守るしかない、と思った。

Fはバイト上がりで合流、いざ飲もうとした所で、Yが肝試しの話を出したので、
Y、お前適当過ぎ。運転役、俺しかいないじゃん。馬鹿たれがよ〜』
と、烏龍茶をちびちび飲む羽目になっていたのが、非常に気の毒だった。
真面目だし、Tちゃんの事が気になっているのも以前からバレバレなので、気が気ではなかったと思う。
肉体労働系の派遣バイトをしてるので、疲労具合の度合いによってはYを酔いつぶすしかないと思ったが、
「今日は楽な派遣先だったから疲れてない。だから運転をとちる事はないよ」
と、MさんとTちゃんだけに囁くF。頼り甲斐の塊だ。

肝試し自体は、ムード満点の場所だったが、盛り上がる事もなく終わった。
誰かの体調が悪くなる事も、一人ずついなくなる様な事も、はぐれる事もなし。
TちゃんはMさんにずっと寄り添っててくれた上に、Fにも
「手、繋いでもらっていい?」
と告げた事で、彼のねぎらいにも成功した。
ただひたすらにYがうるさかっただけだ。

後日、早朝。Tちゃんから電話があった。
『この前の肝試しの後から、カバンに入れといたノウマンの写真がないの。ああいう場所だしさ、落ちてるのかもしれない』
と、泣きそうな声で言った。
ノウマンというのはTちゃんが昔、実家で飼っていた猫だ。最近寿命で、虹の橋を渡ったと聞いている。
ここで
『他の写真で埋め合わせられないの?』
と聞くのはかなりデリカシーに欠ける気がする。
少し話し合ってから、その日のメンバーで探しに行こう、という事になった。
『『メンバーが違うから見つからない』
っていうのもよくあるじゃない?』
と、涙声で言うTちゃん。
(あ〜、よくあるわ〜)
と、Mさんは思った。

連絡すると、YFはすぐに捕まえられた。Mさんが、ざっと説明する。
苦い顔でFは頷いた。
「なるほどね……怪談のフラグだったら、Yの車で行かないとな」
Yはビビるかと思ったが、
「違う時間に行くと何か見れるかもな」
と乗り気。
Y、あんた、あれ、不法侵入だからな? 犯罪だからな?
キョロ充なら何してもいいと思ってない?」
Mさんがたしなめる。
「キョロ充って!
まあ……反省してるよ。だから飲み代、俺持ちだったでしょ?」
Yは反省する男だが、次の何かを拾って来る。幸い、犯罪絡みとか、命の軽い国のキッズが投稿した、危険過ぎる実験動画の真似などは彼も断固として避けている。しかし、
『面白いと言えば面白かったけど、ヘトヘトに疲れた』
というものが多い。
『取り扱いの難しいキョロ充だ』
というのが、彼の定評だった。

昼を少し過ぎた頃、現場に到着した。
夜は何故かおぼろげな外観だったが、日差しの下で見ると郊外の小さな作業場みたいだった。Mさんはかつてバイトをしていたダイレクトメールの封入現場を思い出した。確かこんな感じだ。
F
『現場だとこれらは擦り傷防止に必須なんだ』
と用意してくれたツナギと軍手を着用し、Mさんら女子二人は小さなシャベルを渡された。男二人は同じ服装に大きなシャベルだ。
入り口のシャッターは重く閉ざされており、穏やかでない雰囲気の落書きだらけ。前回と同じく、横のドアから入った。天井の高い内装。
さびに覆われた何かの機械が打ち捨てられている事で、屋内をいくつかに仕切っている。映画でしばしば見る取引現場を思わせた。

Fが言う。
「あの時、懐中電灯なしだったらヤバかったな。怪我して、そこから破傷風になってたかもしれない」
Tちゃんも言う。
「だよね。見つけたいけど、無茶とかはホント、やめてね?」
「分かった。じゃあ、探しますか」
と、その時、背後から声がかかった。
「はい、何をしてるのかな?」
振り返ると、2名の警官がドアを入って来る所だった。

不法侵入の負い目がある為、Mさん達はシャベルをお巡りさんに渡し、正直に事情を明かした。年配の警官が彼らに対応し、若手の警官はTちゃんの言う写真を探しがてら、中を一応調べに回っている。
『よくいる困ったちゃんだ』
と見てもらえたのか、年配の警官の対応は穏やかだった。
「なるほどね、怪談だと現場に何故か落としがちだもんな。ただ、今度からはこういう所は入っちゃ駄目だよ?
肝試しで使われがちだけど、たまに注射器とかも見つかるんだ、ここ」
つまり、そういう連中も来るって事、と彼が話し出した所で、絶叫と、クラッカーが弾けた様な音、水をぶちまけた音が重なって響いた。
「◯◯、どうした?」
年配の警官が呼びかけたが、返事はなかった。
「◯◯!?」
沈黙。だが、そちら側から、ひどく強い鉄のにおいが漂って来た。
「何だ……
みんなはここにいて。逃げないで。
お巡りさんだから追いかけないといけなくなっちゃうからさ」
道で、パトカーの側にいるのと同じ、冷たい雰囲気を発し始めた年配の警官は、腰の警棒を引き抜いてそう言うと、機械の影から向こうを覗き込み、進んで行った。
FYがシャベルを拾い上げる。FMさんとTちゃんを庇う様に前に立った。Yは最後尾に回った。
袖を掴んで来るTちゃんのその手をそっと握りながら、小声でMさんがたずねる。
「何……?」
「しっ。ヤバいかもしれない」
Mさんの方に手をかざし、Fも囁く。
その時、機械の壁の向こうから、何かが伸びて来るのが見えた。

年配の警官だ。
その頭の上顎辺りまでが、苦悶の表情を浮かべ、真っ赤になりながら、皮膚の限界をはるかにオーバーさせつつ、垂直に伸びていく。
子供の奇声に酷似した悲鳴が、その口から響いている。
Mさんの脳裏に、Tちゃんから聞いた、人間の皮膚がどれほど伸びるのかの一例で、
『新幹線に巻き込まれ、職員らによる回収の際に見落とされた被害者の一部の皮膚が、反対側の何かに引っかかったまま、ギョッとする様な長距離を伸び続けてから発見された』
という話がよぎり、頭皮に氷を押し当てられた様な怖気から、身体が震え出す。
Mちゃん!」
勿論、彼の身体が持つ訳がなく、皮膚の端々が徐々に千切れて行き、赤黒いものがのぞいていた。
薄く開いていた警官の目がこちらを捉え、途端、大きく見開かれた。

目が合ってしまった。

年配の警官の頭部は弾け、しかも下顎から裏返しになりながら、飛び散るはずの何もかもと共に、虚空にずるずると吸い込まれていく。

「あ、あ、あ……
悲鳴にならない悲鳴がこぼれ、轟々と、自分の血管を流れる血の音がした。
膝が笑う。
あまりの異様な光景に、失神しかけるMさんを誰かが背後から支えてくれた。
Tちゃんかな)
と思う彼女の視界に映るFが、
「ダメだ、警察呼ん……!」
と振り返り、そのまま顔を歪ませて固まった。
耳元でのTちゃんの悲鳴。意識を繋ぎ止めたMさんは、へたり込み、仰向けに倒れる。
視界に、切開され、展開した皮膚を虚空にピンで止められた様な状態の、驚愕と戦慄に目を見開くYの姿があった。
左端から、沸騰した鍋の様な悲鳴を漏らしながら、Fが透明な幾つもの手に攪拌され、ミンチになりながら虚空に飲まれていく。
みんなの悲鳴。Tちゃんの悲鳴。
Mさんが覚えているのはそこまでだった。

目が覚めると病院だった。点滴が視界に入る。
短時間を条件に、面会をしに来た刑事らによると、あの日の夕方、廃墟近くに停車していた、警察の自転車二台を発見した他の警官が不審に思い、近隣パトロール中の同僚各位に連絡してから突入。
すると、自分とTちゃんが倒れており、それを搬送した、との事だった。
Mさんはあった事をそのまま伝えたが、以下が、刑事らが話せる範囲で聞かせてくれた内容になる。

「妙な事に、私達の前に現れたお巡りさん達は誰も知らないって言うんですよ。でもなりすましとかではなくて確かに署員のはずで、置かれていたのは確かに警察の自転車らしいんですね。
YFは行方不明。あんなに派手に血とか飛び散ってたのに、現場からは何も見つからなかったんですって。
だから、刑事さん達も唸るばかりだし、その内、
『またお伺いしたい事がありましたら』
って帰っちゃって。
Tちゃんは別の病院に運ばれてて、こっちはその後に大学で会うまで、一度も面会とか出来なくて。
それで大学で、お母さんと一緒に歩いて来た所で、やっと会えたんです」

Tちゃんは、肝試しの夜からの記憶がなくなってました。
何度か会った事がある彼女のお母さんと一緒に、Tちゃんのアパートに行ったんですけど、何でなのか、みんなであちこちで撮った写真がなくなってました。YFの事も全然覚えてないんです。
猫のノウマンの事も覚えてないそうです。
後々、元気にはなったんですけど、次第に疎遠になって、アパートは引っ越してたし、連絡は取れなくなるし、今はどうしているのか分かりません。
現在まで分かっているのは、私らが廃墟に入って少ししてから、警察の自転車が近くに置かれていて、YFはずっと行方不明のままだって事です。
あの廃墟について、ネットの地域スレみたいな所を探してて分かった事なんですけど、今は立ち入り禁止だそうです。
それでも、肝試しで入った人達が、唸り声を聞いたり、行方不明になったりしてるって」


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