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#ドリーム怪談 削ぐ

今回、榊原夢さんの『集まれ! 怪談作家』という企画に投稿させていただいたお話になります。無断転載等は禁止します。

編集前のオリジナル版はこちら。

Mさんが学生時代の夏、仲間との飲み会後、Yという男友達の提案で、四名程で、彼の車に同乗し、山間部の廃墟に肝試しに行った。山の裾野のそこは、確実に何かがいるスポットらしい。友達のTちゃんも同行。理由を聞いたら
「こういう時に家に一人でいる方が、怖い事あるじゃん?」
との事。
Tちゃんはホラー好きで、そういうフラグを熟知していた。そしてホラーなら、こういう人物が頼りになる。となれば、自分や、もう一人の男友達のFが彼女を守るしかないだろう。

Fはバイト後に合流、Yが肝試しの話を出したので、
『何だよ、つまり運転役、俺じゃん』
と、烏龍茶を注文した。真面目だし、
Tちゃんの事が気になっているのも以前からバレバレなので、気が気ではなかったと思う。肉体労働系の派遣バイトの帰りなのに大丈夫かと聞くと、
「今日は楽な派遣先だったから、そこは大丈夫」
と、
MさんとTちゃんだけに囁いた。

数時間後。場所の雰囲気はばっちり。山あいだからか、少し冷ややかな風も素肌を撫でる。けれど、誰かの体調が悪くなる事も、一人ずついなくなる様な事も、はぐれる事もなかった。TちゃんはMさんにぴったりで、Fにも「手、繋いでもらっていい?」
と告げた事で、彼のねぎらいにも成功した。
Yはうるさかった。

後日、早朝。Tちゃんから電話があった。
『肝試しの後から、カバンに入れといたノウマンの写真がないの』
と、泣きそうな声で言った。ノウマンというのは
Tちゃんが昔、実家で飼っていた猫だ。最近寿命で、虹の橋を渡ったと、聞いている。
結果、その日のメンバーで探しに行こう、と決まった。
『『メンバーが違うから見つからない』っていうのもよくあるじゃない?』という
Tちゃんに同意したのだ。

先日のメンバーは揃った。Mさんの説明に、Fは頷く。
「なるほどね
……怪談のフラグなら、そこは厳守しないと」
Y
「違う時間に行くと何か見れるかもな」
と乗り気。
Y、探し物に行くんだかんね?」
Mさんが言うと
「反省してるよ。だから飲み代、俺持ちだったでしょ?」
肩をすくめる
Yは、幸い、犯罪絡みとか、危険な飲みなどは絶対にしないのだが、出して来るアイデアは
『面白かったけど、ヘトヘトに疲れた』
というものが多かった。

昼過ぎ、現場に到着。夜は何故かおぼろげな外観だったが、日差しの下で見ると、のどかな郊外の小さな作業場風だ。F
『現場だとこれらは擦り傷防止に必須なんだ』
と用意してくれたツナギと軍手を全員が着用し、
Mさんら女子二人は小さなシャベルを渡された。男二人は大きなシャベルだ。
前回と同じく、横のドアから入った。天井の高い内装。
さびに覆われた何かの機械の存在が屋内をいくつかに仕切っているのは、昼間でも荒廃感が強い。
Fが言う。
「あの時、懐中電灯なしだったらヤバかったな」
Tちゃんも言う。
「だよね。見つけたいけど、無茶とかはホント、やめてね?」
「分かった。じゃあ、探しますか」
Mさんが言うと、その時、背後から声がかかった。
「はい、何をしてるのかな?」
振り返ると、
2名の警官がドアを入って来る所だった。

不法侵入なので、Mさん達は素直にシャベルを置き、事情を明かした。年配の警官が彼らに対応し、若手の警官はTちゃんの言う写真を探しがてら、中を一応調べに回っている。
丁重な態度のおかげか、年配の警官の対応は穏やかだ。
「なるほどね、怪談だと現場に何故か落としがちだもんな」
ただね、たまに注射器とかも見つかるんだ、ここ、と彼が言った辺りで、絶叫と、クラッカーが弾けた様な音、更に水をぶちまけた音が重なって響き渡った。
「◯◯、どうした?」
年配の警官が呼びかけたが、返事はなかった。
「◯◯!?」
沈黙。だが、そちら側から、ひどく強い鉄のにおいが漂って来た。
「何だ、おい
……?ここにいて。逃げないでね」
年配の警官は、腰の警棒を引き抜いてそう言うと、機械の影から向こうを覗き込み、進んで行った。
FYがシャベルを拾い上げる。FMさんとTちゃんを庇う様に前に立った。Yは最後尾に回る。袖を掴んで来るTちゃんの手をそっと握りながら、小声でMさんが問う。
「何
……?」
「しっ」
Mさんの方に手をかざし、Fも囁く。その時、機械の壁の向こうから、何かが伸びて来るのが見えた。

年配の警官だ。その頭の上顎辺りまでが、苦悶の表情を浮かべ、真っ赤になりながら、皮膚の限界をはるかにオーバーさせつつ、垂直に伸びていく。
子供の奇声に酷似した悲鳴が、その口から響いている。勿論、彼の身体が持つ訳がなく、皮膚の端々が徐々に千切れて行き
……そこで、薄く開いていた警官の目がこちらを捉え、途端、大きく見開かれる。

◯にたくない。
その意思だけが籠められた、獰猛な瞳と、目が合ってしまった。

同時に、年配の警官の頭部は弾けた。そして、下顎から裏返しになりながら、飛び散るはずの何もかもと共に、虚空にずるずると吸い込まれていく。

(何あれ、何あれ……!)
動揺から、轟々と、自分の血管を流れる血の音がした。膝が笑う。
Fが、
「ダメだ、警察呼ん
……!」
と振り返り、そのまま表情を歪ませて固まった。耳元での
Tちゃんの悲鳴に意識を繋ぎ止めたMさんは、へたり込み、仰向けに倒れる。
視界に、背後から切開され、展開した皮膚を虚空にピンで止められた様な状態の、驚愕と戦慄に目を見開く
Yの姿があった。
左端から、沸騰した鍋の様な悲鳴を漏らしながら、
Fが透明な幾つもの手に揉み潰されながら、虚空に飲まれていく。

みんなの悲鳴。Tちゃんの悲鳴。
Mさんが覚えているのはそこまでだった。

目が覚めると病院だった。
面会をしに来た刑事らによると、
『あの日の夕方、廃墟近くに停車していた、警察の自転車二台を発見した他の警官が不審に思い、立ち入ると、自分と
Tちゃんが倒れていた』
との事だった。
Mさんは事実を伝えたが、以下が、彼女が説明され、話せる範囲で聞かせてくれた内容である。

「妙な事に、
『その職員二人のデータが確認出来ない』
って。でも確かにお巡りさんで、置かれていたのも警察の自転車だったんです。
『そこがまず変だ』
って。
YFは行方不明。あんなにひどい事になっていたのに、髪の毛一本見つからなかったんです。
だから、刑事さん達も唸るばかりで、その内、
『またお伺いする時にはご連絡します』
って帰っちゃって。
Tちゃんは別の病院に運ばれてて、こっちはその後に大学で会うまで、一度も面会とか出来なくて。
それである日、お母さんと一緒に歩いて来た所で、やっと会えたんです」

Tちゃんは、肝試しの夜からの記憶が、なくなってました。私と三人でTちゃんのアパートに行ったんですけど、何でなのか、みんなで撮った写真が全部なくなってました。
YFの事も全然覚えてないんです。猫のノウマンの事も……

「彼女は後々、元気にはなったんですけど、次第に疎遠になって、今はどうしているのか……分かっているのは、私らが廃墟に入って少ししてから、警察の自転車が近くに置かれていて、YFはずっと行方不明のままだって事です」

今は徘徊ルートから外れているが、何十年も前にその辺りで、餌をもらって降りて来てしまった熊が処分された場所である事。時折どこからか、設備が撤去されたはずの、熊警報が聞こえる噂の場所である事。
それくらいしか、
Mさんには調べがつかなかった。

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