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生きる活きるとは<前編>

「頑張れば、私、正社員になれますか?」


これはある男の話である。

数年前、男の会社には過去に例を見ない「超大型案件」が入り、その為生産現場にて「人員不足」が生じることが予想されていた。

現場管理者、そして首脳陣達との会議の結果、この超大型案件を無事終了させる為に「派遣社員」を数名導入することが決定された。

またこの会議にて、この大型案件の現場監督を「男」が担当する事になった。

この案件の生産期間は「3ヶ月弱」。

それまで現場の品質/生産/人員のこの3つを全てコントロールしなければならない。

男は重要な仕事を任されたのであった。


数日が経ち

人事は派遣会社と軽い面接を行い「派遣社員」を5名入れた。

男は、早速この5名に会社のルールや仕事内容の説明をし、1日でも早く現場に器用させようと指導していた。

その後1週間が経ち、もう全ての「派遣社員」は現場に溶け込んでいた。

その中に1人、男の目にとまる「派遣社員A」がいた。

「派遣社員A」は非常にやる気があり、明るく、現場で活躍しようと努力をしていた。

話を聞くと「派遣社員A」は女性ながら受験を控えているお子さんを1人で育てている苦労人だそうだ。

そのようなバックボーンが彼女を懸命に働かせる理由となっているのだった。


ある日

彼女にある作業を頼んだ際、こう聞かれたことがあった。

派遣A
「頑張れば、私、正社員になれますか?」

男は少し顔を歪めてしまった。

何故ならこの大型案件が終了する「3ヶ月後」には契約を満了することは当初から決まっているからだ。

だが、彼女の希望にも応えてやりたい。


「こんど人事に話をしてみますよ」

男は「派遣社員A」に対し、少しばかりの「情」を掛けてしまっていることに気が付いていた。

その言葉を聞いた「派遣社員A」は笑顔で現場に向かっていった。


それから1ヶ月後


仕事を通して「派遣社員A」を観察し、人間性や能力は「正社員」として雇用しても問題ないことが男の中で固まり「人事担当者」にその話をしようと考えていた時であった。

その「派遣社員A」は喫煙室にて、その「人事担当者」と何やら話をしていた。

談笑を交えつつ、何やら盛り上がってる。

その物腰はまるで「スナックのママ」のようにゆっくりと相手の「懐」に入っているかのように見えた。


そう、彼女は「人事」に直訴したのであった。

派遣A
「はっきりさせたくて直接聞いちゃいました」
「検討して下さるそうです」

その後、この「派遣社員A」は正社員となったのであった。

男は何かスッキリしない、少しばかりの不信感を彼女に持つと同時に、何か嫌な予感を感じるのであった。

<後編へつづく>

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