アトランティス幻視 崩壊前夜14

翠の軽い足音に続き
コツコツと固い足音がして
衣擦れの音と共に
青鷲が到着した

風の主さまをお連れいたしました

天狼星と黒曜が振り返ると
青鷲は覇気の無い表情で
入り口に立ち尽くしていた

ぺこりと一礼して翠は持ち場へと戻っていく
その足音が消えても青鷲は動かずにいた

いつもは精悍な鋭い眼光が
麻痺したようにぼんやりとしている

どうした青鷲?
天狼星が問いかけても
目の焦点が合わず答えも返さない

黒曜の表情が険しくなる

なにか催眠のような気配がします
主上お下がりください

黒曜は懐から黒い小さな石を取り出し
息を吹き掛ける
さらにもうひとつ
キラキラと光る金属を手にすると
黒い石と打ち合わせる

きいん、と鋭い音が空気を裂く

その音に青鷲は肩をびくりと震わせ
青ざめた頬に赤みが差す

ぼんやりとしていた瞳が数回瞬くと
はっとしたように周囲を見渡した

主上
黒曜さま
私はいったい

少し混乱した様子の青鷲に
黒曜は石を握らせ腰かけるよう促すと
足元に石を並べはじめる

なにがあった?
天狼星が尋ねると
青鷲は首を捻りながら答える

はい
主上の指示の通り
すぐにセンターツリーに向かい
幼生の実をを探しておりました
枝という枝を隅から隅まで探しました

天狼星は問う
実はいくつあった?

7つです
答えながら青鷲はさらに首を捻る

7つ数えて
そのあと何が起こった

天狼星が問うと
青鷲はぐっと眉根を寄せ
少し考え込んだあと小さな声で答える

センターツリーが突然白く染まりました

予想外の答えに
天狼星は黒曜と顔を見合わせる

私がツリーを離れようとした時でした
まるで明かりが点るように
ツリーの根元が白く光りました

そして光は幹を上っていくと
枝に広がり葉も白く染まりはじめました
そしてそこかしこに
小さな白い実のようなものが生り始めて
そのあとの記憶がありません

その白い実は幼生とは違うものか?
天狼星が問うと青鷲は目を細めて
記憶を手繰りながら答える

違うように感じました
幼生より遥かに小さく
生りかたも葉の根本に
いくつも並んでいたように見えました

そこまでいうと青鷲は体をぶるりと震わせる

何よりツリーが白く染まるとは
この目を疑いました
なにか恐ろしいような美しいような

と、そこで言葉を止め

思い出しました
白い実が生りはじめた頃に
甘い香りが漂いました

その香りを嗅いだ途端
気が遠退きました

黒曜は思わず天狼星を見つめる
センターツリーは朱斗の砦であり
ツリーに起こる異変は朱斗自身に
なにかアクシデントが起こったことを
示しているに等しい

主上
黒曜がおずおずと呼び掛けると
天狼星は固い横顔で言う

我らもセンターツリーに向かおう

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