アトランティス幻視 崩壊前夜25 終章

光の柱から響く声は
頭のなかに直接届いている

それは人の声ではなかった

半覚醒で船から降りてきた街人たちも
その声に反応し次々と覚醒していく


隼はふと目を凝らす
光の柱のなかに
ちらりと影が動いたように見えたのだ

しかし
あまりにも強い光に阻まれ
その輪郭すら捉えられない

そのとき不意に天頂から
太陽の光が差しはじめた

地表のエネルギーが整ったことで
蝕が終わったのだ

夏の太陽はすぐに強さを増し
光の柱は淡く滲みはじめる

そこに浮かぶのは
黄金の鳥の顔
くちばしは細長く鋭い

白いローブを長くはためかせ
すらりと背が高い

そして
その腕に支えられるようにして
空に浮かぶ細い人影の
銀の髪が風に揺れる

隼は思わず叫ぶ

星読みさま!

その声に街人たちがざわついた

光の柱のなかに浮かぶ天狼星の姿に
覚醒した人々の悲鳴が重なった

天狼星はふと目を覚ました
懐かしい皆の声が聞こえたようで
胸がざわついた

頬に心地よい風を感じて
天狼星はわずかに目を開ける

抜けるような青空が目に眩しい

再び微睡みかけて
視界に金色の朱鷺を見た天狼星は
思わず声をあげる

朱斗さま
声に出したつもりが
喉がかれて音にならない
くぐもって小さいその声に
金色の朱鷺は優しく応える

天狼星
汝はよく勤めた
充分に努めた
今は休むことだ

天狼星はその言葉に
心から安堵する

もう
泥のように疲れて眠かった

今は眠りなさい

朱斗の声が優しく響く

天狼星は再び目を閉じると
深い眠りについた

隼よ

突然名を呼ばれ
隼は驚きに身を固くする

それでもぐっと腹に力を込め叫んだ

星読みさまをお返しください
私たちには星読みさまが必要なのです

隼の叫びを聞き
朱斗は暫しの沈黙の後
静かに言葉を発した

汝に任せよう
彼らの残した希望を
人々に伝え生きてゆけ

突然のことに隼は戸惑う
彼らの残した希望とは
いったい何を示すのだろう

そして
ふと風の主の姿がないことに気がつき
隼は再度光の鳥に問いかけた

風の主はどちらにいらっしゃいますか

朱斗は無言で足元の海を見遣る

次の瞬間海の中から
小さな青い鳥が真っ直ぐ空に駆け上がると
朱斗の肩にふわりと舞い降りた

朱斗は青い鳥に語りかける

そなたもまだこの星に必要であるようだ
あの者と共にここで生きてみるか?

青い鳥は小さく首をかしげると
軽く羽根をばたつかせた

ふと朱斗の目が
天狼星の額の石を見る

朱斗は指を伸ばし
光る石を額から外すと
再び青い鳥に話しかけた

我が民がここに生きた証だ
あの者に届けるといい

青い鳥はくちばしに輝く石を咥えると
朱斗の肩から飛び立った

その姿を遠く見遣り
腕に天狼星を抱えたまま
朱斗は光の柱を上っていく

星読みさま

民の泣き声が響くなか
黄金の鳥はきらきらと光に溶け
空に消えていった

隼は呆然と
黄金の鳥が
天狼星と共に
消えてゆくのを眺めていた

その肩に
先程朱斗の元を飛び立った
青い鳥がふわりと舞い降りた

近くで見るその鳥は
知恵ある静かな瞳をしている

ふと隼は雫の変化を思い出す
もしやこの鳥は青の主ではなかろうか

青鷲さま
語りかけると青い鳥は小さく首を傾げ
くちばしから輝く石をぽとりと落とした

隼は手のひらに石を受け止める
青く光る石は静かに隼を見返している

共に生きてくださいますか

隼が問いかけると
青い鳥は満足そうに身を震わせ
応えるように小さく鳴いた

真夏の太陽は明るく輝いている

隼はしばし
広い海を眺めていたが
やがて仲間の待つ森へと
ゆっくりと歩き始めた

肩には青い鳥を乗せ
その手のひらには
未来への願いの欠片を握りしめて

最後までお読みくださり本当にありがとうございました!

special thanks to

mai kaibe ☆ acco tipi

カズボーsan

and

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