アトランティス幻視 崩壊前夜6 花の主

街外れの森から足早に出てきたのは
花の神殿の主である

薄桃色の巻き毛は華やかに背を流れ
同じ薄桃色の羽織の裾は優しい緑

腕のなかには色とりどりの花を抱え
軽やかな足取りで先を目指す

夏至祭に相応しいグリッドを作りたい
花は瑞々しく草は青く

頭のなかではもう
最適な草花の配置を考えている

花のグリッドを配置したら
石の神殿からクリスタルを運ばなければ

忙しく考えながら
街の中心部から放射状に伸びる水路を繋ぐ橋を渡り
花の神殿への道を急ぐ

ふいに彼女の脳裏に直接声が響く

花依

優しい呼び掛けは
星読みさまの音だった

風の神殿へ参られよ
話しておきたいことがある

穏やかな呼び掛けに
花依は背筋が緊張するのを感じた

長く花の主を勤めているが
このように直接音を送られたのは
今回が二度目である

創生から長い時を経て
思考の転送も重くなり
かなりエネルギーを使うので
日常的に行われなくなっていた

前回の呼び掛けは
風の主が行方知れずになったときだった
今回もまた
緊急のことであるのは間違いがなかった

花依も集中し一言のみ送る
御意


二度ほど器を変えている彼女には
それが限界であった

そして花依は
薄桃色の羽織をはためかせて
風の館へと向かった

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