アトランティス幻視 崩壊前夜23

天狼星と青鷲が星の塔を出ると
とうに陽は登り
照りつける日差しはもはや
真昼に差し掛かろうとしていた

それでも昨日センターツリーから
流れていた冷気の名残で
あたりはひんやりとしている

青鷲
体は大事ないか

腕を支えてくれるのを気遣うと
青鷲は笑ってみせた

ありがとうございます
昨日よりは冷気も弱まっておりますし
ツリーまで歩く程度であれば問題ありません

青鷲も疾うに体力の限界が来ていた
しかし時間は待ってはくれない
正午までにセンターツリーへ
その一心で青鷲は歩き続けた

居住区を抜け
水路を渡る橋に差し掛かる頃
白く凍るツリーの頂点に
ふわりと光る人影がさし
ゆっくりと降下をはじめた

主上、あれは

青鷲が指差す先をみて
天狼星は呟く

獅子座だ

獅子座
それは裁定を下すもの
クリスタルの回収者

太陽はツリーの真上に差し掛かっていた

青鷲はぐっと眉を寄せ
天狼星を支える腕に力を込めると
最後の力を振り絞り
ひたすらにツリーを目指した

光をまといながらゆっくりと降下した人影は
ツリーの正面に静かに着地する

獅子座
顔は黄金に輝くライオン
屈強な体に黄金の鎧をまとい
幕を閉じるものとして
この地に降り立つ

冷徹な回収者は
樹の根元に埋め込まれたクリスタルと
眠る朱斗を透かし見る

朱斗
汝の都が終わる時が来た

只今を以てコアクリスタルを回収する

裁定の宣言を行うと
ライオンは右手を樹に翳す

すると
ライオンの言葉を待っていたように
ツリーの奥に青い光が点り
爆発的に溢れはじめる

ぎしぎしと嫌な音がしてツリーが軋み
その根を大きく引き裂くようにして
青いクリスタルが姿を表した


天狼星は
獅子座が右手を上げるのを見て顔色を変え
声を振り絞った

朱斗さま!

その声に獅子座が振り返る
黄金に輝く獅子の
金色の瞳が天狼星を捉えた

汝も早く船に乗れ
すぐに出立する

静かに低いうなりのような声

天狼星はその金の瞳を見つめると
弱く首をふる

我はここに残ります
たとえこの身をを失おうと
質量は残ります

風になり雨となり
この星を見守りましょう

そして青鷲を振りかえると
懐から桃色の石を取り出した

花依の石を船へ

青鷲は
花依の石を受けとると
天狼星を支えながら
青いクリスタルへと歩みを進める

コアクリスタルは
樹の根元を破壊し押し上げてなお
傷ひとつなく艶やかだった

青鷲が桃色の石をかざすと
青いクリスタルは
応じるように輝いた

すると花依の石は
青鷲の手からふわりと浮き上がり
青の光に溶けていく

石の光が落ち着くのをみて
天狼星はクリスタルに向かい
膝をつき深く頭を垂れる

朱斗さまにおかれましては
長くこの星に留まりて
共にこの街を育み育てていただけましたこと
心より感謝いたします

青鷲も天狼星に倣い
深く頭を垂れた

朱斗さまの永遠の旅路が
青き光に満ちあふれますよう

天狼星の頬を伝う雫が
ぽとりと石畳に落ちた

我が主
おさらばです


そして天狼星は獅子座へ向き直り
力を込めて宣言する

これをもってこの街は
すべての実験を終えた

宙船の回収を要求する
我が故郷
シリウスへ

獅子座は静かにうなずくと
再びクリスタルに手のひらをかざす

只今を以てコアクリスタルを回収する

獅子座の言葉が響き渡る

刹那クリスタルから
凄まじいまでの青い光が溢れだすと
天狼星と青鷲
アトランティスのすべてを飲み込んで

弾けた

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