アトランティス幻視 崩壊前夜17

天狼星の指示を受け
水の神殿の主である雫と
風の神官隼は
島のはずれにある
小さな船着き場へと向かった

遠い昔
星の船が行き来したというその場所は
今は専ら
イルカたちのための遊び場と化していた

はしゃぐイルカたちの声がかすかに届く
夏の午後の日差しが強く降り注ぐ

あまりの出来事に言葉もなく
俯きがちに進む雫に
隼が小さく問うた

雫さま
新しい陸地は見つかるでしょうか?

不意の問いかけに雫は顔をあげる
そしてイルカたちの方を向いたまま答える

あの子達は知っていると言っています
きっと見つかります
ただ

そこまで言葉にして
雫は眉を曇らせる

私たちはこの島しか知りません
たとえ陸地が見つかったとして
この島以外で生きていくことなど
果たして可能なのでしょうか

隼も返す言葉を見つけられず
二人は再び沈黙のまま歩みを進める

明日の昼には
この島は沈むのだ

残された時間の少なさに絶望しながら
それでも今するべきことを進めるしかない


船着き場へ着いた二人は
すぐにイルカたちを呼び
外へ抜ける細い水路を越え
海へと向かった

よく晴れた夏の空は見通しもよく
浮き沈みするイルカたちの背を眼下に
隼は高く空を進む

島を出て半刻もたった頃
思いの外早く陸地の影を見つけ
隼は少しだけ安堵する

陸地の存在を伝えるため
隼は高度を下げイルカたちに近づいた

雫さま
太陽の方角に陸地が見えます
あの地は如何でしょう

念を送ると
雫は隼を振り仰ぐ

もう少し土地に寄れば
浜の生き物たちに話を聞けます
貴方も空から様子を見てください

イルカの背から答えを送ってくる
隼は了解の代わりに大きく旋回すると
未知の陸地へ向かい羽ばたいていく

隼は青い空をぐんぐん進む
頬を打つ風が心地よい
青い空はどこまでも広く
海は光の強さできらきらと色を変える

ああ
美しいな
隼はポツリと呟く
あの街だけではない
この星は本当に美しいのだ

遠く陸地に緑が見え始める
草が生えている
あの地も生きている

隼は胸にかすかな希望が沸き上がるのを感じていた

少し岸から離れた場所に
小高い森を確認すると
隼はもと来た道を戻る

なだらかな浜辺を見つけ
隼はゆるやかに降下する
イルカたちと雫も浜辺近くまで届いていた

隼の姿をみて雫は笑顔を浮かべる

浜辺の生き物たちも皆優しいです
この地は安全だと言っています
行く当てがないと話したら
歓迎すると言ってくれました

雫の笑顔に隼は心から安堵する

そうですか
それは心強い
皆喜びます
早く戻り知らせましょう

夕暮れの迫るなか
二人は再び海に出る
太陽が沈むまでに
街に戻らねば

太陽を背に
もと来た道を戻るのだ
二人は希望を胸に帰路に着いた

そして半刻が過ぎ
隼は焦っていた

間もなく陽も落ちる

戻らねばならぬのに
道が見つからない

どんなに高く飛ぼうと
青いドームの影すら見つからない

雫もまた焦りを感じていた
どんなに泳いでも
同じ場所をぐるぐると廻ってしまう

海の様子がいつもと違う

イルカたちも怯えている
島の匂いを辿れない
甘い嫌な匂いがして目が回る
方向がわからないというのだ

隼の羽根も限界が近い
しかし陽が落ちればもう飛べない
イルカたちも疲弊している
もはやあの陸地に戻り
岸辺で朝を待つしかないのか

隼は必死で羽を打つ
焦りで胸がいたい
軋む体を駆り立て
ひたすらに青い島を探す

隼は声にせず祈る

星読みさま
風の主
どうぞご無事で

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