くるり〜なに寄せて

2023年の夏、渋谷のCCBTで行われた
岩井俊雄さんプロデュース「眼と遊ぶ」展の企画のひとつとして
ワークショップをさせていただきました。

7月22日に「くるり〜オ」 中学生以上向け
7月30日に「くるり〜な」 小学生向け
その後会期の間、初代の装置とともにCCBTに展示されることになりました。そちらに寄せたコメントを改めて、こちらに転記します。

くるり〜なに寄せて

「くるり〜な」は、私の幾重にも重なる勘違いの末に生み出された動画装置です。

2010年の春、ぱらぱら漫画のグループ展に参加しました。 その展覧会をきっかけに技術評論社の最上谷さんからご連絡をいただき、「女性に向けたアニメーションの装置作りを紹介する本と作ってほしい」とご依頼をいただきました。

最終的には11の装置を紹介する本になったのですが、当初は20個ほどを紹介したいとのお話しをいただいてました。

困ったな…。

私が知ってる映像装置といったら、ソーマトロープ、フェナキスティスコープ、ヘリオシネグラフ、ゾートロープ、プラクシノスコープの5種類しかない。 それにぱらぱら漫画を加えよう、そうだ、大学の大先輩=岩井俊雄さんがゾートロープの中に立体を入れていた気がする。

それもひとつにして…それでもまだ7種類しかない。

あと13種類をどうやって絞り出すか…。

そういえばエジソンがキノーラとかいう装置を作ってなかったっけ?と加えてみたのがこの「くるり〜な」誕生のきっかけでした。(正確にはエジソンが作っていたのはキネトスコープで、キノーラはリュミエール兄弟が作ったものでした)

他にもいくつかの装置を発掘したり、発明したりして、何とか20個の装置案を提出しました。

その後ページ数からしてそんなに必要なかったことがわかり、実現可能そうな11の装置を試作していく日々が始まりました。

中にはステッピングモーターをアナログな手法で手作りしよう、という装置まであり、読者に相当な無茶を強いる内容ではありましたが、「女性にむけたアニメーション」というコンセプトに当時の私はとても共感していました。というのもその直前に勤めていたところでは、力のない私には難しい造形物が多かったのです。この本では力がない人でも丁寧に作りさえすれば完成できるものを目指そう、と試行錯誤を繰り返していきました。

全ての装置は原理さえ同じであればいいのだから、という判断のもと、できるだけ手に入りやすい素材を使用し、加工方法も何とか楽できないかと考えながら作りました。そこでキノーラの要である紙の固定に、手芸用品店でも手に入るスチレンボールを使うことを思いつきました。

2015年に川崎市アートセンターからこどもに向けたアニメーションのワークショップを行わないかというお声がけをいただきました。

いくつかの装置の中から、2時間半の枠の中でやるならば、とキノーラ(くるり〜な)を選び、さらに小さな手の人間にとっても作りやすい形にしなくては、と当初アルミパイプを用いていたハンドル部分をアイスの棒に置き換え、12枚あったアニメーション原稿も8枚に減らし、現在の形に至ります。

2010年に本作りのお話をいただき、出版したのは2011年の7月。その間に2011年3月11日がありました。

その日は横浜の小さなアパートで素材の撮影をしていました。 最初は寝不足によるめまいかと思った揺れに何度も襲われるうちに、これは地震だとやっと気づき、発表される震度以上に揺れる築40年のアパートで、机の下に潜りあの時間をやりすごしました。

当たり前のことですが、ワークショップは体験しにきてくれる人がいて初めて成り立ちますね。
1人で余震に怯えながら作っていた装置が、今このような形でたくさんのこどもたち、もとい小さくて偉大な作家たちが作って楽しんでくれるものになったことをとても嬉しく思っています。

そして今回「くるり〜オ」という一回り大きな装置が誕生しました。こちらはもう少しアニメーションというものに深く関わってみたい方、どうしたらアニメーションというものを作ることかできるのか、など悩んでいる方の最初の一歩になれたらいいなと思い考案したワークショップです。

アニメーションは努力が報われやすい分野だと思っています。
時代はまたも大きな転換点を迎えています。

この先さらにいろいろな環境が変わっていくことと思いますが、努力が引き寄せてくれる贈り物を抱えて、自分の世界を楽しく作り上げいく手助けの一旦を少しでもお手伝いできればいいなと思っています。

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