下方倍音系列と感情:Jacob Collierの和音の話について解説
この2つの動画で語られているJacob Collierの和音観が面白かったので翻訳を交えて解説する。
1. 和音について5レベルの難易度で解説
2.なぜマイナーコードは悲しく聴こえるのか
この記事の内容を3点でまとめる。
倍音にovertone(上方倍音系列)とundertone(下方倍音系列)がある。overtoneはメジャーコードを形作る。
undertoneはovertoneの鏡映しのように下に広がっている。
undertoneはマイナーコードを形作る。undertoneの考え方を活かすと、極論どんなメロディもどんなベースラインともなじむので、和音を付けるときの選択肢が広がる。
1. 和音について5レベルの難易度で解説:レベル4
ここではOvertoneとUndertoneについて述べられている。
Overtoneとは、「(上方)倍音系列」のことを言っている。
ある音を鳴らすと、その上には2倍の周波数、3倍の… と上の周波数の音が同時に鳴る。
電子的に出す音以外は、基本どんな楽器の音も人の声も、この倍音を含んでいる。
簡単のためにドを100 Hzとすると、200 Hzは1オクターブ上のド、300 Hzは1オクターブ上のソ、
次いで ド、ミ、ソ、シ♭、ド、レ、ミ… と続いていく。
前半は上の図と同じことを言っている。
Undertone=下方倍音系列はこの逆になる。
ちょうど(上方)倍音系列を鏡で反射したような形。
倍音系列と同じ幅で下に向かって伸びていくのがこの系列になる。
この系列は物理的には「ド」を鳴らしたときには鳴っていない音である。
ただ、この系列にある音は「ド」とよくなじむ。
なぜなら、
・「ド」は「ファ」の3倍音、6倍音
・「ド」は「ラ♭」の5倍音
・「ド」は「レ」の7倍音
という関係になっているからだ。「ド」と一緒に鳴らしたときにもなじんでくれる。
まとめると、
・overtone:「ド」を鳴らしたときに上に(物理的に)鳴っている倍音列
・undertone:「ド」が倍音列の中に入るような音を並べたもの
ここでJacobが重要なアイデア「逆転」について触れる。
メロディの最後の部分で、いったん止まって、ここからどうやって家に帰る=つまり和音を解決させるか を考えようと言っている。
このままF(ファラド)のコードに解決すればそれで一瞬でこの曲は終わってしまう。
だが、ここに別の和音を入れることで、家に帰るまでの満足感を遅らせることができると言っている。
結論部分を先に述べると、
メロディのファとなじむような和音を間に挟む
というテクニックをやろうとしている。
詳細を見ていこう。
ここで神業のようなことをJacobがやっているが1個ずつ見てみよう。
ベース音を半音ずつ上げながら、その上にメロディの「ファ」を含む和音をいくつか当てはめていっている。
要するに、「ファ」はどんなベース音とも合うから、組み合わせて使うことができる。
「ファ」から始まる自然倍音列で作るとFメジャー(ファラド)のコードしか作れないが、
「ファ」を上に含むような倍音系列を持って来れば、多様な和音を使うことができるようになる。
ではどうやって和音を選ぶのか?
同じFコードに行くときでも、どういうコードから進行するかによって雰囲気がまるっきり変わってしまう。
だから「どのメロディもどのベース音とも合う」というのを理解した上で、使い方を考えることが大事だよとJacobは述べている。
筆者補足
ここではD♭→FとA→Fがなぜ違うのかが言及されていない。そのため、筆者の予測で補足する。
下から行くときに使っているD♭は、Fの下方倍音系列の中の音に含まれる。これにより、下から上のようなイメージになる。
一方、上から行くときに使っているAは、Fの上方倍音系列の中に含まれる。
これで、上から下のようなイメージになる。
D♭からの展開を用いると、元のアメージンググレースは、
| F F7/A | Bb F | F/A Fsus4/C | D♭ E♭ | F |
という展開になる。これがメロディの「ファ」を使ってundertone(下方倍音列)から拾ったD♭を使って、和音を「逆転」させたということになるのだろう。
これによってメロディのFへの解決が遅らせられている。
(筆者補足ここまで)
2. なぜマイナーコードは悲しく聴こえるのか
Cメジャーはドの音のovertone(上方倍音系列)の中に含まれている
一方で、マイナーコードはソの音のundertone(下方倍音系列)の中に含まれている。
物理的世界に存在しているovertoneの下側への鏡映しした裏返しだから、重たく悲しく聴こえるのではないかというのをJacobは言っている。
筆者補足
Jacobの話の中では、物理的に存在しているかどうかがovertoneとundertoneの違いで、undertone由来のマイナーコードは悲しいという理由付けをしている。
分かった気になれる気もするが、まだ納得まではいかない。
Jacobの話から発展させて考えてみよう。
①一緒に鳴る確率が高いかどうかが重要
undertoneが物理的に鳴っていないならどこで鳴っているのか?これは、脳の中で鳴っているということになる。
脳は同時に発生する事象の間の関係を学習するのが得意だ。
ドとミという音の関係を考えてみる。ド単体が鳴っている時でもovertoneの中にミが鳴っているので、「ドが鳴っている時、ミが(小さく)一緒に鳴る確率が高い」という学習がされる。
ドとミに因果があるのではなく一緒に鳴る確率の話なので、逆に「ミが鳴っている時には、ドが(大きく)鳴っている確率が高い」とも学習される。
これによって「ミ」に対しても「ド」(長3度下)を予測するようになる。
これがundertoneの正体である。
この法則により、ソが鳴ると、ミ♭(長3度下)とド(完全5度下)も予測するようになる。
だから、Cマイナー(ド ミ♭ ソ)は予測される確率が高い音ではある。
②倍音がぶつかってしまう
しかし、これはあくまでピュアなそれらの音(純音)の場合。
実際に、ドと一緒にミ♭を鳴らすと、ドの上方倍音系列に入っている「ミ」と「ミ♭」がぶつかってしまう。
一方で、メジャーコードは、ドの倍音系列の中にミとソがはまっていくため、物理的な自然倍音の響きに近くなる。
この点で、物理的に存在しているovertoneにはまるメジャーコードは安定的で、
物理的に存在していないundertoneに起因するマイナーコードは、(予測確率としては高いが)実際に鳴らしたときに不安定さが発生してしまう点で不安定になる。
これがメジャーとマイナーの違いだと考えることもできるだろう。
(※ただ、Cメジャーコードにしても、ミの倍音列の中の「シ」と主音の「ド」がぶつかるとも言える。でもドミソシはそこまで暗い響きには聞こえず、むしろ明るく聴こえる。ってなってくると上記が答えとも言いづらい……)
(※そして、もちろん西洋音楽による刷り込みで、短調が悲しい場面で流れることが多いから、短調と悲しい感情が結びついているという要因もある。西洋音楽に触れていない文化圏では、長短や不協和の認知のされ方も異なる。)
(筆者補足ここまで)
まとめ
Jacobによると、
倍音にovertone(上方倍音系列)とundertone(下方倍音系列)がある。overtoneはメジャーコードを形作る。
undertoneはovertoneの鏡映しのように下に広がっている。
undertoneはマイナーコードを形作る。undertoneの考え方を活かすと、極論どんなメロディもどんなベースラインともなじむので、和音を付けるときの選択肢が広がる。
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