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age factory

オートチューンから始まった金曜日の夜。
大きすぎるベースの音に身体が震えて、まだ慣れないライブハウスと大好きなage factoryに、少し背伸びをして、髪を巻き直してから会いに来て良かったなと思った。

右側の前の方、靡く髪の毛先から弾ける汗がハッキリ見える距離。目頭がずっと熱くって、握り拳を精一杯高くあげ続けた。その汗1粒1粒に情熱と哀愁がぎっしりと詰まっているようで、只管気持ちが良かった。

「教えてくれたのは君さ」

流れる歌詞に沿って、私のかつての思い出も流れ行く。その思い出が記憶の片隅なのか、作り上げてしまった夢なのか、今でも区別がつかなかった。そうやって、この小さなライブハウスに絡まったそれぞれの記憶が抑えきれないほど溢れかえって、汗や涙になって弾けている。その一体化だけでもう私は淋しくなかった。

See you in my dream今夜だけは眠れそうさ。
この夜の終わりまでDance all night my friends。
後半につれて盛り上がる完璧すぎるセトリ。
TONBOのサビではみんなが熱くなり、一気にモッシュやダイブが起こる。
merry go roundで終わる頃にはもうみんな息を切らしてグシャグシャだった。

そして何もかもいっぱいに満たされている身体に、甘いライムオレンジを流し込んだ。夜風が通るエントランスで余韻に浸っていたらまさかのギターボーカルのエイスケさんが通った。手に力が入らなくて、息が出来なかった。こんな時の為に、他のファンとは違う印象強い事を言えたなら、と、あるかも分からない状況に花を膨らませていたのに、実際目の前にすると何も言えなかった。

「孤独な夜にいつも聴いています」

やっとでた一言がこれだった。エイスケさんの怠惰の様な瞳には、どこか包み込んでくれるような温もりがあった。そんな瞳に吸い込まれていたら、少し口角を動かして

「ありがとう」

と言ってくれた。
今私のスマホケースの後ろには、パパとママが離婚する前の私と3ショットのプリクラと、エイスケさんの名前入りサインが入っている。

そしてライブ終了。終電で集合していた彼氏に電話をかけたけれど何度かけても出なかった。バイトかもしれない、携帯の充電が切れたのかもしれないと、最後の最後まで期待を捨てきれずに結局ひとりで家に帰った。満たされ過ぎた後はいつもこうだなと、さっき流した涙とは違う味の涙を流してしまった。届くかすら分からないdmをエイスケさんに送ってみた。

「ライブ終わり彼氏とお泊まりの予定が連絡ひとつ来ませんでした。age factoryはいつも孤独な夜に寄り添ってくれます。今日もage factoryを聴いて眠りにつこうと思います、おやすみなさい。」

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