見出し画像

それでもよく眠れている。

日常をなぞることに精一杯で、お盆を過ぎてから日記が書けなくてちいさなメモばかり残している。固い桃を食べた。サクサクと噛む感触が夏だった。そういう記憶たちを瞼の裏でくっつけたり剥がしたりして暑かった日々を振り返る。まだまだ暑い。

この土地に来て一年が経とうとしている。やっと暮らすことが安定し出した気配。なにも焦ることはない。動けていないと悩むときもあったけれど心折れずにいられるのは見たい景色がどんどん鮮明になっているからで。これを世間は夢とかいうのかな。別に夢じゃない。それは生き残る術であるだけのことで。きれいな色で塗りつぶされないよう画用紙を手で隠しながら描いている。車輪がひとつ回り出したからもうひとつもうまく回していけるといい。この世のルールがやっぱりわからない。だからうんと自分の速度で進みたい。

さみしいんだけどさみしいは大分類でさらに細切れにするとなんだろう。それがうまく言えなくて何も言えなくて眠りに逃げる。

ここから先は

1,419字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?