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#bruckner2024 〜 ブルックナーの全交響曲の全ての稿を録音するプロジェクト

「私たちが習慣にしてきた聴き方と伝統と見なしてきたものを問い直す企画」

ICMA(International Classical Music Award)2024の特別賞「Spcecial Achivement Award」を受賞した、CAPRICCIOレーベルの価値ある企画をご紹介します。


ブルックナーの生誕200年を記念した企画「#bruckner2024」

特色

・ブルックナーの11の交響曲にある全ての稿(バージョン)を録音。
・ブルックナー研究の第一人者でイェール大学名誉教授のポール・ホークショーが監修。
・演奏はマルクス・ポシュナー指揮、リンツ・ブルックナー管弦楽団 (下の表でL)とウィーン放送交響楽団 (同W)。
・一部の曲で新ブルックナー全集 (NBG) の楽譜を使用 (未刊行のものを含む)
・輸入盤の解説はポール・ホークショー (英語・ドイツ語)、国内仕様盤には国際ブルックナー協会会員の石原勇太郎氏の日本語解説が付属

2024年4月5日発売予定:最新盤のご紹介

国内品番:NYCX-10464

ブルックナー:交響曲第7番ホ長調 WAB107(ホークショー版)
ウィーン放送交響楽団
マルクス・ポシュナー(指揮)
録音:2023年12月5-8日 ウィーン


【#bruckner2024へ寄せて】

石原勇太郎(音楽学/国際ブルックナー協会会員)

2024年は生誕200年を迎えるブルックナーのアニバーサリー・イヤーです。それに合わせて、これまでにも多くのCDが発売されてきました。それぞれの演奏がブルックナーの様々な側面を照らしてくれていますが、その中でも#bruckner2024プロジェクトはこれから作られていくブルックナー受容の新しい歴史の幕開けに相応しいものなのではないかと感じています。このプロジェクトの一環として発売されてきたCDに収められたポシュナーと二つのオーケストラによる演奏は、多くの音楽ファンを驚かせていることと思います。彼らの演奏は、私たちが「ブルックナーらしい」と感じる/考えている一種の固定観念を打ち砕いてくれます。いくつかの交響曲で使われている新しい校訂版(NBG)の出版が進められているように、ブルックナー研究は新時代へと移り変わりつつあります。しかし、残念ながらブルックナーの演奏様式はほとんど進歩していないと言わざるを得ません。J.S.バッハやベートーヴェンといった作曲家の演奏様式が次々と見直されている時代であるにも関わらず、ブルックナーだけは遺物のように、後付けの「らしさ」が残されているのです。ブルックナーはなにも特別な作曲家ではありません。ベートーヴェンやショパン、チャイコフスキーや武満と同じ一人の音楽家です。であればこそ、ブルックナー作品にも新しい解釈の可能性は十分に残されているはずなのです。#bruckner2024はそのことを私たちに気づかせてくれる重要なきっかけとなり得るでしょう 。


【当プロジェクトにおけるブルックナーの交響曲の「稿」について】

ポール・ホークショー(イェール大学名誉教授)

アントン・ブルックナーの音楽の愛好家のみなさんは、当プロジェクトで収録されるブルックナーの交響曲の稿が全部で18しかないことを不思議に思うかもしれません。20世紀半ば以来、音楽雑誌やレコード業界のマーケティングによって、彼がもっと多くの稿を残したかのような誤ったイメージが作られてしまったのです。ブルックナーのすべての自筆資料のあらゆる変更を特定しようとする音楽学的な関心の結果、彼自身が明確に「稿」と捉えていたものに至る途中で行われた修正まで含めた版がやたら増えてしまったのです。本来こうした修正は、スコアではなく、校訂報告に含めるべき情報です。また、レコード・プロデューサーたちが新しいリリースのたびに、ハース版かノーヴァク版かを表記することにこだわったために、この二人の学者がブルックナーの1番から9番まですべての交響曲について明確に異なる版をそれぞれ出版したかのような誤解を与えてしまいました。実は、交響曲第8番の第2稿を除けば、ハースとノーヴァクの版はかなり似通っているのです。

本全集を収録するにあたって、演奏者たちは目下オーストリア国立図書館の後援の下で準備されている『新アントン・ブルックナー全集』の校訂者たちが決めた「稿」の定義を採用しています。全集全体の序文に述べられているように、新全集では、ブルックナーの交響曲のそれぞれの「稿」を、彼の歴史的な節目——「たとえば交響曲の演奏、出版、または献呈など、ある作品について彼がひとつの段階を終えたことを示す出来事」——によって区別しています。したがって、本録音では、新全集の校訂者たちが同定した「稿」が収められており、各CD付属の曲目解説には、その特定の「稿」を同定した理由について詳しく論じています。この録音には、作曲者の関与なく出版された初版楽譜 ——いわゆるシャルク、レーヴェなどのもの——は含まれていません。わかっている限りでは、ブルックナーが同意した初版楽譜は、第3番、第4番、第7番のみであり、それらの内容は、本セットでは最終稿(もちろん第7番はひとつしか稿がありませんが)の楽譜に組み込まれています。可能な限り、演奏は新ブルックナー全集のためにすでに完成しているスコアとパート譜に基づいています。


【マルクス・ポシュナー、ブルックナーを語る】

マルクス・ポシュナー

ブルックナーは私にとって、別世界への入り口といえる存在です。子どもの頃、父が私にブルックナーの合唱曲を教えてくれた時から、ずっとそうでした。なかでもグラドゥアーレ《神が作り給いし場所》は、私を惹き付けると同時にいら立たせました。こうしたブルックナーの音楽に対する複雑な思いは、今も変わりません。魅了され、心動かされながらも、動揺させられるといった具合です。彼の作品は音楽的な謎に満ち、また神秘と深遠さに満ちています。彼のものごとに対する見方は独特で、ラディカルでさえあります。私が思うには、ブルックナーはその交響曲において永遠性を見上げると同時に、完全に内なる世界へも目を向けています。ベートーヴェンはまっすぐ前を見つめ、権力を持つ者に対峙し、その鋭い視線は彼らの良心まで見通しました。他方でヴァーグナーの視線は、人間の魂の奥底と無意識へと向かいました。

ブルックナーは永遠性を見つめ、宇宙的な広がりがありますが、その一方で地に足がついていて、オーバーエスターライヒ地方の伝統——ポルカとコラール、飲み屋と教会——にしっかりと根ざしていました。極端な対比の組み合わせという点では、エクスタシーと神秘性を組み合わせたメシアンやリゲティに先んじていました。ブルックナーの音楽は今なお挑発的で、未完で、論議を呼び、因襲的ではなく、ラディカルであり、したがってモダンかつ時代を超えるものといえるでしょう。

こうして見ると、このたび本プロジェクトにおいて、現存するすべての資料を用いて再びブルックナーに集中することは、ブルックナー受容ではラディカルなことであり、長年の課題であったといえるのではないでしょうか。リンツ・ブルックナー管弦楽団およびウィーン放送交響楽団が長年にわたって築きあげてきたそれぞれのブルックナーの経験は、たいへん助けにも刺激にもなり、私自身の見解を補完し、裏付けてくれました。私たちはリハーサルの過程で、ブルックナーの交響曲の中にこれほどの爆発力や明るい色彩、とてつもない大胆さがあることに何度となく驚きました——それにはスコアをいったん疑い、間違った伝統と真の伝統を区別する必要があったのです。

しかしながら、私たちがいかに作曲者の真の意図や意志を明らかにしようとしたとしても、音楽において最終的に大事なのは「今」なのです。とりわけブルックナーの音楽では人生、私たちの人生というテーマが扱われています。それは私たちに直接影響を与え、ただ遠くから眺めるような音楽ではないのです。ここでも他でもそうですが、物語(ナラティブ)の尺度となるのは、私たちの現在の人生なのです。私自身、音楽の解釈者として作曲家に完全に同化することはできませんし、そうしたいとも思いません。優れた作品ならば、いくらでも解釈が可能だからです。


【本プロジェクトについて】

ノーベルト・トラヴェーガー(リンツ・ブルックナー管弦楽団 芸術監督)

音楽史においては、演奏の伝統だと見なされていることは当然楽譜に書き込まれているかのように思われがちです——作品の創作から時代が遠くなればなるほど。もちろんブルックナーも例外ではありません。その人物像および作品についての多くの常套句や真実が、今ようやく検証されようとしています。それは長年の懸案でした。たしかにブルックナーは信心深い人間でした。しかし、けっして「神の音楽家」などではなく、オルガンでの演奏をオーケストラに置き換えることで音の大聖堂なるものを創り出したわけでもありません。長年のブルックナー受容の間に、その作品には壮大さ、カトリック臭、圧倒的な畏敬の念などがつきまとうようになりました。それらのほとんどは楽譜から読み取れることではありません。

本プロジェクトでは、楽譜を真っ新な視点で読み、理解することが大切だと考えています。ブルックナーの音楽の源泉はどこにあり、どこへ向かうものなのか?ブルックナーの巨大な特異性は、実際には伝統的な響きに根ざしていますが、それは地方出身のルーツを知らないと見逃しがちです。その信心深さにもかかわらず、彼は故郷であるオーバーエスターライヒの束縛を抜け出し、ウィーン、さらにはもっと広い世界を目指したのでした。彼の音楽は、伝統の制約を超えるものでした。その作品に見られる爆発的な解放は彼のルーツ、歌や詩、レントラーなどを示しています。私たちはブルックナーの音楽を従来の大げさな情念から解放し、こうした根源的な力が恍惚とした踊りのようなものへと変容するさまを描きたいのです。たとえてみれば、ひとりの歌手が、永遠なるものを歌う能力を自分のうちに見出すようなものといえるでしょうか——足はしっかり地について、でも頭は雲の中に突っ込んで。ブルックナーは交響曲というもっとも世俗的な音楽形式を用いて、大聖堂の制約から飛び出したのでした。ブルックナーとその音楽は、神とも私たちとも直接対話を交わすのです。信心深いブルックナーは、実は異端でもあったのです——あらゆる神秘主義者がそうであるように。


【演奏者紹介】

マルクス・ポシュナー(指揮)
 ミュンヘンで教会音楽家の家庭に生まれ、コリン・デイヴィスとロジャー・ノリントンのアシスタントを務めた。若い頃はジャズ・ピアニストとしても活躍した。2004年に指揮者フォーラム賞(現在のDeutscher Dirigentenpreis)を受賞したのを契機に注目され、これまでにドレスデン・シュターツカペレやミュンヘン・フィルをはじめとするドイツの主要オーケストラを指揮。国外でもオーストリア、フランス、オランダ、スイス、日本などのオーケストラを指揮してきた。また、ベルリン、ハンブルク、シュトゥットガルト、ケルン、フランクフルト及びチューリヒなどの歌劇場でも活躍している。2020年のオーストリア「ムジークテアター賞」において、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》でベスト・オペラ指揮者部門を受賞。2022年にはバイロイト音楽祭のオープニングで同作品を指揮、翌23年も指揮した。2017年秋からリンツ・ブルックナー管弦楽団の首席指揮者を務めている。2020年にはリンツのアントン・ブルックナー大学から名誉教授の称号を贈られた。

リンツ・ブルックナー管弦楽団
 リンツ歌劇場のオーケストラとして発足し、200年以上の歴史を誇る。現在の名称となったのは1967年。本拠ムジークテアターに加え、リンツのブルックナーハウスとウィーンの楽友協会でも定期演奏会を行い、リンツの州立劇場における舞台作品での演奏も担当している。またオーバーエスターライヒ州の文化使節として欧州諸国に加えて日本やアメリカでも公演を行っている。マルクス・ポシュナーが 2017 年秋に首席指揮者に就任すると、伝統的なコンサートに加え、ホールや劇場以外の場所での演奏会や斬新なアウトリーチ活動に乗り出し、聴衆やメディアから強い支持を得ている。2020年にはオーストリアの「ムジークテアター賞」年間ベスト・オーケストラ部門を受賞した。

ウィーン放送交響楽団
 1969年に創設されたオーストリア放送のオーケストラを前身とする。ウィーンのムジークフェラインとコンツェルトハウスで定期演奏会を行い、主な演奏会は放送されてオーストリア内外で広く聴かれている。古典派やロマン派の音楽と現代音楽を組み合わせて斬新な視点を提供するプログラムが多く、その着眼点と創造性は高い評価を得ており、2007年からはアン・デア・ウィーン劇場でオペラにも取り組んでいる。映画やテレビ番組のサウンドトラック録音や国内外へのツアーも意欲的に取り組んでいる。2019年からはマリン・オルソップが首席指揮者を務めている。


プロモーションビデオ集

ニ短調

第1番(第1稿)

第2番(第1稿)

第2番(第2稿)

第3番

第3番(第1稿)

第4番

第5番

第6番

第7番

第8番(第1稿)


#bruckner2024 の収録曲と品番一覧(一部未定)

交響曲ヘ短調・・・第9番とのカップリングで2024年7月発売予定
(使用楽譜:レオポルト・ノーヴァク校訂 BSW 10) *L

交響曲ニ短調 NYCX-10274(輸入盤 C8082)
(ノーヴァク BSW 11) *L

交響曲第1番(第1稿) NYCX-10443(輸入番 C8092)
(トーマス・レーダー NBG III/1: 1/1) *L

交響曲第1番(第2稿) NYCX-10469(輸入番 C8094) 5月3日発売予定
(ギュンター・ブロシェ BSW 1/2) *L
 スケルツォ(1865/ヴォルフガング・グランジャン BSW 1/1) *L併録

交響曲第2番(第1稿) NYCX-10449(輸入盤 C8093)
(ウィリアム・キャラガン BSW 2/1) *W

交響曲第2番(第2稿) NYCX-10414(輸入盤 C8089)
(ポール・ホークショー NBG III/1: 2/2) *L

交響曲第3番(第1稿) NYCX-10332(輸入番 C8086)
(ノーヴァク BSW 3/1) *W

交響曲第3番(第2稿) 2024年6月発売予定 2024年6月発売予定
(ノーヴァク BSW 3/2) *W
 アダージョ(1876/ノーヴァク1876) *L併録

交響曲第3番(第3稿) NYCX-10454(輸入番 C8088)
(ノーヴァク BSW 3/3) *L

交響曲第4番(第1稿) NYCX-10354(輸入盤 C8084)
(ベンジャミン・コーストヴェット NBG III/1: 4/1) *W

交響曲第4番(第2稿) NYCX-10304(輸入盤 C8083)
(コーストヴェット NBG III/1: 4/2) *L
 フィナーレ「民衆の祭り」(コーストヴェット NBG III/1: 4/2) *W併録

交響曲第4番(第3稿) NYCX-10397(輸入盤 C8085)
(コーストヴェット NBG III/1: 4/3) *L

交響曲第5番 NYCX-10435(輸入盤 C8090)
(ノーヴァク BSW 5) *W

交響曲第6番 NYCX-10236(輸入盤 C8080)
(ジョン・ウィリアムソン NBG III/1: 6) *L

交響曲第7番 NYCX-10364(輸入番 C8091) 2024年4月5日発売予定
(ホークショー NBG III/1: 7) *W

交響曲第8番(第1稿) NYCX-10373(輸入盤 C8087)
(ホークショー NBG III/1: 8/1) *L

交響曲第8番(第2稿) NYCX-10258(輸入盤 C8081)
(ノーヴァク BSW /2) *L

交響曲第9番 へ短調とのカップリングで2024年7月発売予定
(ノーヴァク BSW 9)