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一岡竜司の引退

FA宣言後、既定路線通り巨人入りを決めた大竹。プロテクトの当落線上……いや、ほとんど確実にプロテクトされると誰もが思っていたなか、まさかの枠外となり、カープへ入団した一岡竜司。

当時は大竹流出を悲観するよりも、一岡獲得に歓喜しているファンが多かった。俺もその1人だった。開幕前には大竹よりも活躍するのでは? といった風潮もあった。気がする。

と書くと、年俸1億円10勝10敗の大竹をくさしているようだが、なにも大竹がカープにとって不要な選手だったというわけではない。その年のドラフトで本格派投手を補強できていた(3球団が競合した大瀬良! そして九里!)のが大きかった。野球好きの一つの習性として開幕前には新戦力をポジるというのもある。マエケンもいる。バリントンもいる。新戦力にも期待が持てる。大竹がいなくなってもどうにかなるだろう、である。

とにかく、一岡は大竹の喪失によるマイナス以上の期待をもってカープに迎え入れられ、応援され続けた。要因は年齢と二軍成績の良さか。ただ、それに加えてカープファン好みの「ひたむきさ」があったからなんじゃないか、と俺はいま振り返る。

移籍直前まで巨人で少しでも戦力になろうと海外リーグに挑戦していたし、プロテクト漏れには涙も流したという。カープに移籍してからは試合で嫌な顔ひとつせず、淡々と腕を振る。怪我を抱えながらも投げ込みを欠かさない……。

「派手にしようとしても、僕は派手にならないですから。いつ野球人生が終わるか分からない。だから1試合1試合に全力を尽くすんです」

https://number.bunshun.jp/articles/-/828460?page=5

引退会見で問われた「最も印象に残っているマウンド」について、移籍直後の紅白戦と答えていたのにも通じる一岡の野球観だ。

専門学校卒業後、大学・社会人から声はかからず、プロ入り後は人的補償の駒になる。非エリートの道を歩み続けた一岡。

ピンチを切り抜けても、吼えたりすることはほとんどなく、「ああよかった」といった表情を見せる一岡。

カープファンとしては頼もしさしか感じていなかった全盛期の投球の裏で、いつも一岡は背水の陣に立っている思いだったわけだ。

10月1日、新井監督はシーズン2位確保に向けて負けられない一戦に、今シーズン一軍で登板していない一岡を起用すると明言した。

それでいい、それがいい。俺はそう思う。

背水の陣がかかっていない試合で一岡はどんな投球を見せるのか。どんなときにも粛々と持ち場を守り続けたひたむきな男は今日の登板にも、いつもと変わらない姿を見せてくれるんじゃなかろうか。

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