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17歳の瞳に映る世界

予期せぬ妊娠をしてしまったペンシルベニア在住のオータムが中絶をするため、従姉のお姉さんとともにニューヨークへ行くお話。

日本ではなぜか原題に全く含まれてないのに日本語タイトルに「17歳」をつけられてる映画が結構な本数あって、最新作はこれ…と最初に紹介するとめちゃくちゃ残念な感じになってしまうのでここで止めておきます。

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とはいえ原題の意味については絶対スルーできないのでちょっと紹介を。原題の『Never Rarely Sometimes Always』は直訳すれば「一度もない 稀に 時々 いつも」。このフレーズは劇中にもあるんですが、中絶を希望して来院した女性への会話で使われているもので、要するにDV(本人も気づいていないような)を受けていないか?を見極めるために使われているもの。例えば「性行為を強要されたことがある?」と質問した後に「次の4段階でどれに当てはまると思うか、よかったら教えてね」って事で「Never Rarely Sometimes Always」と続けるそうです。来院した女性への精神的な負担を極力軽くしようとしながらも隠された暴力被害を見逃さないように、という態勢は素晴らしいし日本から見ると中絶や避妊に関してアメリカは本当に進んでいるなあ、と思う。

オータムの住むペンシルベニアでは中絶に両親の同意が必要なので、同意不要でできるニューヨークへ行く訳ですが、それは女子高生にとってはかなり大変な事なのに日本ではさらにその壁が高いとかおかしいだろ…と白目になってしまう。それでも映画のなかでは何度かたらい回しにされたり、当日済ませるつもりで夜行バスで来たのに翌日また来てって言われたもんだから一晩中時間潰さないといけなくなったりで、やっぱり大変な事に変わりない。この、お金も精神的負担もかかる苦労を女性だけが負わなければならないっていうのは本当に理不尽。都会で朝まで時間を潰さないといけない、けどお金がない…って状況は男ふたりの旅だったら全然楽しい時間になるんじゃないかと思うけど若い女の子なのでこれは相当怖いことで。

あと「アメリカ進んでる!」と書いたけどニューヨークの病院の前には宗教上の理由から中絶反対を主張する団体が抗議していたりするのでこれはこれで大変だぁ〜…と思いました。オータムが最初に行った地元の病院でも一見優しそうなおばあさんが「まあこれでも見て…」って言って「堕胎は大罪!」みたいなビデオ流す、っていう描写がありました。こういう描写は私はNetflixオリジナルドラマ『セックス・エデュケーション』を真っ先に思い出すんですが、このドラマは10代の中絶・避妊などのテーマを扱った最も優れた作品のひとつだと思ってます。

そんな、決して楽しくはない旅でもロードムービー独特の旅が始まるときの高揚感、終わったときのなんとも言えない寂しさ…なんかもあるんですが、10代のこんな大変な旅を大人が余韻にひたるために消費するのもな…とも思うし、けど彼女らにしてみたら「そんな可哀想がられてもな…」って思うかなあ?とも思ったり。

若い女子ふたりの旅なのに『真夜中のカーボーイ』みたいな哀愁がある一方、一瞬のきらめきも確かにある。ありがちな言葉だけど「それでも生きていく」みたいな、そんな作品でした。

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