見出し画像

【短話】ボッチオジサン釣具を買う【夜会②】

翌日のこと、仕事を終え職場からの帰り道。普段だと何の用もない駅のホームに立っていた。

田舎の電車では一駅分にも成らない距離でこれだけ人の乗り降りが在るものかと思いつつ3駅先の駅で降りる。

休憩時間に調べておいた中古釣具の店を目的に歩くのだが都会は人が多く嫌になる。しかも今日は何かしらスポーツイベントが在るようでユニフォーム姿の団体が同じ方向へ歩いていた、逆方向にある目的の店までの道のりは人波を掻き分けるとはこの事だ。駅から店までの数百mをくたくたになりながら進むと目的の看板が見えた。

釣りは初心者だ。小学生の頃父についていったのが最後で今回は取りあえずネットと雑誌で必要なものを調べた。

最近のメバル釣りはウキ下に餌を付けて行う方法よりも、ワームと言う疑似餌を使った釣りが流行っているらしい。今日はその疑似餌を使った釣り「メバリング」と言うらしいモノの道具が幾らぐらい掛かるのかを下見するのだ。いや、金額によっては今日揃えても良い。

釣竿・・・ロッドと最近は言うらしいとリール2000番位の大きさで釣り糸・・ラインが巻いてあるモノが有れば・・・後は針と疑似餌を数点。分からなければ店員に聞いてみる手もある。

・・・正直に言うと店で店員と話すのは苦手だ。と言うより仕事以外で人と話すこと自体が苦手だ。この前の爺様へ話しかけるのも内心ドキドキだった。40も過ぎて情けないが、学生時代からボッチスキルを磨いた結果なので仕方ない。不安だ。

看板を見上げながら腰が引けていくのが分かる。しかし、あのメバルを思うと勇気が沸いてくる。

少し汗が滲む手に力を込めて店の扉を開く。

店に入り見渡すと余り大きくない店内にコジャレた感じで釣竿やリールに小物が並ぶ。昔、父に連れられて行った田舎の釣具屋の雑多な感じや餌の匂いが全く無い。後で知ったのだがその中古の釣具屋は生き餌なんか置いていない店だそうだ。

まずは釣竿だ。幸い釣竿は釣りの種別ごとに置いてあるようでその竿の対象魚のプレートが着いている。バス、シーバス、エギングと並ぶ。その奥にアジング・メバリングと書かれたプレートがある。しかし、バスはたぶんブラックバスの事だがシーバス?海にもブラックバスが居るのか?エギング?・・・メバリングがメバル釣りだからエギって魚?初めて聞く物ばかりで混乱する。

取りあえずアジング・メバリングの竿を物色してみる。安いもので4千円位から高いもので3万円を越えるものまで在る。取りあえず安そうな竿を手に取りネットで調べた内容だと竿に使えるルアーの重量が書いてあるそうなので表示を探すと、根元に英語LURE0.5〜7gという表示がある。メバリングはジグヘットと言う錘つきの針を使うそうなのでこれで良さそうだ。次にリールのコーナーに向かう。

ワゴンに釣糸の巻いてあるリールが山積みになっている。1つを手に取ってみると見慣れない糸が巻いてある。糸をよく見ると細い糸を編み込んだ糸の様だが?糸巻き部に2500と書いてあるので多分2500番のサイズという奴だろうか?よく見るとPE1.0と書かれたシールが貼ってある。価格も3千円位だしこれで良いと思う。

後は、リーダーという先端につける糸とジグヘッドとワームだ。幸いジグヘットとワームは雑誌に載っていた物と同じものがあるのでそれを2〜3個程籠に入れ、そしてフロロカーボン2.0号と書かれた糸を同じく籠に入れた。先ほどのリールと竿を合わせると1万円以内なので丁度良い。取りあえずこれで始めようと思う。

選んだ全てをカウンターへもって行くと店員が商品を眺め「あれ?」っと言うと

「お客さんなに釣りをされるつもりですか?」

っと聞いてきた。初心者が適当に買おうとしているのが分かったのだろう。

私は「め・・・メバルを・・」おどおどと答える

「それならもう少し細いラインが良いと思いますよ?」と店員が提案をする。続け様に「商品、見繕いましょうか?」有難い提案だ

「あ・・いえ、大丈夫です。これで良いです。」流石はボッチ40年選手。店員さんに申し訳ないが苦手な会話をしたくないのだ・・・ゴメン

「そうですか・・・では会計しますね」残念そうな顔をしつつ店員さんは会計を進め商品を梱包してくれた。

たぶんこの店員さんは釣りが好きで初心者の私に良い提案をしてくれたハズなのに・・・予算内のもっと良い道具を選んでくれたハズなのに・・・

帰りの電車内で店員さんの親切を断る自分の不甲斐なさに落ち込みはしたが、自分で選んだ道具で試行錯誤するのも愉しいさと自分に言い聞かせた。ボッチはそうやって生きていく間違えながら遠回りしながら生きていく。それがボッチのメインスキル「会話が苦手」の効果なのだ。

それでも釣具を購入出来た喜びと釣りへの期待を胸にアパートへ戻る足取りは軽やかだった。

画像1


たのしいは正義!この言葉を胸に楽しめるコンテンツで在りたいとおもいます。(*´ー`*)