バツイチ同士の恋愛。時には気付いてないふりを。
付き合い始めの頃、彼に電話をかけたらいつになく歯切れが悪かったことがある。
何というか、妙にソワソワした感じ。
おかしいなと思って尋ねたら、彼の娘さんが来てるとのことだった。
知らなかったとは言え邪魔をしてしまったことを詫びて電話を切る。
しばらくするとLINE。
「来てること黙っててごめんね。何か言い出せなくて」
「言ってくれたらかけるの遠慮したのに」
「来てるって聞いてイヤな気持ちにならなかった?」
意味がわからなかった。
彼が彼の子どもと会うのに、どうして私がイヤな思いをしないといけないのだろう。
ちなみに彼は定期的な面会交流などはしていない。
娘さんが会いたくなったら彼の家に行くスタイル。
「何でやねん。なるわけないでしょ」
「前の彼女が俺が子どもと会うのを嫌がってたから。紺さんもイヤかなと思って」
「自分の子どもに会うのを嫌がる理由がないでしょ。ただ、これからは前もって言って欲しいかな。娘さんとの時間を邪魔したくないし」
「ありがとう。やっぱり紺さんだね」
何がやっぱりなのかよくわからなかったけど、彼が安心して欲しいなと思った。
その頃、彼と娘さんは割と頻繁に会っていた。
住んでる場所が少し離れていたので毎週とはいかないけど、月イチくらい。
長期休み期間は半月ほど滞在していた。
彼も流石に中学生の女の子に彼女がいるとは言えないようなので(そりゃそうだ)、その間は軽くランチ程度のデートにしていた。
一年ほど経つと、娘さんは来なくなった。
元妻側の事情かもしれない。
或いは父親の家に行くのに抵抗があるお年頃なのかもしれない。
理由は知らない。
聞くつもりもなかった。
私が介入することではないから。
それに伴って彼が子どもの話題をすることが殆どなくなった。
これは最近の話だが、彼の家にいる時に鉛筆削りを持ってないか聞いたことがある。
アイブロウペンシルを削りたかったのだ。
彼は文字通り家中を引っ掻き回して探してくれた。
ないなら良いよと言っても「確かあったはず」と探し回り、そして本当に見つけた鉛筆削りには娘さんの名前を書いたシールが貼られていた。
彼は私に手渡す前にシールを剥がした。
あったら借りようかなくらいの軽い気持ちで聞いたのに。
ましてや娘さんのものなのに。
「剥がさなくても」
と言ったら
「いや、これはもう紺さんのだから」
と呟くように言って私のメイクポーチに突っ込み、すぐに話題を変えてしまった。
バツイチ子持ち同士の恋愛。
私は一緒に住んでるので子どもに関する話もするけど、一緒に住んでいない彼の子どもについては話に出す距離感が難しい。
彼がかつて築いていた家庭の匂いをなるべく私に感じさせまいとしてるのがわかるから余計に。
だから私は何も気付いてないふりをする。
何でもかんでも触れて良いわけじゃない。
そんな彼が今日電話で。
「○○高校に行くことになったんだって」
と、娘さんの進学先を教えてくれた。
もう高校生になるんだね。
私にそれを話してくれたことが。
うまく言えないけれど。
何だかとても嬉しかった。
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