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性欲のスイッチはどこにある?

疲れて何もかもが嫌になったら、いく場所がある。
全然オシャレとかそういう場所じゃなくて、なぜこんなところに?というような、エアポケットのような場所。そこでハイボールを1杯だけ飲んで帰宅する。

この日も、そこで飲んで帰ろうとしていた。
めちゃくちゃ嫌なことがあった。あれが嫌だったな、こんな事言われたな、ここは自分のミスだったな。自然と涙が出てくる。
いい年して、1人飲みながら泣いている姿は、側から見ると不気味で仕方ないだろうけど、これをすると結構スッキリすることを経験から知っている。スッキリしたら、あとはもうがむしゃらに出来ることをいっこいっこ、片づけていくしかない。自分なりのデトックスだったりする。

飲み終えて、店を出て、ホームのベンチに座ってほとぼりが冷めるのを待っていた。まだ目の奥が熱い。少し腫れてる気がする。次の電車には乗ろう。

視線を上げた、その瞬間に目があった。

信じられない。ドラマやん。
彼がこちらを見下ろしてた。

今日はよく会うね。
咄嗟に口をついて出たのはそれだけ。昼間にもすれ違っていたから。

どしたの?何してたの?

隣に滑り込んでくる彼。なんか安心する。
蓋をしていた感情が開かれてしまった。
そうなの、ほんとはね、こうして今日あったことを彼に聞いてほしかった。わたしは自分の本来の欲求を無かったことにして、ひとりでやり過ごそうとした。だけど内心、以前のように夜中の公園で彼に聞いて欲しかったし、一つ一つ丁寧にコメントしたり、ふざけて笑わせたりして欲しかったんだ。ひとりは、やっぱり、寂しい。安堵からだろうか、また目から水が溢れてしまう。

ぽつりぽつりと話す合間に、サッとキスする。
人からは見えないようにして、手を繋ぐ。
手のひらから体温がじんわりと伝わってくる。
その温かさに癒されて、ガチガチに固まった心がほぐれる。
もっと、もっと欲しい。このぬくもりを全身に浴びたくなる。


ずっと、性欲ってよくわからなかった。

セックスは、あっても無くても別に気にならないもの。スキンシップがあるのはベターだけど、マスト!と思えるほど強い欲求もなかった。
でも彼とこういう関係になって、見えてきたものがある。

自分の「正直」が受け入れられること。
どんな自分であっても、良し悪しの評価をされないこと。
そういった安心感を感じられる相手に対しては、自分自身が不安定な時、自信やより所をなくしている時に身体を委ねたいと思うものなんだな、と。身を委ねることで、心の不安も丸ごと受け止めてもらえる感じがある。わたしの性欲のスイッチは、紛れもなくそこにある。

つらい。助けて。受け止めて。
その時の自分の目の色は何色だろうか。
煮えたぎるような情欲と、すがる気持ちとの混ざったドロドロとしたにび色のようだろうなと後頭部のすみっこで考える。

とことん、ワガママだな、とベッドの上で思う。自分が何かにおびやかされ、根幹がぐらついたら、彼に支えてもらい、受け入れ、求めてもらうことで、「こんな自分でもまだ大丈夫」だと何かを取り戻そうとている自分。
長い腕に抱かれ、肩ごしに見た鏡に映った自分は、先程まで自己嫌悪で涙していた自分とは別人のようだった。

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