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缶チューハイのブッダ

十一月
空は雲一つない快晴
窓から富士山がキレイに見える
昨日、部屋干ししたままの洗濯物を全部外に出し
なおかつ今日の分の洗濯をする
それと食器洗いと掃除

9時半頃、朝のこの気分をもっと
満喫したくて散歩に出かけた
最近はなんでもスマホでばかり写真を撮っているが
久しぶりに野鳥でも撮れればと
デジカメを持って川沿いを歩く

ハクセキレイ セグロセキレイ
キセキレイ 鷺
カワセミ

そして
取り込んだ音楽と
FM局のラジオが聞けるウォークマンを聴きながら
歩いているうちに10時になって
小川洋子のラジオを聞くと
今日紹介の本はゴーリキーの『外套』だった

番組が終わる頃、
高幡不動駅に近いふれあい橋のたもとに着いた
そこには
バーベキューができるスペースがあって
川べりに降りられるような階段のところは
休憩所のようにもなっていて
そこでしばし休憩し
スマホでもチェックしようとしていたその時
「お兄さん」、と声がした

初め自分が話しかけられているとは
思わなかったが
何度も声がするので声の方を見ると
コンビニのおでんのカップと
500mlの缶チューハイの缶を持った男が
川べりに腰かけて
自分に話しかけているのだった

「何処からきたの?」と聞かれたのを端緒に
しばらく会話する
うひゃうひゃ、にこにことしていて酔ってはいるが
悪い人ではなさそうで
聞くと夜勤明けの帰宅途中
コンビニで買い物してここで飲んでいるのだとか
チューハイはもう三本目
警備員だと言った

しばらく色々と話したら
昭和40年生まれだと言うので
自分もそうだと言うと異様に喜んで
「結婚してるの?」と聞かれたので
「していたが、去年末、妻が白血病で亡くなった」と言うと
目をパチクリさせ
「人間色々あるね。」と一言
「もっと話、聞かせてよ」と言うが
長くなりそうだったので
もう行かなければならないと言って退散した

別れ際に
うひゃうひゃ、にこにこと
握手を求められたので握手して
最後に背中を優しく叩かれて
「どうか がんばってね」と言われた

初め一人静かに散歩を楽しんでいたところを
邪魔されたようで不快な気もしていたが
その時 ふと
サリンジャーの小説『フラニーとゾーイ』を思い出し
今の人が「太っちょのおばさん=キリスト」だったのかも
と思い直す

いや、缶チューハイの仏陀かな

そう思うとオセロの駒が裏返るように
気分が良くなった

空は雲一つない快晴
富士山がキレイな
十一月の川のほとりで

                                           2021.11.27

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