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災害医療への艦船活用に関する不整合性―内閣府検討会と病院船推進法―

日本航海学会『日本航海学会論文集 147巻』pp.9-23 2022年12月

要旨

 わが国政府は、災害時支援の充実を図るために艦船を活用する検討を重ねてきた。更なる有効活用を図るために、政府や自治体レベルにおいて、運用上の改良や平時から緊急時へ至る艦船活用手順の制度化が徐々に進められている。1991年から行われた政府による「病院船」保有の検討は、2021年3月に否定的な結論の報告書として公表された。報告書において検討会の有識者らは、建造、維持、運用にかかる巨費のみならず、数百名もの医療従事者の確保、数百名もの運航要員の確保、および平時の活用方策を解決目途が立たない「三つの大きな課題」として指摘した。検討会報告の僅か2か月後、国会で「病院船推進法」が成立した。同法は、検討会報告書と矛盾する条文から構成されている。このことは、災害医療に艦船を活用することにつき、技術的案件から政治的案件に移行したことを示している。本研究は、有識者検討会における議論を再考し、台船を活用することで、病院船推進法の基本理念に沿う、急性期災害医療への民間船舶活用方法を提案する。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。