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女島沖問題

 女島西方約140㎞の日本EEZ海域で海洋調査中の海上保安庁の測量船が、韓国の海上警察から韓国EEZに所在しているとして退去命令を受けた事件が報じられています。
 以前、大和堆問題に際して書きましたが、日本は海洋境界をほとんど確定していない非常に不安定な国なのです。

大和堆問題で思う
https://note.com/navigator_ysng/n/n6fab5779c82e

 外交にはいろいろな考え方(戦略)があります。
・曖昧とする
・明確にする
このどちらにも利点と欠点があります。
 日本は海洋境界については曖昧としてきました。日韓、日中、日ロ、日朝、日台いずれも海上境界は未確定です。日本は水産国としての歴史、つまり水産業の都合もあり、日本水域と相手国水域にまたがる漁業水域を設置することにメリットがあると判断してきました。EEZについては中間線論の採否以前に、日ロ間では北方四島と樺太の領土問題、日中間と日台間では尖閣諸島問題、日韓間では竹島の領土問題、日朝間では国交問題が横たわっており、結局は棚上げ=曖昧とすることで今まで来ています。

 日韓大陸棚北部協定は失効していると解されますので、女島・済州島間の海洋境界は、残されたEEZの未確定と日韓漁業協定の二つが重なっているグレーの状態です。
 問題となった場所は女島・済州島間の中間海域ですから日本も韓国も自国のEEZであると主張可能です。そもそも女島・済州島間は最短約200㎞(約108海里)しかなく、国連海洋法条約で規定されている200海里EEZ海域を双方が主張すれば手打ちするしかありません。中間線論では等距離に線を引くわけですが、国際判例の蓄積傾向としては修正中間線論がトレンドです。その場合、済州島と女島の海岸線長さを比較して中間線をずらします。済州島のほうが明らかに大きいですから中間線は女島に近寄ってくることになります。であれば日本は五島列島その他近隣の島嶼を一体として済州島に対応させる等の戦略を立てること、つまり中間線の不利な移動を防止する対抗策を検討することが考えられます。

 時代は変わります。以前は曖昧さにメリットがあったとしても現在は明確さにメリットがあるかもしれません。海洋境界はどうでしょうか。
 海洋境界をめぐる世界情勢や国家戦略は近年大きく変わったと思います。地政学という言葉が広まり、民主主義の国に向かって覇権争いや領域奪取といった時代遅れとも思える帝国主義的行動を「帝国主義から人民を解放する”人民の国”」が率先して行うという世界です。
 日本の言動を見て、それに便乗してくる国が出てくる。もう曖昧さを脱却し、明確化するべきです。

 明確に合意された海洋境界線で縁取られた日本であること、その実現に大きく舵を切ることが平和の第一歩だと信じます。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。