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南シナ海島嶼領有権問題 ー仲裁裁定が描いた地図ー

地域文化学会『地域文化研究 18号』pp.249-273 2017年3月

要旨

 国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所は、2016年7月12日、フィリピンが中国を相手取って提訴した「南シナ海島嶼領有権をめぐる条約解釈」に仲裁裁定を下した。本裁定はその後、国際判例として確定した。フィリピンの付託内容は15項目20細目あり、13項目15細目(1・2・3・5・7・8・9・10・11・12a・12b・12c・13・14d・15)が完全に認められ、2項目(4・6)は一部認められた。却下されたのは1項目3細目(14a・14b・14c)のみであり、フィリピンの勝訴と言える。
 本論は仲裁裁定の結果を地図に描くことで明瞭化したうえで次の点を指摘した。南沙諸島と中沙諸島の問題は縮減したこと。西沙諸島と東沙諸島の問題への影響が出ること。南シナ海中央部にドーナツ状公海が誕生して深海底制度が適用されるため、国際海底機構が利害関係者として参入すること。南シナ海島嶼領有権問題の当事者諸国(フィリピン・中国・台湾・マレーシア・ベトナム・ブルネイ)の間に存在する個別の境界画定問題が明確となったこと。そして、それら諸国の仲裁裁定への姿勢を確認した。一方で本仲裁裁定は国連海洋法条約における島と岩の定義について具体的な国際司法基準を示した点で画期的である。我が国への影響は極めて大きく、我が国の主張する離島島嶼の島としての立場が非常に危ういものであることが明らかになった。
 検討の結果、中国は本裁定を無視するよりも受諾したほうがはるかに大きな利益を南シナ海においてもまた我が国に対しても得ると考えられる。しかし中国が無視の姿勢を堅持する限り、我が国にとっては利益となる。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。