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ゾンビーワールドへようこそ:のび太君が男になる瞬間

『ゾンビーワールドへようこそ』という映画がある。
ショーンオブザデッド以降に続いたコメディタッチのゾンビ映画の中でもピカイチの作品だと私は思っている。
タイトルもジャケットもやる気が感じられないが、実は中身は完ぺきといっていいほどの青春映画なのだ。

映画の直接的なネタバレに触れる気はないのだがいっさいの前情報なしに映画を楽しみたい人は読まないことをおすすめする。
だが、ここでは細かい描写よりも映画のテーマとなっている部分を中心に取り上げていくので『ゾンビもの?くだらないんでしょ?』なんて思ってる方にはぜひ読んでいただきたい。
そして面白そうだなと思ったらぜひ見て欲しい。

この映画、原題を『Scouts Guide to The Zombie Apocalypse』という。
直訳するなら『ボーイスカウトがゾンビ世界をご案内』といった感じだろうか。
まぁ邦題もあながち的外れとは言えない。(ゾンビーと伸ばす言い方はあまり好きではないが)
この映画は今やすっかりジャンルとして定着した感のある『ゾンビコメディ』に『ボーイスカウト』の要素をミックスした映画だ。

主な登場人物は…
ベン:
主人公。高校一年生のボーイスカウト。草食系男子。カーターの姉ケンドルに片思い中。ちなみに演じているタイ・シェリダンくんはレディプレイヤーワンのパーシバル役のコ。
カーター:
ベンの友人。おちゃらけ担当。ボーイスカウト辞めようとベンと相談している。とにかく女の子とエッチがしたい。
オギー:
ベンの友人。おデブちゃん。ボーイスカウト大好き。ベンとカーターを誘ったのもこいつ。
スカウトの隊長:
スカウト命。カントリーシンガー大好き。いけてないおじさん。ヅラ。
デニース:
町のストリップクラブのウェイトレス。ムチムチプリンな激ヤバ美女。3バカの高校の先輩だったらしい。大人の女。

この映画には大きく分けて2つの見どころがあると思う。
1つめはボーイスカウトの知識をフルに活かしてゾンビを倒していく『スカウト魂』あふれるゾンビアクション。
普通の映画なら壊れたら諦めて捨てるようなものでもDIY精神で直してしまう。
また映画の随所で、冒険野郎マクガイバー的な『その場にあるものを組み合わせることで難所を乗り切る』といった機転をきかせるシーンが見られる。
わかりやすいのはラストバトルに向かう直前の武器制作シーン、ゾンビゲームのデッドライジングのようでなかなかかっこいい。
ボーイスカウトメンバーとして、友人としての長年の付き合いを感じられる連携力もすばらしい。
また、コメディ要素もふんだんに入っていて16歳の男の子ならではなシーンも数多くある。

2つめは青春映画としての部分。
この映画をただのゾンビコメディに終わらせず、唯一無二の素晴らしいものにしたのはここだと思っている。
高校一年生でボーイスカウトをやっているのはダサい、女にもてないと思っているカーターとベン。(おもにカーター)
それに対しスカウト大好きなオギー。
おそらく3人は小さなころからこうやってつるんでバカをやっていたんだろう。
だが楽しい時間はいつまでも続かない。
少年たちも思春期を迎え、ボーイスカウトへの意識の違いが出てくる。
3人で遊ぶのは楽しいけどボーイスカウトはダサい、女の子と遊びたいのにモテない。(そのダサいものの象徴としての隊長の描かれ方は漫画的とすら思えてなかなか滑稽である。)
こうして仲良し3人の友情にちいさな亀裂が入る。
そこでもう一人のメインキャラであるデニースの登場だ。
デニースはきっと高校時代は学園のトップアイドル的な立場にいたに違いない。
だがその彼女はベンとカーターにこう言う。
『高校時代の人気なんて、学校の外では何の意味もない。』
彼女はきっとこう言いたかったはずだ。
『一時は派手でキラキラした世界にあこがれて、長年の付き合いや友人のことをないがしろにしてしまうこともあるかもしれない。でもそんなものはまやかしでしかないし、本当に大切だったものはなんなのかは失わないと気づかない。』と。
まさにお約束のようなメッセージではあるが、彼女に言われるとぐっとくるものがある。
デニースはきっと高校時代になにか大切なものを失ってしまったのだ。
高校のアイドルも今では小さな町のしがないストリップバーのウェイトレス。
そんな彼女の言葉は彼らの胸にどのくらい響いただろうか。

この手の映画でよくあるパターンとしては、主人公青年の道しるべ・ガイド役となるのは大人の男性が多いように思う。
ゾンビランドなんかもそうだった。
だがこの映画で少年を大人の男へステップアップさせるのは大人の女性なのだ。
しかも過去に後悔を残した比較的年齢の近い大人の女性。
この映画を青春映画として成立させているのは、3人の友情やふざけあった楽しい日々の描写もさることながら彼女の存在が大きい。

そして映画はクライマックスに向け3人が『ボーイスカウトとして』大量のゾンビに立ち向かうのだ。
友情→仲たがい→やっぱり友情が大事、という青春映画や児童文学的なテンプレートにのっとった展開がこの映画のメインシナリオになっている。
だが、これがいい。
スカウト魂・DIY精神あふれる対ゾンビ武器を装備した彼ら3人はダサくも超かっこよかった。

これは少年が大人へとステップアップするときにぶつかる悩みを大人の女性の力を借りて解決し、見事に大人の男へと変わる姿を描いた青春映画の傑作である。
映画版のドラえもんやクレヨンしんちゃんのように子供が1段階ステップアップするその瞬間をしっかりと描き切っているのだ。
ゾンビのグロ描写が多少ある(頭が吹き飛んだり)のとおっぱいポロンがいくつかあるので、小さいお子さんと一緒に見るわけにはいかないかもしれないが幅広い世代の方に見て欲しい映画だ。
もし私に中学生くらいの息子がいたら2人で一緒に見たい。
ゾンビーワールドへようこそはそんな映画だ。
                          (本文以上)


※この下にちょっとだけエンディング近くのネタバレあります。











映画の最後、パーティ会場からケンドルたちを脱出させた3人が行き止まりに追い詰められ死を覚悟して自爆しようとするところがある。
この時ベンがオギーに誠意をもって謝罪し3人の絆が回復する。
ここのベンのセリフも泣けるのだが、ここで最後にボーイスカウトの決まりの掛け声『スカウトフォーエバー!』を言いながら全員手を合わせていくところがある。
この時、掛け声を言い出したのがあのカーターだったことに私は感動した。
映画冒頭ではスカウトの集まりで隊長が『スカウトフォーエバー!』と言い出し、オギーが勢いよく続き、ベンが仕方なく合わせ、最後にだるそうにカーターが『スカウトフォーエバー…』と言っていた。
それがラストシーンではカーターがその掛け声を言い出すのだ。
真に3人がひとつになった瞬間である。



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