見出し画像

念願の挿絵のお仕事!空想科学昆虫図鑑

飛び込んできた1通のメール

こんにちは。ノーチのしっぽ研究所の¥0sukeです。
久しぶりの更新になってしまいました。

ここ数ヶ月は忙しく絵を描かせてもらえて、本当にありがたく感じています。
なかなかオリジナルの新作を作れていないのが気がかりですが、毎日何かしら描いているので、体感的には毎月展示していた頃と同じくらいの生産量かも。

学生時代に絵を描き始めてからずっと、いつか自然科学系の挿絵を描きたいなあ〜と思っていました。
僕は専攻が生物学で、絵を描くのも好きだったので、両方の要素を活かせる機会を望んでいたのです。
特に絵本や児童書、教科書や資料集などに載っている絵が昔から好きで、あわよくば子供向けの教育的な挿絵を描けたらいいな〜と。

なんてことを思いながら、ちまちまと絵を描き続けていたら、ある日なんと、出版社の編集者様から1通のメールが。

(意訳)
Twitterで作品を拝見しました。
挿絵をおねがいできませんか?
小学生向けの昆虫についての本です。
ポップさとリアルさを兼ね備えたイラストを描かれる方を探していました。


子供向けの!昆虫本!
まさに、僕がやりたかったやつ!
初めての挿絵のお仕事で、いきなり夢が叶ったのです。
しかし問題もありました。
この時期は、毎日終バスまで残業、土曜日も出勤というバリバリの繁忙期(普段は会社員してます)で、制作時間を確保できるのか不安でした。
「でもこんなにありがたい機会をいただけたのに、断ったら一生後悔する!」と思い、思い切ってチャレンジすることにしました。

お話を詳しく伺うと、どうやら今回担当させていただくのは、空想科学読本シリーズで有名な、柳田理科雄先生の著書とのこと。
しかも、監修は昆虫学の権威の丸山宗利先生。
なんという超豪華タッグなのでしょう!
これは身を粉にしてでも良いものを描きあげたいと、ますますやる気がみなぎってきました。

この本は、「虫が人間サイズに巨大化したらどうなるか?」をテーマに、虫の知られざる能力を解説するというものでした。
メインターゲットは小学校低学年~中学年くらいなので、全ページにフルカラーでイラストが多数掲載されるということで、10人以上のイラストレーターさんが携わる一大企画です。

アサギマダラ

僕がまず担当したのは、アサギマダラという蝶のページ。アサギマダラは、体長5-6センチほどの小さな体ながら、渡り鳥のように海を越えて数百〜数千キロもの長距離を移動する「渡りをする蝶」です。これが人間サイズになると、大陸を横断するほどの長旅をする計算になります。
編集者様からのオーダーは、「アサギマダラが旅客機の横を並んで飛んでいて、それを見て人間が驚いている」というものでした。
普通に考えれば、飛行機を横から見て、窓の手前を蝶が飛んでいる、というのが、手っ取り早く状況が伝わる構図だと思います。しかし、今回の本のテーマは「虫が人間サイズになったら?」です。手前に蝶、奥に飛行機と人間が見えるように描いてしまうと、蝶と人間のサイズ比較がしにくくなってしまいます。
そこで、カメラ(観測者の視点)に対する蝶と飛行機の距離が同じくらいになるように画角を調整し、蝶がこちらに向かって飛んでくるかのような構図にしてみました。

画像1
ラフ画
中央やや右にある2本の縦線は、本の綴じ代(ノド)の部分の目安。ここは製本すると隠れてしまうので、重要なものはここを避けて描かなければいけないのが難しい…。


編集者の方にラフ画をチェックしていただいたところ、とても好感触な反応をいただきました。ただ、あくまで主役は蝶なので、蝶はリアルに描きこんで、人には目が行き過ぎないように注意して描き進めてほしいとのこと。
子供向けの昆虫図鑑なので、清書の際は様々な図鑑やネット上の情報を集めて、アサギマダラの特徴を正しく描写出来るように注意しました。
しかし、現実に忠実すぎても絵が固くなってしまうので、少しの嘘も混ぜています。夕焼けのシチュエーションもあって蝶の模様はかなり鮮やかめに塗りましたし、迫力を出すために実際よりも羽根の比率を大きくしました。

完成した挿絵。蝶に夕陽の光を強く当ててコントラストを高めることで視線を誘導し、人は逆に目立ちすぎないよう色味を抑えました。

シロアリの女王

次に担当したのは、シロアリの女王の挿絵。編集の方のオーダーは次のようなものでした。

・伝えたい内容は、「シロアリの女王は働きアリに比べて長寿で、人間の寿命に換算すると400年生きることになる」というもの
・江戸時代頃から生きている女王の一生を振り返れるようなイラストにしたい
・女王と記念撮影をしている人間を入れたい
・巨大化したモンスター的なグロテスクな描写にはならないよう、親しみやすいタッチに

かなり提案力が試される内容です。
悩んだ末、シロアリの女王の人生を振り返る展示会のような設定にすることにしました。
実は僕、ちょっとだけ博物館などの展示企画やデザインをやっていた経験があるので、展示会場の空間デザインごと手がけるつもりで、レイアウトを考えました。

ラフ画はこんな感じ。


テーマは、シロアリの女王生誕400年記念イベント。
女王が生まれてから現在に至るまで、社会ではいろいろなことがあり、その歴史を女王は目の当たりにしてきたのです。展示の目玉はなんと、女王様ご本人との撮影会!…
といった感じに想像を膨らませ、完成したものがこちら。

ラフ画の段階よりもかなり女王が大きくなったので、(働きアリが人間サイズになると、女王はさらに巨大になるため)少し全体のレイアウトも変わりました。
巨大昆虫の恐ろしさを感じさせない、程よくポップで楽しげな感じになったのではないでしょうか。

大事な巻頭見開き

このイラスト2点の出来栄えが編集者様のイメージに合致したのか、本において最も重要なつかみの部分、巻頭見開きページも描いて欲しいとのお話をいただきましたた。
大変光栄極まりないお話だったので、喜んで引き受けたいところだったのですが、この時点で既に忙しさはピーク。締め切りは1ヶ月後。本業が繁忙期なので、実質作業できるのは4日間のみ。なんとか時間をやりくりして、短時間で描きあげるしかありません。自分の予定を入念に確認して、出版社様にも細かなスケジュール調整をお願いして、覚悟を決めて臨みました。

巻頭がどのような内容になるのか、何ページになるのか、決まりきっていない状況でした。
方向性を決めるために、まずは編集者様とお電話で打ち合わせを行いました。一緒に頭をひねっているうちに、どのような展開で本文に繋げるか、なんとなくおぼろげな形が見え、それを絵に起こして共有し、少しずつ軌道修正していきました。

展開を検討しているところ

こうした方が読者は違和感なく設定を理解できるのでは?この展開の後にこれを持ってきた方が読者は引き込まれやすいのではないでしょうか?など、初めてページを開く子供たちのリアクションを想像しながら、たくさん提案させていただきました。
最終的に巻頭ページは4見開き分。それに加え、本文中に登場する柳田先生のキャラクターデザインと、丸山先生の似顔絵も描くことになり、とにかく必死に頭と手を動かし続けました。
そしてついに…

見開き1
見開き2
見開き3
見開き4
キャラクターデザイン
※実際の書籍に載っているデザインや本文の内容はここでは載せていません。仕上がりが気になった方は、書籍を買って読んでみてね!

いや〜それにしてもいっぱい描きましたねぇ。
日曜日や昼休みのスキマ時間を使って、1ヶ月ちょっとでなんとか描きあげることができました。よく頑張ったぞ自分。
自分で決めたスケジュールなので大変アピールしてもしょうがないですが、頑張ったことは確かなので褒められたくて…セルフ褒めしました。
とはいえ、編集者の方の迅速なレスポンスと的確な指示がなかったら絶対に間に合わなかったので、本当に感謝感謝です。

強くなりました

今回、少々スケジューリングに無茶があったものの、かなり短時間で完成まで持っていく技術が磨かれたと思います。
そしてつくづく思ったのが、最初の構想の時点でたくさん時間をかけて考えて、軸をしっかり作っておいた方が、あとで迷走せずに済み、最短で仕上げる事ができるということ。
何事もコンセプトメイクと企画が大事ですね。
それとレスの早さ。返信を後回しにするとお互いの考える時間や作業時間が減ってしまうので、忙しい時こそ即レスが大事だと学びました。仕事の本質ですね。

そしてありがたいことに、この仕事がきっかけで、次の挿絵の依頼もいただけました。
こちらも既に描き終わっているのですが、本ができあがるまでもう少しかかりそうです。皆さんにお見せできるのがとても楽しみです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
また良い報告をできたら良いです。
それでは。

Amazonリンク

空想科学昆虫図鑑 もし虫が人間の大きさだったら? 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?