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挿絵のお仕事!『大迫力!戦慄の都市伝説大百科』

こんにちは。
ノーチのしっぽ研究所です。

挿絵を担当させていただいた3冊目の書籍、朝里樹監修・えいとえふ著『大迫力!戦慄の都市伝説大百科』(西東社出版)が、11/15に発売されました。

前回の『大迫力!NEO 伝説の武器・防具・防具大図鑑』とおなじ、朝里樹さま×えいとえふさま×西東社さまという最強タッグによる児童向け図鑑、大迫力シリーズの新刊です。

前回の挿絵については以下の記事参照

続け様にお話をいただけて嬉しかったのですが、正直不安もありました。

だって、

都市伝説ぞ???

Twitterなどでホラー系が得意なイラストレーターさんをお見かけしますが、皆さん不気味な空気感を纏った絵を作られています。

僕が普段描いているのは、子供向けで明るいポップなテイストがほとんど。
まさしく都市伝説とは対局の画風といえるでしょう。

しかも、生き物のイラストを描くのとは違い、存在しないものの存在を感じさせないといけない。

これまでやってこなかった表現を多用する、かなりチャレンジングな制作になりそうでした。

モチーフ① 宇宙人アラハバキ

情報整理と戦略

まずモチーフについての情報を整理し、どのような表現をするか作戦を練ります。

ひとつめのモチーフは、東北地方を中心に、縄文時代より民間信仰された神、アラハバキです。

文字記録を残すことができない庶民による信仰だったため、古くからの神でありながら謎が多く、実は縄文時代に飛来した宇宙人だったのではないかとする説もあるそうです。

さらに、縄文人が遺した数々の土偶のなかに、遮光器土偶と呼ばれる奇妙な形の土偶があります。

出典:東京国立博物館ホームページ

大きな2つの目に、宇宙服を着ているようにも見えることから、この遮光器土偶は、縄文人達が目撃した宇宙人アラハバキをかたどっているのでは、と噂されるようになりました。

この説は偽書『東日流外三郡誌』によるもので、史実とは無関係。本書にもその旨記載あり。

その他、ご依頼の際にいただいたご要望などをまとめると、今回のミッションはこうなります。

  • 遮光器土偶をモチーフに宇宙人の姿をデザイン

  • 宇宙人の質感は土偶っぽいよりは生き物っぽい方がいい

  • 縄文人が宇宙人の飛来に驚いている

  • 宇宙人は縄文人に危害を加えず知恵を与えたというエピソードに沿うよう、恐ろしいというより神々しいイメージ

これらのご要望を叶えるための戦略を練ります。

  • シチュエーションを伝えやすくするため、空から舞い降りた宇宙人を縄文人の目線で見上げる構図。遠景にはUFOらしき浮遊物体。

  • 宇宙人は神秘的な光を放つ宇宙服を着ている。土偶に彫られた紋様に似た装飾が妖しげに光る。

  • 古代らしい文様と未来感がある電子回路的デザインを融合させ、超文明をもつことを強調する。

なんとなくイメージが固まってきました。
早速描いてみます。

ラフ

ざっくり配置して、低彩度色で明暗を決めました。

赤い線は、編集段階で文字情報などが入る場所を表します。
本を綴じる「ノド」の部分や、本文を載せる場所を考えながら構図を取るのが、本当に何回やっても難しい…
あまり背景を描き込みすぎると、文字の判読性が下がる恐れもあるので、なるべく文字スペースはベタ塗りに近い状態にします。

構図は、降臨感を出す時に定番の、逆光アオリ構図です。
宇宙人の輝きを強調するために、天気は暗めの曇り空に設定。

視線誘導のために、宇宙人の周りに余白を設け、それを取り囲むようにシルエットを配置します。

高さ方向のパース線の消失点を宇宙人と重ねることによっても視線を誘導しています。

宇宙人のデザインについては、土偶の体部分は宇宙服、顔部分は宇宙人の素顔を模していると想定し、金属光沢のある宇宙服と顔の皮膚の質感をざっくりと描き分けるように意識しました。

遮光器土偶の「遮光器」とは、氷河に住むイヌイット達のサングラスの事で、土偶の大きな目に横一文字にスリットが入った姿が似ていることから名付けられました。

ここから着想して、宇宙人の目は非常に巨大で、スリットのように細い開口部から光を受容し、像を結んでいるという設定にしてみました。

また、土偶でかたどられている姿は手足が短く球状に膨らんでいるというユニークな姿ですが、これは宇宙服自体の形状だと解釈。

宇宙人は頭部以外は気体上のエネルギー体、宇宙服はその入れ物で…
宇宙服の先端から半透明の拡張機能的な四肢を伸ばして、器用に細かい作業をすることができる…
土偶の頭にある冠っぽいものは、頭からモクモクと排出されたエネルギー体の一部で…

縄文人は宇宙人が去った後、抜け殻状態の宇宙服をモデルに土偶を作ったため、半透明の四肢部分が造形されることは無かった…

こんな妄想を展開していきながら、「宇宙人アラハバキ」という生命体のビジュアルを詰めていきました。

清書

ラフをご確認いただいて、修正点を反映させながら清書していきます。

ラフ提出時、
「都市伝説の本は全体的に暗い絵が多くなりがち。
他のイラストレーターさんの絵とのバランスを考えると、色鮮やかにしてほしい」
とのご要望をいただいたので、意識的に色数を増やしていきます。

完成したイラストの全体像はこんなかんじ。

ぼわっと光る宇宙服は、地球外の素材で作られたような鮮やかな色彩を放ち、神秘的な美しさを強調します。
オパールやビスマスのような鉱物的な輝きをイメージして塗ってみました。

宇宙服やUFOには、赤く光る集積回路のような紋様が浮かび上がっており、縄文文化の紋様はここからインスピレーションを受けたもの、という仮説を設定。

UFOのデザインは、『第9地区』に登場するUFOの形状をベースに、『スターウォーズ』『チキン・リトル』『メッセージ』など、宇宙船が登場する映画を参考にして描きました。

ちなみに、UFOの裏側の構造物は、東京のビル街の空撮写真をテクスチャとして貼ったあと加筆することで、短時間で情報量を増やしています。
デジタルならではの恩恵、ありがたい…

引き立て役である縄文人たちのビジュアルにもこだわりました。

シチュエーションが伝わるよう、前提としてひと目で縄文時代の人とわかる必要があります。
服装や髪型はもちろん、骨格や刺青などのディティールを調べあげ、「それらしく」見える要素をひとつひとつ加えていきます。
ちなみに男性が持っているのはキジです。
狩猟採集生活の貴重なタンパク源。

神秘的な存在に驚嘆し感銘を受けているという感情が表れた表情を作り、「宇宙人の侵略に怯えている」と誤認されないように調整しました。

宇宙人が放つ光が黄〜緑系なので、対極となる縄文人の影部分には補色の青〜紫系の色を使うことで、画面全体が引き締まりました。

アラハバキと驚く縄文人の表情にフォーカスを絞り、それ以外の部分はピンぼけさせました。
遠近感が出るだけでなく、自然に見せたい情報に目がいくようにする効果や、上に重なるテキストの可読性を高める効果もあります。

モチーフ②月の巨人

情報整理と戦略

続いてのモチーフは、2014年、Google Moonが捉えた画像に写り込んだ、全長数百メートルの人影らしき物体にまつわる都市伝説。

このセンセーショナルな発見は、「月面に未知の巨大生物が潜んでいるのでは?」とネットユーザーの間で話題になりました。
更には最初の撮影地点から600キロも離れた場所でも似たような人影が撮影され、単なる噂がいよいよ都市伝説となったそうです。

ご依頼内容は、月面を巨人が歩いており、遠景には地球が見えているシーンにしたいとのこと。

ここで課題となるのは、

  • 単なるシルエットでしかない巨人をどうイラストで表現するか?

  • 比較対象がない宇宙空間で、巨人の巨大さをどう伝えるか?

  • 月面から見た地球というシチュエーションをいかにして伝えるか?

  • 真っ黒な宇宙を美しく見せるには?

これらの課題を解決するための戦略を考えながら、ラフ画を描きます。

ラフ

巨人のビジュアルは、強烈な逆光の構図にすることであえてシルエットのままにして、読者の想像を掻き立てる見せ方を選択しました。

巨大さを感じさせるために、下から見上げるアオリ構図に設定し、アポロ11号の月面着陸の痕跡をサイズ比較用のオブジェクトとして巨人の足元に配置。

さらに、人間に似ているものの別の種族かもしれないと思わせるために、手を極端に大きく長くし、それを支えるために、背中と肩の筋肉をがっちりと盛り上げました。
脳の容積が小さく頭蓋骨が低いこと、尖った耳、首を前に突き出して歩く姿勢など、所々に違和感を感じるようなシルエットにしてみました。

地球はこの時点ではNASA提供の地球の写真(著作権フリー)を貼り付け、光と影を描き入れています。

清書

宇宙人アラハバキと同様に、明るさと鮮やかさをアップ。

横書きの本なので、視線は左から右に流れていきます。
パッと見で巨人の頭→タイトル→地球という順で視線を誘導できるのが理想です。
目立たせたいものを明るく、その他を暗めに描き、コントラストの差や光芒の方向を駆使して、視線の道を作り出します。

月面は本来ほとんど彩度のないモノクロの景色ですが、青い宙との対比が生まれるよう、ほんの少しだけ黄〜オレンジがかった暖色系のグレーを採用しました。
月面の地表には本物の月面写真のテクスチャを貼って情報量を増やし、さらに上から描きこみました。

背景の宇宙の方にも、月面の地平線付近に補色である紫のグラデーションを入れることで、視認性を高めています。

大きさ比較用の月面着陸の痕跡も、小さくても存在感が生まれるよう彩度を高めています。

完成!

出来上がった本はこんなかんじ。
文字も綺麗に組んでいただけて、期待以上の仕上がりになりました。
レイアウトがきちんとハマると気持ちいい!

本文の内容は、読んでからのお楽しみです。

朝里樹監修/えいとえふ著
『大迫力!戦慄の都市伝説大百科』
(西東社出版)
は、全国の書店にて好評発売中!

Amazonなどのオンラインショップでもお買い求めいただけますので、気になった方は是非読んでみてくださいね!

今回も大迫力シリーズの名に恥じず、オールカラー200ページ超え、大勢のイラストレーターさんの技術が詰まった見開きページがたっぷり掲載された超大作です。
お値段もびっくりお手頃価格…

カテゴリー的には児童書ですが、最近のインターネット発の都市伝説も掲載されていて、大人が読んでもめちゃくちゃおもしれ〜!って思いました。

むしろ、都市伝説とかバカにしているタイプの大人にこそ読んで欲しい。
今、都市伝説って、すごいことになってますよ。

1見開き1コンテンツなので、文字量も多くなく、読書が苦手な方でも気軽に楽しめる本です。

大迫力の都市伝説に、あなたも戦慄してみてはいかがでしょう?

それでは〜

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