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アマ・ダブラム紀行 第3話

カトマンズを出て6日目、ようやくエベレスト街道に合流した。今までは交易のために集落を行き来する村人とすれ違うだけの静かな山行だったが、ここからはトレッカー達が溢れ、賑やかな道を行く。荷物を運ぶ役目もロバから高所と寒さに強いヤクに変わっていき、さらにヒマラヤ深部へと足を進めていくと、まるでフィルターが取れていくように世界の色はより深く、濃くなっていった。

このキャラバンルートで最大の村、ナムチェバザールを越えると目指すアマ・ダブラムが姿を現してくる。1年前に初めて見た時と同じように美しい。だが、今度はあの山の頂を目指す、そう思うと高揚感と緊張感が同時に込み上げてきた。

そこから高所順応をしながらゆっくりと高度を上げ、さらに6日間かけて、ついにアマ・ダブラムのベースキャンプに到着した。まだ登山シーズンには早いのかベースキャンプは少しのテントが立ってるいるだけの静かな場所だった。

夕方、キッチンシェルパが入れてくれたお茶をすすりながら目の前に鎮座するアマ・ダブラムを眺めるが、山頂は霧で隠れて姿を現さない。まぁいい。これから嫌という程この山と対峙していかなくてはいけないのだ。そんなことを思いながらテントに戻って、暖かなシュラフに包まった。

翌朝、カンカンカンという音で覚めた。外に出るとベースキャンプを流れる小さな川が凍っており、シェルパの青年がそれを叩き割って氷の下を流れる水を汲んでいる。ベースキャンプとは言え標高は4600mにもなり、朝晩はこの時期でも氷点下をゆうに下回る。冷たい空には雲ひとつなく、昨日と打って変わってはっきりとアマ・ダブラムの全容が見てとれた。

頂上直下の氷壁をどう登っていくのかここからでは見当もつかない。ほとんど垂直に見える氷の絶壁を果たして自分が登ることなど出来るのだろうか。その姿を見れば見るほど不安が心に湧いてきた。

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