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アマ・ダブラム紀行 第5話

翌日、ベースキャンプを出発し、同じ道を歩いてハイキャンプ、そして、さらに上部のキャンプ1へと登っていった。前日と同様に深い呼吸を意識しながら時間をかけてゆるい傾斜を歩いていく。

ハイキャンプを超えると突如世界が変わった。ベースキャンプからは見えなかったが、その先はいくつもの氷河を抱え、さらに奥には白く美しいヒマラヤの山々が静かにたたずんでいる。

そこからはひたすら南西稜を歩いていく。歩きやすかった道も次第に岩が散乱しするガレ場に変わっていった。浮石に注意しながら歩いていくと遥か上空の稜線上にいくつかのテントがシミのようにポツリポツリと張り付いているのが見える。

ガレ場から先はロープが設置されていた。滑りやすいルンゼや傾斜の強い岩壁をロープを頼りに登っていく。標高は5500mまで上がり、激しく動くたびに呼吸は苦しくなる。深く鼻から息を吸い、しっかりと肺に酸素を届ける。足場を確かめながら時間をかけて稜線上に辿り着いた。

テントに入って熱い紅茶を飲む。高所において水は飲んで飲みすぎるということはない。水不足は血をドロドロにし、高山病や凍傷の原因になる。この標高では1日に最低でも4リットルは水を飲む必要あるのだ。

大量の雪を溶かして、お湯を沸かし、何杯もの紅茶をゆっくりと飲み込んでいく。体は疲れ果てていたが温かい飲み物が心を癒してくれた。まだ余裕はある。高度順応は今のところ上手くいっているように思えた。

夕暮れ、神秘的な景色に包まれた。キャンプ1より下で雲が広がる中、ヒマラヤの山々がその雲海を突き抜けて、それが地平線の向こうまで続いている。標高6000mを超える山が当たり前のように点在する、おそらく世界でもここでしか見られない風景に息を飲んだ。

日が沈むと一気に気温が下がっていく。夜中、寒さと空気の薄さで何度も目が覚めた。シュラフの中に入れ忘れたお湯は完全に凍りついている。トイレのため外に出ると、夜にも関わらず影ができるほど明るく、満月がアマ・ダブラム南壁を煌々と照らしていた。

僕ひとりがアマ・ダブラムと向かい合って対話しているような不思議な感覚に寒さも時間も忘れていつまでもたたずんでいた。

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