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ネイチャーノート Vol.01 土が無くとも。

軒先と聞いてどこの、どんな環境なのか思い浮かびにくいかもしれません。そこは言わば建物の屋根、その競り出た先端を指します。軒下や軒裏など類似した立地もありますが、軒先は風通しが良くて日当たりは方角により、雨によって塵すら流れていってしまうような場所です。そんな場所に生える生き物を紹介します。

ノキシノブと言い、軒先に生え土もないような場所にて忍ぶ植物であることが名前の由来です。着生植物は土がなくとも生活しているかのように言われることもありますが、正確には僅かな塵や苔類などが根域に共に居ることが多いため地上のような土壌でなくとも根の周りには何かしらが集まっていたりします。

画像の個体はとっても小さな芽吹きたての若い株で、1cmほどの全長でした。出会った場所は崩落した谷の中、渓流に横倒しとなったネムノキの幹の上です。まわりには鮮苔類やウメノキゴケの仲間らしい地衣類が着生していました。
シダ植物ですので胞子でも子孫が残り、風散布などを経てここに着いたのだろうと想像ができますが、おそらくもともと着生していたのだろうと思われる根茎が残っているため木が倒れる前からここに着いていたのでしょう。共に運命を進む母体となっているネムノキの倒木はいつか下流へ流されるであろうが懸命に育って欲しいと思います。

ノキシノブは園芸でも楽しまれる植物で、いわゆる古典園芸でも取り扱われる古くから日本で栽培されてきた生き物です。品種改良も数多く作出されておりさまざまな技を持つ株が知られます。野生化ではヤナギの葉っぱに似た細長い楕円もしくはやや先端の尖る線形をしています。改良株には獅子葉であったりトゲ葉であったりフィールドでは目にしない形質をもつので、異形差をコレクションしたくなる気持ちはよくわかります。
300年ほど前の江戸時代には品種改良が始まっていた記録があるように栽培植物としての地位を持つ植物であったことが伺えます。しかも70種を超える品種があったとされ、変異株の固定を行ってきた先人の技術や努力に敬意を払いたいです。しかし現存種は20種ほどと、絶滅してしまった品種があることが残念です。

自然界では軒先に限らず、樹上や岩上のほか地上にも根付き株立ちしている姿をよく見ます。日影でも日向でも問わず目にするので強健さがよくわかります。街路樹でも石垣でも、大層な自然へ出向かなくとも出会えますので、ノキシノブを探しに自然のなかへ出かけてみませんか。

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