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PLA造形品を「生分解」と説明するのはそろそろやめた方がいいかもという話

PLA樹脂を使ったBB弾に対し、十分な根拠もなく「生分解」などと表示販売したことが景品表示法違反にあたるとして、消費者庁が措置命令を発出し、課徴金の支払いを命じるという事案が起きました。

今回問題となったのは、「バイオ」、「生分解素材を使用」、「土の中や水中の微生物によって、地表落下後に水と二酸化炭素に分解される」などの表記です。あたかも、使用後に地表に残されたままでも土壌中や水中の微生物によって水と二酸化炭素に分解されるかのように表示されていたことが、事実とは異なると認定されました。

https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms209_240222_1.pdf

この件はすでに措置命令を受けた対応がとられており、生分解の表記を行っていた該当商品は販売中止となっています。後継となる新しい商品が出ていますが、この商品からは「生分解」という表記はなくなりました。つまり、中身は変えずにパッケージを変えて、自然環境中で分解するようなイメージはなくしたということです。Q&Aで経緯や表記についての回答も書かれています。

これは事実上、PLA製品に対して「生分解」との表記が不可だということに近いと思われます。今後PLA造形品に対して根拠なく安易に生分解という文言を使うと、同様に措置命令・課徴金となる可能性があるかもしれません。消費者庁が主に注視しているのは大規模に事業を行っている法人ですが、個人も同様の対応が求められることになるかと思います。

確かにPLA樹脂は、分類上は生分解性樹脂ではありますが、分解メカニズムはガラス転移点以上の温度に長時間保持されたときの加水分解であること、PLAの生分解を実現するための環境は主に人為的に作られたコンポストとなること、実際に自然界でPLAが分解する環境はほとんどないことについては過去にご説明してきました。

BB弾を含め、PLA製品も自然環境中に置かれると、確かにやがて劣化崩壊してボロボロにはなります。もちろんボロボロになる過程の写真も撮れるわけですが、それは生分解によるものではないということです。一般のプラスチック製品が脆くなり、割れて破片になり、マイクロプラスチックになるのと同じ話で、今回の一件も劣化崩壊が生分解によるものである証拠が示せなかったということになります。

それでもPLAは自然環境中でいくらかは分解が進むのではという期待もありますが、最近興味深い記事が報告されています。海洋流出したことを想定し、実際に生分解性プラスチックを深海を含む様々な環境に最長1年以上設置して引き揚げ、実際に分解が進んでいるか分析する実験が行われました。生分解プラ18種類中、17種類は深海でも分解が進むことが確認された一方で、残る1種類のPLAは海洋中では深度にかかわらず分解傾向がみられず、非生分解の石油系プラと同等の結果となりました。

もし仮に、PLA造形品を生分解させるためにコンポスト環境に置くとしても、一つ懸念が残ります。そのPLAフィラメントは本当に生分解する材料だけで構成されているのかということです。昔と異なり、今のPLAフィラメントは特性や造形性を高めるために様々なポリマーや添加剤が配合されています。特別に表記がなければ、生分解を意識して作られていません。もしPLAが生分解したとしても、配合されている他の成分は分解されずに残ってしまうため、造形品全体としては生分解するとは言えなくなってしまいます。

過去においては、生分解性プラスチック製品は実際に分解するのか、その生分解プラを使うことは製品の目的に合っているのかを問われることは少なかったかもしれません。ある意味、生分解プラという文言でお茶を濁しておき、環境によさそうなイメージを打ち出せばいいような一面もありました。しかし近年、海洋プラスチック問題に関するニュースが取りざたされることが増え、プラスチック製品に向けられる目も厳しくなってきています。

正直なところ、今回の一件についての措置命令と課徴金は少し行き過ぎではという気もしますが、実際に生分解ではないのに、生分解という文言の使用が容認される状況を放置すると、消費者としては何を信用してよいのかわからないという困った状況になってしまいます。消費者庁はこれを重く見たのかもしれません。将来的に海洋プラスチックゴミがさらに大きな世界的問題になった場合は、生分解プラの認証を受けてマークを表示した製品でないと、生分解という文言の使用が許可されないという形に変わっていく可能性も考えられます。

これまでにない環境意識の高まりが起きていること、3Dプリンタでは比較的容易に製品を提供できることから、そろそろ考え方をアップデートしていくべき時に来ているのではないかと思います。

ヘッダー画像 
https://www.scld.org/create-a-unique-3d-object-at-spokane-valley-library/

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