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生分解性プラスチックは環境にやさしいのか?

酸化型生分解性プラスチックを使ったレジ袋を製造している、ある海外の企業があります。この企業は酸化型生分解性プラスチックが自然界で植物の葉や枝と同じように分解されると話しています。この技術は現在、アフリカや中東地域に広がっているそうです。しかし、もし酸化型生分解性プラスチックがそれほど環境に良いものなら、なぜ欧州委員会が禁止する可能性があるのでしょうか。

oxo-statementは2017年11月にエレンマッカーサー財団のNew Plastics Economyチームによって発表された酸化型分解性プラスチックの世界的な禁止を求める声明です。ペプシコ、ユニリーバ、グリーンピース、欧州議会のメンバーを含む、世界中で150を超える組織によって支持されています。

酸化型生分解性プラスチックとはポリエチレンやポリプロピレンに酸化を促進する添加剤を混ぜ、太陽光や熱で酸化反応を起こし、ポリマーの鎖を切ってバラバラに崩壊していくタイプのプラスチックです。一見すると環境に良さそうなのですが、何がダメなのか、oxo-statementを読んでみました。

日本語として読める程度に意訳したつもりですが、もし誤訳などあればご連絡いただければ幸いです。

Oxo-statement
http://ecostandard.org/wp-content/uploads/oxo-statement.pdf

酸化型生分解性プラスチックはプラスチック汚染の解決策になりえず、循環型経済にも合致しない

近年ポリ袋を含む酸化型生分解性プラスチック包装資材がプラスチック汚染の解決策として流通しているが、これらが投棄された場合、土壌や水中環境では、無害化するのに数カ月から数年を必要とする。酸化型生分解性を示すプラスチックの大多数はマイクロプラスチックを含むような小片にはなるが、それが自然環境で生分解するために必要な時間が過大に製造業者によって誇張されている問題がある。プラスチックが崩壊してマイクロプラスチックになることで、特に海洋に対する環境リスクがもたらされることになる。酸化型生分解性プラスチックは長期的な視点に立ったリサイクルやコンポスト化、いずれにも適しない。まとめると、今日までの状況は酸化型生分解性プラスチック包装資材が2つの基本的な原則に反していることを示唆している。廃棄物処理とその汚染についての仕組み作り、製品と資源の価値を維持することである。そのため、我々は原則として市場から酸化型プラスチック包装材を禁止することを支持する。状況証拠は他の類似のプラスチック包装材にも当てはまることから、有機・無機添加剤で酸化を促進するものや酵素分解型プラスチックも含まれる。

定義
酸化型生分解性プラスチックは従来のポリマーに化学物質が添加されたものである(例:LDPE)。紫外線によって素材が酸化することで小片化を加速させる。酸化はポリマーを小片化することを可能にする。理論上は小片化は生分解のプロセスを加速させ、微生物分解により自然界に存在する二酸化炭素と水に分解するはずである。この生分解プロセスは小片のサイズ、添加剤の量、温度や生物環境にさらされる条件など様々な要因によって異なってくる。酸化型生分解性プラスチックの包装向け用途としてはレジ袋、プリスターパック、ボトル、ラベル、キャップなどがある。酸化型生分解性プラスチックと類似製品は、酸化型生分解性、光・熱分解性、酸化崩壊型、酸化促進型など様々な呼び方で流通しており、これら用語は消費者、政策担当者、企業を混乱させる。

論証
一昔前、酸化型生分解性プラスチックは土壌、海洋汚染を解決する可能性があるとして注目を集めており、いくつかの国では使用が義務付けられ、多くが市場で流通する形となった。専門家の中には酸化型生分解性プラスチックの効果についての請求点を支持する人もいる。しかし様々な分野の学者(カリフォルニア州立大学、ミシガン州立大学、ラフバラー大学など)、政府機関(国連環境計画、欧州委員会、イギリス政府など)評価機関(Organic Waste Systems社など)プラスチック業界団体、リサイクル業者(PlasticsEurope, SPI Bioplastics Council, European Plastics Convertersなど)、NPO(Sustainable Packaging Coalitionなど)、専門家らは酸化型生分解性プラスチックがプラスチック包装資材の汚染に対する解決策になりえず、長期的なリユース、リサイクル、コンポスト化いずれについても適しないという証拠を収集、提供している。

酸化型生分解性プラスチックは土壌、海洋汚染の解決策ではない。それどころかマイクロプラスチック汚染を拡大し、環境リスクを引き起こす。

酸化型生分解性プラスチックはよく生分解性であることを理由にポイ捨てについての解決策であるとして販売されている。マーケティングの文面は消費者や大衆を混乱させやすく、ポイ捨てを助長する方向に働く可能性がある。
自然環境ではこれらのゴミはマイクロプラスチックを含む小片に分解する。
マイクロプラスチックの小片は目には見えなくなるが、小片へバラバラになることと、生分解することとは本質的に異なる。研究によると自然環境がそうであるように、生分解のプロセスは多様であるため、生分解にかかる時間はしばしば示されているよりもとても長い時間がかかる。分解されるまでマイクロプラスチックは、海洋を含む自然環境に留まり続けることになる。
小片になったプラスチックは生態系のマイクロプラスチックと同じように、食物連鎖を含む生体内蓄積リスクがあり、人間の健康と環境に悪影響を及ぼす可能性がある。

酸化型生分解性プラスチックは長期間のリユース、リサイクルに適しておらず、コンポスト化にも適さない。そのため、製品や資源の価値を維持することもできない。

リユース:酸化型生分解性プラスチックは、数ヶ月または数年以内に断片化し始めるように設計されている。そのため、安定剤を添加して断片化を遅らせることができるとしても、酸化型生分解性プラスチックは長期的なリユース用途には適さない。

リサイクル:リサイクル業者は、酸化型分解性プラスチックがプラスチックリサイクルの品質や価値に悪影響を及ぼすことを広く認識しており、その使用に反対している。彼らは酸化型分解性プラスチック包装資材を従来のプラスチックから選別するのに、実用規模において現在の技術では検出することができないと報告した。リサイクルによってもともとの機能である断片化を遅らせることができるが、リサイクルにおいて長期的な視点では解決策になりえない。そのプラスチックにどの程度安定剤が含まれており、それがどの程度分解劣化しているのかを判別することは困難で、実施しようとすればリサイクルを妨げることになると予想される。

コンポスト化:酸化型分解性プラスチックは生分解に時間がかかりすぎるため、プラスチック包装材国際規格や、ISO 18606、EN 13432、ASTM D6400、AS 4736、GreenPlaなどコンポスト化によるプラスチック回収の要件を満たしていない。 プラスチック小片が堆肥に残留することが起こりえる。もし堆肥製造において酸化型生分解性プラスチックを加えた場合、堆肥の質を下げてしまい市場価値に悪影響を及ぼす。さらにプラスチックを自然環境に放出する可能性がある。そのため酸化型分解性プラスチック包装資材は堆肥に混ぜて処理するルートに乗せるべきではない。

要約すると、今日までの証拠は酸化型分解性プラスチック包装資材が循環型経済の2つの基本原則に反することを示唆している。廃棄物処理とその汚染についての仕組み作り、製品と資源の価値を維持した状態で使用すること。
さらに、埋め立てにおける酸化型分解性プラスチックの利点について主張されることがあるが、これは誤った方向への誘導である。

勧告
我々は予防の観点から、新しい技術を用いて、様々な環境におけるプラスチック片の十分な生分解を明確に確認し、短期間で粒子が生態系に蓄積しないような研究や試験が国際標準に基づく大規模で独立した第三者機関(ISO、CEN、ASTMなど)によって行われるまでは市場から酸化型分解性プラスチック包装を禁止することを支持する。証拠に基づくと、この勧告は酵素媒介の分解性プラスチックや生分解の促進が主張されている、有機・無機の類似の化学添加物を含むプラスチック包装資材にも当てはまる。

プラスチック包装資材が決して無駄にならないシステムを構築するために、
我々は、廃棄物処理とその汚染についての仕組み作り、製品と資源の価値を維持し続ける革新をサポートする。

この声明は、科学者、試験所、企業、NGOおよび業界団体との広範な協議の結果であり、以下の組織によって承認されている。
…(以下150以上の企業・団体の署名)

酸化型生分解性プラスチックは中途半端に砕けてしまい、細かな破片を環境中にバラまいてしまうことにつながることと、同じく中途半端に砕けてしまうために製品のリユースやリサイクルにおける障害になってしまうこと、
この2つからプラスチックの価値を高めることにはつながらない。ただ細かな破片に砕けるだけで、マイクロプラスチックをかえって増やしており、あまり意味はないのではないか、逆に環境に悪影響を与えているのではないかとの指摘です。

個人的には、プラスチックが環境に投棄される量が十分少なく、使い方を正しく理解して用途を限定すれば酸化型生分解プラスチックもいい側面があるのではないかと思います。でもあまり意味を理解せずに何でも添加剤を混ぜて酸化型生分解にすればいいわけではない。

近年プラスチック消費量が増えるとともに、不適切な形で投棄される量も増えてきたため、プラスチックを適切に回収することが必須になってきています。プラスチックそのものは悪者ではなく、プラスチックをどう活かして使うかが重要で、その場かぎりでなく、廃棄や循環なども含めた形でどうプラスチックを使うかを我々消費者もよく考えていく必要があるように思いました。

以下でPLA(ポリ乳酸)の生分解についても記載しています。興味があればご覧ください。

PLAの生分解性プラスチックとしての誤解http://nature3d.net/explanation/pla_notreally.html


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